剣を手に
残された他の守護神も戦況を眺め、各々が赴く先を決めていた。
そんな中、アーネベルアはもどかしさを感じた。
剣を持たないこの身では、生国であった国を護る事が出来無い。だが、再び剣を持つ事は平穏を失いかねない…そう考えていると、ここに残る神が声を掛ける。
「べルア、君は只此処で、見ているだけで良いのかい?
祖国を護りたいのでは無いのかい?それとも…今得ている平穏を護り、祖国を見捨てるのかい?」
言われた言葉にアーネベルアは瞳を閉じ、考えていた。するとそこに炎の精霊騎士が現れる。戦場を離れざる負えなかった焔の騎士に、アーネベルアは見入った。その体には微かに水の気が混ざっている。
悔しそうな顔の騎士に彼は近付き、声を掛ける。
「フルレ、体を大事にした方が良い。折角授かった子が台無しになる。
……私が代りに行こう。剣を持たなかった期間があるが、何とかなるだろう。」
アーネベルアの言葉を聞いて、驚くフルレ。
彼女の剣を取る彼にカーシェイクが駄目出しをした。
「べルア、君はその剣で行くのかい?無理だよ。その剣は君に扱えない。」
力不足と言われたと思ったアーネベルアは苦笑するが、不意にカーシェイクが大きな包みを彼に渡した。
「本当なら父上の剣か、伯父上の剣の方が、邪気に強くて良いのだろうけど、今はこれしか空いていないから貸して上げるよ。
…これで私の代わりに、リシェアを護ってくれないかな?」
言われて渡された包みを開き、アーネベルアは驚いた。
そこには紛れも無い長剣、彼が以前持っていた炎の剣と同じ大きさの緑の剣があったのだ。木々の精霊剣とも違うその剣を手にし、これが持つ圧倒的な神聖な気にアーネベルアは、まさかと思った。
「カーシェイク様、これは若しかして…。」
「そう、私の剣、大地の剣だよ。
多分この剣なら、君の力を受け止められるよ。」
微笑みながら剣の正体を告げた知の神は、序でとばかりに先程の理由を述べる。
「君は炎の剣の担い手だったから、普通の精霊剣では君の力を受け止められないんだ。君には悪いけど、炎の剣か、他の神々の剣…それが嫌なら、君専用の精霊剣を創った方が良いね。」
言われて納得し、その剣を剣帯ごと受け取る。そして、左腰に着けて真剣な目でカーシェイクに向き直った。
「炎の精霊剣士として、カーシェイク様の大地の剣を御貸り致します。
フルレ、君の代わりに、焔の騎士達とリシェア様と共に戦って来るよ。」
そう言って、彼はその場から戦場へと赴こうと己が力を使う。炎の精霊が地上に置いての移動手段、炎と炎の間を行き交う力で仲間の処へと飛んだ。
彼の姿を大地の精霊は、やはりと思いながら見送っていた。