懐かしい人々
戦火が収まった後マレリーア王国の人々は、守護神である彼等と以前炎の騎士であったアーネベルアと会う事になった。今のこの国には炎の騎士はいない。剣は未だに騎士を選んでいなかったのだが、ここでアーネベルアは思い掛け無い相手と再会をする事となる。
彼がそこで会ったのは、年老いた元将軍とその副官であった者。彼等は、アーネベルアの姿を見て驚いていた。
「べルア様?まさか?べルア様なのですか?」
掛けられた言葉に炎の精霊は、己の記憶を辿った。自分が人間として死を迎えたのが…20年前…とすると目の前の老人は…。
「エニアにファム…か?まだ存命だったんだね。」
彼の呼び掛けに老人達は、目に涙を浮かべていた。
死んだと思っていた炎の騎士が若い姿のまま生きていたのだ。ふと、その不思議に気付いた片方の老人が声を上げる。
「エニア、待ってください。べルア様がこんなに若い筈がありません。
それに…私達は、あの方の葬儀に出たではありませんか!」
言われて、はっとするエニアへアーネベルアは理由を述べた。
「今の私は人間では無いよ。
神々に御願いして、精霊として転生させて貰ったのだよ。オーガ君の事で神々が私達に恩恵を与えてくれたから、私はこうして生きている。」
言われてファムは、彼から以前より強い炎の気を感じ取った。炎の騎士としての人間では到底纏えない強い炎の気…それは、目の前の青年が精霊という事を意味する。
だが、腰にあるのは、炎の精霊剣では無く大地の精霊剣…いや、装飾が違っているのに気付いたファムは見つめていた。纏う気は大地…そして、柄に描かれている装飾で大地の剣と認識した様だ。
「べルア様、今度は…大地の剣の担い手ですか?」
「違うよ、この剣は借り物、カーシェイク様から借りた物だよ。」
告げられた言葉に、ファムは驚いていた。知の神が剣を扱うとは聞いた事も無かったのだ。その姿を見たアーネベルアは苦笑交じりで答える。
「私も、カーシェイク様が剣を扱うとは今日まで知らなかったんだよ。でも、渡されたのは事実だ。これでリシェア様を護れって、言われてね。
まあ、実際は護る事は出来無くて、共に戦っただけだけとね。」
「そうですか…大地の剣の担い手は、誰か判りませんでしたが…カーシェイク様でしたか…。」
納得した彼等へ、何時の間にか来ていたリシェアオーガが声を掛けた。
「兄上は、滅多な事では剣を扱わない。非常時に使うだけだ。
戦場で知恵だけでは如何にならない時と…私達家族を護る時位だな。」
「リシェア様、御話は御済ですか?」
精霊の言葉に頷くその姿は、以前と全く変わらない少年の姿…神としての役割を持つが故、その姿を変える事の無い彼へ二人の老人は懐かしそうに微笑む。
だが、一つだけ、彼の姿に変化があり、それを尋ねる。
「リシェア様、瞳の色が違ってますが、如何されたのですか?」
何十年も歳を重ねた為に口調が変っているエニアこと、エニアバルグへ少年は、溜息を吐きながら答える。
「はっきりと判らないが、怒りが目に出るらしい。
父上と伯父上、それと兄上にも先程指摘された。然も、今度のは戻るにも時間が掛る…面倒だがな。」
溜息を一つ吐き、以前も同じ事があったと思い出していた。あの時は、紅く染まっただけで今日の様に金色とはならなかった。そして、一日か二日で元の青に戻っていた。アーネベルアの考えを察してか、リシェアオーガが言葉を続ける。
「前は、カルダルアとフェントルが傍にいたからな…。
今は…我が神官が傍にいないし、家族だけだから…時間が掛りそうだ。」
鎮め役の神官がいないという事実は、神々の怒りが収まらない事に繋がる。神殿へ赴けば幾らか怒りは収まるが、向かう神のみに仕える神官がいれば、その怒りの収まりはより一層早くなる。
懐かしい名を聞いたアーネベルアは、その名の神官の事を尋ねた。
「リシェア様、そうおっしゃられると言う事は、彼等はもう、この世にはいないのですか?」
「ああ、カルダルアも、フェントルもいない。
だが、転生した者達なら今、ルシフで修業中だ。二人共…死を迎えた時は、人間として生まれ変わって再び私の神官になりたいと言って来た。
全く…カルディとフェンらしいが…な。」
帰って来た言葉に彼等は納得し、その行く先を微笑ましく思った。
そこへ精霊の気配が近付いて来た。光と炎の気配のする精霊…知っている気配に、この部屋いる者達は悪戯な顔をしていた。
「フレアム様ですね。
べルア様がいらっしゃると御知りになったら、どんな顔をなさるのでしょうか?」
「きっと驚かれるだろうな…。あの時、随分と気落ちしていらしたからな。
確か、その後、リシェア様に会いにこの国を出られたんだったよな。」
当時の事を思いだしながら語る老人達に、少年は精霊の消息を教えた。
「フレアムなら一時ルシフに滞在した。
その時に、他の精霊騎士達や神龍達から何か言われたらしい。その後は見分を深める為、方々を回っていたが……。」
彼等の言葉を聞いて何かを思い当たったアーネベルアは、ふと、呟いていた。
「フレアムには、悪い事をしたかもしれないね。」