文芸部と仕事部(7)
「話というのは何?」
弥生の問いに芽衣子は「そうねえ」と言った。
「いろいろあるのだけれど、一つは弥生と藤崎君の入部届がまだ生徒会で止まっていることかしら」
「どういうこと?」
芽衣子は入部届の流れとそれが竹中の指示で差し止められた事情を説明した。
「なかなか困った教師ね。竹中先生も」
弥生が唸る。
「それだけではなくてね」
今度は「幽霊詩人の会」について説明した。黒木と文芸部の因縁や、竹中のかかわりについて説明する。その中で茶道部での出来事についても説明することになった。
「三年生を追い払うなんて、芽衣子も結構やるのね」弥生が笑う。
「笑わないでよ」
「いやいや、面白いよ。それにしても、黒木という先輩なら私のところにも来たわ」
「来たの?」
「ええ、『僕たちと詩について語り合いませんか』って、それこそお笑いよ。見る?」
弥生はスマートフォンを取り出した。
「何?」
「黒木先輩が私のために作ったという詩を撮っておいたのよ」
「見るわ」
スマホの画面に表示されたのは『あなたへ』と題した短い詩であった。
『私はあなたを三度見る
一度は素敵な顔全体を
一度は綺麗な瞳を
一度は形の良い唇を
そしてあなたのイメージを抱きしめる』
芽衣子は眉をひそめた。
「これ、三本のマッチとかいう古いフランスの詩のパクリね」
「そうなの?」
「ええ。三本のマッチを順に擦って、顔全体、瞳、唇と相手を見て、それから暗闇の中で相手を抱きしめるという内容だったわ」
「ふうん、パクリか。私も安く見られたものね」
「しかし、あの人、美人なら何でもいいのね」
「まあ、わかりやすいタイプだよね」
「あら、自分が美人ということを認めるの?」
「そりゃあ、それを使ってここまで来たからね」
弥生が胸を張る。
「日曜まで作業して頑張って、容姿まで利用して弥生は何が目的なの?」
芽衣子が尋ねると弥生は「何を当たり前のことを」という顔をした。
「よりよい人生よ。そのために情報を集めているんだから」
「図書システムを整備することが情報収集になるの?」
「先生方の信頼を得ることができるわ。信頼なくして情報はないのよ」
「じゃあ、信頼が得られたと判断したらそれ以上作業をしないということかしら?」
「それはそうよ。無駄なことをする気はないわ」
ぶれない人だ、と芽衣子は感心した。しかしこういう相手だからこそ、この相談を持ちかけるのにはうってつけだ。
「じゃあ、私が今話した情報にも対価を払うわね」
「ええ、もちろん。何が望み?」
即答である。芽衣子はその言葉をしっかりと受け止めてから口を開いた。
「弥生と情報の融通をもっと円滑に行える関係になりたいの」
「へえ?」
「私からもただで情報を流すから、弥生からもただで情報を頂戴。そして情報をお互いに、うまく役立てあうことにしない?」
「同盟ということかな?」
弥生が確かめるように尋ねる。
「戦略的互恵関係というものかもしれないわ」
芽衣子は笑って見せた。
「OK、その話乗った」
「決断早いわね」
「面白そうだからね」
芽衣子と弥生は互いの右手を握った。弥生の手はひんやりと冷たい。
「それで、私は何をしたらいいの?」
弥生が尋ねた。
「私たちは竹中先生と『幽霊詩人の会』に困っているわ」
「なるほどね。私の方では要望は今のところないかな。そのうち何かあったら言うわ」
「何かいい情報があるかしら?」
「これといって情報というものはないけど、つつけばいろいろ出そうな奴らよね。ちょっと動いてみるわ」
後のことは弥生に任せていいだろう、と芽衣子は思った。いい話が入ったらすぐ連絡をくれるように頼んで弥生と別れ、部室へ向かった。
すっかり人気のなくなった校内をいさんで部室棟へと向かった。




