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仕事部!  作者: 豆ケ浦
21/42

取引をする文芸部(10)

 次の日は水曜日である。

 勧誘活動に目立った成果もないまま放課後を迎え、うつうつとした気分で図書カードの入力に取り組んでいると、白のドレスシャツにグレーのスカートの女性教師がふらふらと入ってきて、弥生を呼んでドアの外に出た。

 しばらく立ち話をしていたがその教師はそのまま行ってしまったようで、弥生だけが図書室に戻ってきた。

 弥生は自分の席に帰って作業に戻ったので、芽衣子たちはそのまま気にせず入力を続けた。それから西日が差し込むようになって、作業終了を告げに来た弥生がついでのように二人に告げた。

「変な話があるのよ」

「何かしら?」

 芽衣子が尋ねると弥生は説明に困るという顔で続けた。

「図書委員会の担当の西野先生に竹中先生が、『委員会とクラブの両立なんて無理じゃないのか』ってねじ込みに来たらしいの」

 どうやらさっきの気の弱そうな女性教師が図書委員会担当の西野先生らしい、と芽衣子は思った。

「来たかあ」都が握りこぶしを胸の前で作る。「早かったじゃない」

「なによ。生徒会と喧嘩する気なの?」

 弥生が呆れた顔をする。

「いや、そういうわけでもないのだけれど。いろいろあるの」

 芽衣子はフォローを入れた。

「それで、どういうことがあったの?」

 都が弥生を促す。

「それがね。西野先生が職員室に行ったら。ああ、あの先生は司書の先生だから普段は職員室にあまりいないのよ。そしたら、先生方が二人、言い合いをしていたんだって。一方は竹中先生で、もう一方は私たちの担任の北山先生だったそうよ。で、図書委員がどうのこうのって話になっているのが聞こえたので、西野先生はすぐに職員室を離れようとしたのね。竹中先生って委員会の関係で何かあるたびに西野先生に絡んでくるから、またとばっちりを受けるとおもったのよ」

「竹中先生って、意外とガラが悪いのね」

 芽衣子が驚きを持って感想をはさむが、都はわかっていたという顔をしている。会長に関連した話で受けた悪印象で、竹中の心根はすでに見通したということかもしれない。

「まあね。生徒の前ではいい顔をしているけど、教師の間では自分の都合ばかり通そうとするというので、あまりよく思われていないわ」

 弥生は事情通の意見を言う。

「詳しいのね」

「先生方と仲良くなっておくと、卒業生経由で入ってくる大学の情報とか色々と面白い情報が聞けるからね。そのついでに耳に入ってくるのよ」

「へえ」

 なるほど計算高い弥生らしい人間関係の作り方だと芽衣子は感心した。

「それでね」弥生が続ける。「職員室を出ようとしたところで竹中先生に呼び止められてしまったのだって。北山先生はどうしたのかと思ってみると自分の席のところでムッとした顔で立ってこちらを見ていたそうよ。で、竹中先生が言うのよ」

「何を?」

「『あなたは図書委員会をちゃんと監督出来とるんですか』って」

 弥生は竹中の物言いをまねて話したが、あまり似ていなかった。

「竹中先生が言うことじゃないよねえ」

 都が腹を立てて言う。

「でしょう。西野先生も『みんなちゃんとやっています』と言ったんだって。でも竹中先生は『どうですかね。委員の生徒が部とかけもちをしようとしているじゃないですか。委員の仕事はそんなに軽いものなんですか』と言ったそうよ」

「うわー、嫌な奴」

 都の言葉に芽衣子も眉をひそめてうなずいた。

「私は一通り、芽衣子と都と取り引きしたことを西野先生に説明しておいたから、西野先生は『委員の仕事はおろそかにしないというふうに話を聞いています』って竹中先生に反論したんだって」

「それで引き下がった?」

「いいえ」都の問いに弥生は首を左右に振ってから声をひそめて言った。「それがね。『あなたのところは委員長が女だから、統制が取れておらんのじゃないですか? だからかけもちなんて言いだすものが出るんだ』とか言ったんだって」

「なにそれ」

「ちょっと、ひどいわねえ」

 弥生につられて声のトーンを落としながら、都と芽衣子はため息をつくようにした。

「本当にひどい話よね。で、西野先生が『委員長は立派に責務を果たしています』って言い返したんだけどね」

 弥生は少し離れた場所で話をしている委員長の浜崎の方をちらちらと伺いながら小声で続ける。「竹中先生は『かけもちなんか認めるのは統制が取れていない証拠だ。今すぐかけもちは止めさせるべきだ』って迫ったんだって」

「なんなんだろう、あいつは」

 都はついに教師をあいつ呼ばわりする。結構礼儀にはきちんとしたところのある都にしては珍しい発言だ。

「それで、西野先生はどうしたの?」

 芽衣子は都の言葉をとがめずに弥生の続きを促した。芽衣子自身、かなり腹を立てていたのだ。

「うん。西野先生はね、『本人たちが委員の仕事に影響を出さないという以上は、何をするにしても本人の意思に任せるべきだと思います。私は無理に止めさせるような指導は出来ません』って言ったそうよ」

「へえ、西野先生もしっかりしてるのね」

「あの先生弱そうに見えるけどなあ」

 都も図書室によろよろと入ってきた姿を思い出したのだろう。先ほど西野が入ってきたドアの方に目をやっている。

「言う時は言う人なのよ。でも、その後言われたんですって」

「なにを?」

「『あんたは正規の教員じゃないから指導が行き届かんのだ』って。それで、西野先生はショックを受けてその場から逃げてきたんだそうよ」

「正規の教員じゃないってどういうこと?」

 都の問いに弥生は「ああ、それはね」と答える。

「西野先生は常勤講師なのよ。簡単に言えばパートなの。『司書教諭』って資格を持っているから雇われたという話よ」

「教員じゃないの?」

「教員よ。西野先生は一年生の国語を教えているわ。正規の教員との違いは採用試験を通ってはいないっていうだけよ」

「それって、そんなに違うのかしら?」芽衣子が疑問をはさむ。

「違うらしいよ。パートだから契約が一年ごとで、いつ首になるかわからないらしいし」

「西野先生の身分がどうでも、関係ないって。それで差別するような竹中が悪いよ」

 都が教師を呼び捨てにする。

「そうよね」

 芽衣子もうなずいた。竹中の言動は許しがたいものがあると芽衣子も思ったのだ。

「それでね。西野先生が言うには私にも嫌がらせを言ってくるかもしれないから気をつけた方がいいって。もちろん、そういうのは跳ね返すつもりだけどね」

 弥生も計算高いクールな彼女にしては珍しく腹を立てた顔だ。

「ありがとう。なんだかすまないね、弥生」

「気にしないで、都。こんなことで負けてられないわ。せっかく結んだ取り引きなんだから」

 都と弥生が顔を見合わせてうなずく。そんななか、芽衣子はふっと冷静になっていた。ぼんやりと考えながらつぶやく。

「でも、ギシさん、弥生。相手は正面から来るかしら?」

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