取引をする文芸部(7)
二限目の体育は都のクラスと合同だ。
そして、都も見学だった。こういうところでもタイミングがそろうから仲が良すぎるといわれるのだろうと芽衣子は笑った。
ただ、都はそれほど重いたちではないので、軽い運動なら休まない。今日はハンドボールなのでさすがにきついと思ったのだろう。
それに都は昨日から何かをぐるぐると考えているままのようだった。言いたいことがあるのに吐き出す先がなくて落ち着かずいらいらしている。実は今朝学校に来る時もこういった状態だったのだが、その時はかまうのが面倒だったので放っていたのだ。
午前の日差しが暖かい校庭の隅に二人で座ると、芽衣子は都に水を向けてみた。
「ギシさん。会長さんのことで怒ってるの?」
「うー。ナーさん、なんて言ったらいいんだろう。怒っているというか、どうにもいらいらするというか」
「それは会長さんに?」
「いや、色々だわ」
都はこぶしを握った。
「じゃあ、まず会長さんについては?」
芽衣子が指を一本立てる。
「自分が先生に選ばれた人間だということを臆面もなく話す神経がわからない」
「それはまあ、事実だから」
「ナーさん。会長は自分が都合のいい人間だと認めているのよ。うまく教師に利用されているのがわかっているのかな」
「それは会長さんの生き方の問題だからねえ」
「それはそうだけど」
「ギシさんが怒っても仕方ないわ」芽衣子は都をなだめつつ指をもう一本立てた。「それで、次はだれなの?」
「もちろん、竹中先生よ。自分好みの生徒をたきつけてうまく会長に仕立て上げて好きなように使っているのよ。これが腹が立たずにいられるかってものよ」
「まあ、たしかに。文芸部を追いたてる話も竹中先生の策謀がありそうだしねえ」
芽衣子は昨日の古賀の表情と、先週都が会長と竹中先生が組んでいると言った話を思い出しながらあいづちを打った。
「そう、そこなのよ。会長が、自分が追い出したいわけじゃないとにおわせている以上、竹中先生の考えである可能性が高いわ」
都がよく気がついてくれた、と言わんばかりの顔で芽衣子の手を握る。芽衣子はその手を握り返しながら、一方の手で三本目の指を立てた。ここまでは予想していた。しかし都はまだ何か抱えているようである。
「それで、他には?」
都は頭をひねりながら言った。
「なんて言うんだろう。先生たち全体というかこの学校全部というか、都合のいい人間に面倒事を押しつけて自分たちは何もしないで結果を当然のもののように受け取っているという、システム全体について腹が立つのよ」
「それはまた大きく出たわねえ」
都が予想の範囲を超えてきたので芽衣子は目を丸くした。
「何とかならないものかな、ナーさん」
「何とかと言ってもねえ」
それは一介の女子高生になんとかなる範囲を超えている。いやそもそも、最初の二つにしても、芽衣子たちになんとかなるとは思えない。
「とりあえず、今は目の前のことに集中したほうがいいわね」
芽衣子は都に向かって諭すように言った。今の自分たちには優先すべき課題がある。
「部員集めかあ」
それについては芽衣子に朗報がある。弥生が入部届を持ってきた話をすると、都は笑顔になった。
「これで、あの藤崎君が入部届をちゃんと出してくれれば残り一人だね、ナーさん」
「たぶん問題ないわよ。弥生がちゃんとやってくれるわ」
「あと一人、お昼休みに聞いてまわろうよ」
都はすぐにでも動き出したそうだ。はやる手をやんわりと押さえながら、芽衣子はもう一つの報告をした。
「会長さんの警告の意味わかったわよ」
映画のタイトルであると聞いた都はきょとんとした顔になった。
「映画? なんで?」
「さあ、わからないけれど。弥生が貸してくれるって言うから、今日帰ってから一緒に見ない?」
「わかった」
都は首をかしげたままうなずいた。




