取引をする文芸部(6)
翌日はあれの日だった。
朝、芽衣子は下腹部の痛みをなだめながら教室に行くと、挨拶もそこそこに隣の席の郁奈に尋ねた。
「『幽霊詩人の会』ってしってる?」
「何それ、新手のホラー?」
「そういうのとは違うと思うけど」
やはり会長に尋ねるべきだろうかと芽衣子は思案した。しかし、会長は教えてくれるだろうか。だいたいなぜそんなことを話したのだろう。
「芽衣子、呼んでるわよ」
郁奈がつつく。見ると前の方の席で、弥生が手招きをしていた。
「行ってくるわ」
「気をつけてね」
郁奈の声を背に歩いて行く。
到着すると弥生が満面の笑みで迎えてくれた。すごく魅力的な笑顔だ。さすがに美人と噂されるだけのことはあると思う。
「昨日はお疲れ様。今日もよろしくね。それとこれ」
小さな紙を見せてくれる。上に『入部届』と印刷されており、氏名の欄に弥生の名前が書かれている。クラブ名の欄には『文芸部』とある。
芽衣子たちが待ち望んでいた紙、その一枚目だった。
「ありがとう。それ、担任にお願いするわ」
感慨を込めて言う。
「わかった」
「いろいろ言われるかもだけど」
「大丈夫よ。うまくやるわ」
そう言って紙をしまう弥生に芽衣子は尋ねてみた。
「『幽霊詩人の会』って知ってる?」
「ああ」弥生は心当たりのある顔をした。
「教えてくれない?」
「いいけど、何か見返りあるかな?」
芽衣子が口を開けて呆れた顔をしたのを見て弥生が吹きだした。
「冗談よ。昨日の働きに免じて、ただで教えてあげるわよ」
「ありがとう」
からかわれたと知って、芽衣子は少し不満を顔に出しつつ礼を言ったが、弥生には伝わらなかったようだ。弥生は気にせず説明する。
「それは古いアメリカ映画の題名よ」
「映画なの?」
芽衣子は混乱した。古賀は何故そんなものに気をつけるように言ったのだろう。
「図書室にDVDがあるから借りて行くといいわ」
弥生が図書委員らしいことを言う。が、芽衣子は引っかかった。
「え、でも、図書室は当面貸出中止なのではないの?」
「いいって、あなたたちの働きがいいから特別に貸してあげる」
ずいぶん恣意的な運用をしている、と芽衣子は思ったが弥生が珍しく見せてくれた厚意をありがたく受け入れることにした。




