計略と文芸部(5)
金曜日。
朝、登校すると芽衣子たちは弥生の席におしかけた。
「何よ、二人して」
言葉とは裏腹に弥生は落ち着いた態度で二人を迎える。
「弥生、取り引きしよう」
都が単刀直入に言った。弥生がすぐに切り返す。
「私への対価は何?」
「二人で土曜日も働く」
「二人とも、今度の土曜日は土曜講座よ。放課後働かないつもりだったの?」
この高校では月二回程度、土曜日に全校生徒を対象とした補習のようなものがある。配布される主要科目のプリントをひたすら解いて正解や解説と見較べるという、教師による監督のついた自習のようなものである。
もちろん今週の土曜日が土曜講座なのは芽衣子たちも承知していた。が、それは午前中で終わるので普段なら午後から博多駅にでも遊びに出る。都は、そこを頑張って仕事をするというのを条件にしたつもりだったのだ。
「最初から、土曜日も働かせるつもりだったの?」
「そのつもりよ」
驚く芽衣子に弥生は当然だという顔をする。
芽衣子と都は顔を見合わせた。都が目で尋ねてくる。芽衣子は首を縦に振った。
「じゃあ、日曜も働くというのは?」
「よし、その条件で受けた」弥生が手を叩いた。「それで、私は何をすればいい?」
「情報処理部が何に困っているかを教えてくれないかしら」
芽衣子はかがんで、椅子に座る弥生と目の高さを揃えて尋ねた。
「ああ、あれね。でも、それだけでいいの?」
「どういうこと?」
「だって、大したことじゃないから、一日分の仕事とはつりあわないかもよ」
「とりあえず聞かせて」
芽衣子は弥生を促した。
「わかったわ」弥生はうなずく「情報処理部はね、自分たちのウェブサイトを持っているのだけど、その出来が貧相なのを気にしているのよ。それで、美術部にデザインを頼めないかと話をしたけれど、美術部は今どこだかの美術展に出品することになったとかで忙しいからって断わられたそうよ」
「おお、それはそれは」
都が芽衣子を見る。芽衣子もうなずいた。
「それなら、私がお手伝いできそうね」
「ああ、芽衣子ってウェブのデザインも出来るの?」
「ええ、まあ。専用のソフトも持っているのよ」
小さい頃に親が使っていたパソコンのウェブ開発ソフトで遊んでいるうちに覚えてしまったのだ。それで、親が用意してくれたサイトに自分のページをつくった。簡単なゲームを公開したこともある。今ではその親のパソコンが芽衣子のものになっている。
「何だ。それなら、私が情報処理部に仲介して手数料を取ればよかった」
弥生が残念がる。
「その情報は私らが買ったから、情報処理部から手数料を取るのはやめて」
都がくぎを刺した。
「わかっているわ。で、これで取り引き成立でいいの?」
「できれば、茶道部の情報も欲しいけれど、何かあるかしら?」
芽衣子の問いに弥生はしばらく考え込んだ。
「あるといえばあるかな」ようやく思いついたというように口を開く。
「どういうの?」
「部長の長者原という先輩がかなりの美人なんだけど、その人目当てに時々変な男たちが入り込んで来て困っているという話よ」
「男たちって、男子生徒なの?」
「三年生らしいわ。それ以上は知らないけど。茶道部は女子部員ばかり五人しかいないから追い返せずいるんだって」
「顧問は何やってるのよ」
都が腕組みをして言うと、弥生は首を振った。
「東坂先生なのよ」
「あー、あの」
「それはしようがないわね」
二人は納得した。東坂という教師は数学の担当だったが、四月の終わりから学校に来なくなってしまったのだ。うつ病になったらしいという噂だった。
「三年の男子かあ」
「ギシさんでも荷が重いわよねえ」
「あんたたち、相手が二年生とかだったら追い出しに行くつもりだったわね」
「まあね」
都が握りこぶしを作ってみせる。
「じゃあ、その勢いで土日も作業を頑張ってよ」
にっこりと弥生に言われて芽衣子たちは脱力した。
「ブラックな仕事に就いてしまったな、ナーさん」
「期間限定であることに感謝するしかないわね、ギシさん。」
「なによ。『勤労は楽しいな』くらい言いなさいよ」
「たのしいなあ」二人でやる気のない声を出す。
「もっと元気よく。こぶしを突き上げて」
「楽しいなあ」
芽衣子と都は小さくこぶしを挙げた。




