取引をする文芸部(8)
昼休み、早めに弁当を食べ終えると芽衣子は都と少し離れたクラスへと遠征した。
この学校の校舎はコの字型をしていて、一年生は南側、三年生は北側に教室があるのだが、二年生の教室はコの字の北側と南側に分かれている。
それで、芽衣子のクラスと都のクラスは南側にあるのだが、北側のクラスへ勧誘に出かけたというわけだ。
頼みは一年の時に仲のよかった奈々子という体格のいい子だ。
「よう、久しぶり」
奈々子が元気に迎えてくれる。
「どうかな。部に入ってくれそうな人いる?」
あらかじめ訪問の意図は伝えていたので、都はすぐに本題に入った。
「そうねえ。ちょっと聞いてみた感じ、いないかなあ」
「そうなんだ」
あっさり言われて都が落胆する。
「うち、理系だからねえ」
校舎のこちら側に入っている二年生は理系クラスだ。
「文芸には興味がないということかしら?」
芽衣子が尋ねると奈々子は首を振った。
「というか、数学と理科の宿題が半端ないから。部活どころじゃないって」
「名前だけ入ってもらうのでもいいのだけど」
「それもねえ。私、一年の時から料理研究同好会に入っているじゃない? それをこの前担任に、『勉強の邪魔になるようならクラブはもう辞めろ』って言われたくらいだからねえ。今から入部届を出すとなれば、かなり大変だと思うな」
「そんなに、なの?」
芽衣子はあきれた。進学校だからとはいえ、そこまでするものだろうか。
「うちの担任、『クラス全員百番以内を目指す』とか本気で言うから」
「すごいのねえ。理系クラスと言うのは成績にこだわるらしいとは聞いていたけれど」
「そういうところなのよ」
芽衣子は都と顔を見合わせた。都はすでに期待は持てないという顔になっている。
「どうする?」
奈々子に尋ねられて都が気持ちを奮い立たせるように言った。
「聞いてみようか、ナーさん」
「そうね。やるだけやろう、ギシさん」
「そういうことなら、案内するよ」
奈々子が二人の前に立って歩き出した。
◆
放課後になった。
図書室へ赴いた芽衣子たちはすでに疲れていた。昼休みに歩き回った結果、一人の入部者も獲得できなかったからである。
「なんだか気力のない顔をしているわね」
弥生が首をかしげる。
「いろいろとねえ」
都がため息をついた。
「そんな文芸部さんに朗報よ。私と藤崎くんの分の入部届が担任に受理されたわ」
「そっかあ。それはよかった」
急に都が元気になる。
「そうよ、その意気よ。あと一人なんだから元気に仕事して頂戴」
「ナーさん、頑張ろう」
「ええ、ギシさん」
芽衣子も微笑む。
「それで、今日の仕事はこれね」
輪ゴムで閉じられた図書カードの束が二つ、カウンターに置かれた。
「ちょっとこれ、多くない?」
都が恐る恐る尋ねる。
「昨日の二割増しにしておいたわ」
弥生が笑顔で恐ろしいことを告げた。
「鬼だあ」
「仕事は出来る限りの上限いっぱいにやってもらわないと」
芽衣子はカウンターに手をついてうなだれる都の背中をなでながら、図書カードの束を持ってみた。ずしりと重い。
「けっこうあるわね」
「そりゃあね。あ、それとこれ」
弥生がDVDの入ったケースを差し出す。
「これは?」
芽衣子は都の背中をなでていた手を外して、ケースを受け取った。
「例の映画のDVDよ」
持ち上げて目に近づけてみると、白っぽい半透明のケース越しに『幽霊詩人の会』とタイトルが書かれているのが読める。
「ありがとう」
「特別に貸すんだから、明日返してね」
「ええ」
芽衣子はうなずいた。




