文芸部と仕事部(9)
休み時間に都の教室に行くと都は芽衣子の表情を伺うような顔をしていた。
芽衣子が気づかないふりでクラスでの出来事を話すと、普通に会話に乗ってくるが、どこかわだかまるところがあるふうにする。
そんな様子のまま、昼休みになった。
弁当を取り出して都のクラスに行こうとしていると突然校内放送で
「文芸部、すぐに職員室に来い!」
と怒鳴る声が流れた。手塚の声である。
「何? 何が起きたの? 芽衣子何かしたの?」
郁奈が芽衣子の上着の裾をつかんでおびえた目で見上げる。
「わからないわ」
「落ち着いてるね」
「そうでもないのだけれど。ギシさんのところに行くね」
実際芽衣子は驚いていた。思い当たることがあるだけに手塚のところへ行くのが怖い。
急いで、隣のクラスの都のもとにかけつけた。
都は表情を硬くしていた。
「行こう、ナーさん」
「でも、ギシさん」
「大丈夫。何かの時には私が責任を取る」
そう言って都は歩き出す。頼もしい背中だった。芽衣子はその後を追った。
職員室に行くと、ちょうど生徒指導部の教師が黒メガネで長身の男子を連れて出てくるところだった。黒木である。黒木はすっかり打ちひしがれた様子だった。
しかし、芽衣子たちを見て憤然と顔を上げた。
「お前たちだな。せっかく可哀そうなお前たちを助けてやろうと思ったのに!」
と激しい口調でののしる。
「こら、やめんか!」生徒指導の教師が怒鳴った。「黒木。お前はだまっとれ!」
それからいぶかしげに芽衣子たちの方を見る。「お前ら、何か知っているのか?」
「いいえ。なにも」
都が芽衣子の前に立って強く答える。教師はそれ以上は追及しなかった。黒木を連れて生徒指導室へと入って行った。
「誰が、可哀そうだっていうのよ。他人を追いこんで勝手に憐れまないでほしいわ」
都が憤慨した口ぶりで小さく言った。
二人で職員室のドアを開けて入り、
「失礼します」
と声を上げる。
芽衣子は視線が集まるものと身構えていたが、全くそういうことはなかった。
職員室の中はいつもの穏やかな様子である。芽衣子は拍子抜けした。
そのまま、手塚の机までいく。
芽衣子は都の後ろに隠れるように立ったが、肩越しに見える手塚はいつも通りの面白くなさそうな顔に見えた。
「お前たちを呼んだのはこれだ」
そう言って三枚の紙を示す。入部届だった。一枚目は吉野弥生、二枚目は一年生の藤崎、そして三枚目は古賀みゆきとある。
「古賀会長?」
芽衣子たちは驚きの声を上げた。
「どうだ。入部を許可するか?」
「はい。よろしくお願いします」
都が間髪いれずに答えた。
「これで、五人だな」
手塚は厳しい顔のまま顔をゆがめる。どうやら、にやりと笑った顔らしい。祝福してくれているようだ。
「用はそれだけだ」手塚がそう言ってからつけ加えた。「何かクラスで変わったことはあったか?」
「いえ、なにも」
「そうか。あまり、無茶はせんでくれよ。では、行っていい」
手塚は「あまり」の後に一瞬の間をおいたが、そのまま面白くなさそうな顔に戻り、小さくうなずいて話を打ち切った。
礼を言って職員室を出ると、ドアの近くに古賀が立っていた。
「部存続、おめでとう。よろしくね」と古賀がいう。
「ありがとうございます、古賀先輩」
二人は頭を下げた。
「先輩と呼ばれるのはいいものね」
古賀はそう独り言を言ってから続けた。「でも、文芸部の仕事は手伝わないわよ」
「それで構いません」
都が即答する。
「それから、五人になったということは文芸部には部費を要求する権利が生じるけれど、会長の私を入れてぎりぎり五人という部に部費を出すのには道義上の問題があるわ」
「わかっています。要求しません」
都はためらいもなく答えた。
芽衣子は一瞬、部費があれば同人誌の印刷代が出るのにと思ったが、無理は言えない立場だと思いなおした。




