追い立てられる文芸部(11)
校内に人が多くなってきていた。もうすぐ朝補習が始まる時間だ。顔見知りと何組もすれちがう。
「おはよう」
手を振って挨拶をかわしあう。
芽衣子は都が腹を立てているのに気がついた。芽衣子が無理に押し切ったのを怒っているのだろうかとも思ったが、そういうふうでもなかった。視線が芽衣子の方を向いていない。
尋ねてみることにした。こういう時、都はこちらから聞かない限り何も言わない。
「ギシさん、何を怒っているの?」
都はその言葉を待っていたと言わんばかりに答えた。
「竹中のことだよ。会長の気持ちをもてあそんで」
「でも、竹中先生は会長さんの気持ちには気づいていないんじゃない?」
芽衣子は声をひそめて聞いた。
「気づいていないわけないじゃない。いい大人だよ。それに、ショッピングモールで乗り気でない会長を雑貨屋にさそうみたいなデートじみたことをするなんて変じゃないか」
言われてみれば確かにそうだ、と芽衣子も思った。
「竹中先生は何がしたいのかしら」
「たぶん、『デートごっこ』だよ。安全な恋愛ごっこを楽しみたくて会長の気持ちを利用しているんだ」
都は憤然と断じた。都の頭の中では大人のよこしまな企みとそれの犠牲になっている女子という構図が出来あがっているのだろう。会長がそれでもいいと言うのなら横からとやかく言うことではないと芽衣子は思うが、確かにあまり気持ちのいい話ではない。
「それはひどいかな。でも、なんでギシさんが会長さんのために怒るの?」
会長は敵だったはずだ。
「なんだか、会長に同情してしまったみたい」
「ギシさん、浮気? 私というものがありながら」
「ちがうって、ナーさん」
芽衣子のからかいをあわてて都が否定する。笑いながら、敵と思えなくなっているのは自分も同じだな、と芽衣子は思った。自分たちを脅かす怖い相手というイメージだったのが、悩みを抱えた同性という共感できる存在に変わっている。
「冗談よ。会長さんのことは横に置いて、今日は部員探しに頑張らないとね」
「そうだね。そっちが大事だった」
都が気持ちを切り替えるのを見届けて、芽衣子はさっそく行き交う生徒の中から部員候補を探す作業に移った。朝補習が始まる前に一人くらいはつかまえて話を聞きたかった。




