文芸部と仕事部(4)
「会長さんはなぜ私たちにそういうことを教えてくれるのですか?」
芽衣子の問いに古賀はしばらく黙りこんだ後、言った。
「なぜかな」
「あの人たちの味方をするのが嫌だからではないですか?」
ふふふ、と古賀が笑う。
「そうかもね」
芽衣子はつづけて尋ねる。
「会長さんとあの人たちとはどういう関係なのですか?」
都は黙って紅茶を飲みながら芽衣子の問いの行方を見守ってくれている。
「関係ね。特にないわ。竹中先生が指示をするから私はそれに従っているだけ」
「それにしては『幽霊詩人の会』にくわしいですけれど?」
「黒木君とは同じクラスだったことがあるのよ。それと生徒会にもメンバーがいるから」
「『幽霊詩人の会』のメンバーがいるんですか?」
芽衣子は驚いた。
「ええ。書記の吉沢さんよ。あ、正式にはメンバーじゃないか。あの会は男子じゃないとメンバーにしないらしいから」
意外な話である。が、もっとも芽衣子は同じ学年なのに吉沢については詳しく知らない。知っているのはいつも笑ったような顔をしていることだけである。
「なぜ、そんな人を生徒会に入れたんですか?」
副会長と書記は当選した生徒会長が指名することになっている。
「竹中先生の推薦だったのよ」
また竹中である。よほど黒木たちと関係が深いようだ。
「吉沢さんもそうすると文芸部を乗っ取ろうしている五人の一人というわけですか?」
「それは違うと思う。あの会の周りには何人か女子がいるのよ。彼女はその一人よ」
つまりは連中にとって都合のいい人間の一人なのだ、と芽衣子は理解した。
「文芸部のことを黒木先輩がよく知っていたのはそのせいですか」
「それだけじゃないわ。吉沢さんは、部員集めの邪魔もしていたみたい」
「ひどい!」
都が叫んだ。それから頬に右手を当てて唸る。「意外なところに敵がいたなあ」
芽衣子は身を乗り出して言った。
「会長さん。なぜ、そういう人たちに好き勝手を許しているんですか?」
「なぜって、竹中先生が」
「竹中先生は会長さんを便利に使っているだけじゃないですか」
強く出る芽衣子に古賀はたじたじと言った風だ。
「でも、私が会長選に出るまえから、竹中先生は私の相談に乗ってくれていて」
「本当に相談に乗ってくれていたんですか?」
「え、ええ。私、クラス委員だったのだけど、クラスをまとめられなくて困っていたらアドバイスをくれて」
「それは教師として当たり前のことをしただけと思いますけれど?」
「当たり前?」
「そうですよ。クラスをまとめるのはもともと先生の仕事のうちでしょう?」
「そうかな」
「そうです。それを親切ごかしに恩を着せて、今や休みに連れ歩いてデートまがいのことをしているなんて教師のすることじゃありません」
半分は都の受け売りだったが、古賀には効いたようだった。
「そうなのかな」
うつむいて自問する古賀に芽衣子はもうひと押ししようと思った。
「竹中先生は好意があるように見せかけて会長さんを……」
「好意なんて!」古賀が急にさえぎった。「そんなこと、うぬぼれて、ない」
芽衣子は古賀の顔を見て深刻なものを感じた。古賀は目を見開いて表情を凍りつかせている。
「どうかしたんですか?」
「竹中には他に目当ての女性がいたんですね?」
都が鋭く切り込んでくる。古賀は小さく息をはいてからうなずいた。
「やっぱり、男の人って、そうなのよね。ああいう人には勝てない」
「誰のことですか?」
「さっき黒木君と先生が話しているのが聞こえたの。それでわかった。茶道部のことで先生が黒木君を叱りつけていたのよ。それではっきりしたの」
都の追及に古賀は明確に言わなかったが、それが誰のことなのか芽衣子にもわかった。
「長者原先輩ですね?」
都の問いに古賀は答えなかった。
芽衣子は先ほど廊下で会ったときに感じた、放っておけない感じの正体がわかった気がした。簡単に言えば、古賀は失恋したのだ。
◆
「お茶、ごちそうさま。おいしかったわ」
立ちあがろうとする古賀に芽衣子は親しみをこめて言った。
「会長さん、いえ、古賀先輩。アドレスを教えてください」
「……、いいわよ」
古賀は戸惑ったような顔をしたが椅子にすわりなおしてスマートフォンを取り出した。芽衣子とアドレス交換をする。
「私も」と、都もスマホを取り出した。
都とアドレスの交換をする古賀に芽衣子は話しかけた。
「毎日、学校のことばかりで大変ですね」
「ありがとう。でも、そうでもないわ。慣れたから」
「お休みはきちんと取った方がいいですよ」
「前にも言ったじゃない。休むと何を言われるかわからないのよ」
「誰もいいませんよ」
古賀が驚いたように顔を挙げた。
「言うわよ」
「言いません」芽衣子は自信たっぷりに主張する。「言う人がいるとして、その人たちは先輩が何をしても文句しか言わないような、つまらない人間です」
古賀は少し考えてから答えた。
「そうかもね」
「つまらない人間のために苦労することほどつまらないことはないですよ」
芽衣子は笑って見せた。
そうしながら、この考え方は何かの受け売りだなと頭のどこかで思う。田河先輩の詩だろうか。
「いいこと言うね、ナーさん」都も笑う。
「ありがとう、成田さん」古賀も笑顔になる。
三人は仲よく笑いあった。




