新たな生
「フレィ、人間の…紅の騎士の魂を精霊に変える為に、力を借りるよ。
私の右手にフレィの手を置いて、私に炎の力を送って。」
命の神の言葉に少女は頷き、手を乗せ力を送る。その力を利用して、彼は人間の魂として生み出された物を精霊のそれへと変えていく。
人の姿を失くし、真っ白な球体となった青年の魂は、徐々にその色を紅色へ変え、再び人の形を取った。生前と同じ紅色の髪と紅金の瞳、そして、容姿も先程と全く変わらず、若い頃のままであった。
20代に見える魂の姿に、実体を与える少女…炎の女神。
紅蓮の炎に包まれた紅き青年の魂は、炎の体を身に纏う。
焼けるように熱い体を持て余し、青年…いや、生まれたばかりの精霊は、その場に膝を付く。
「これで転生完了~♪無事転生、おめでとう♪新しいわたしの精霊さん。
名前はどうする?」
「フレィラナア・ルシム・フレィリー様の御好きな様に…あの…体がまだ熱いのですが、如何すれば治まりますか?」
本人から正式名称で呼ばれ、名前を決めて良いと言われた少女は即答する。
「じゃあ、姿が一緒だから、バートと同じで人間の時の名前にするわ♪
アーネベルア、べルアで決定♪
体の暑さは、しばらくすると治まるからね。治まったら、他の精霊達と初会わせね♪」
嬉しそうに言う少女と未だ蹲る精霊を見て、少年が新しい精霊に近付いた。まだ力の制御が出来ていない精霊と目線を合わし、言葉を掛ける。
「べルア、そなたの力と魂が体に馴染んでいない。
フレィ、水の力なら一時的に中和してべルアの体の負担を減らせるが、遣って良いか?」
「…そうね、べルアに宿った力が思った以上に強いみたい。
リシェ、お願い出来る?」
可愛らしく首を傾げた少女に頷き、少年が精霊の手を取った。
そして、自らの内にある水の力を彼へ送る。
炎の熱と力の翻弄が注がれた水の力によって静まって行くのを、生まれたばかりの精霊は感じる。目の前の少年神は、全ての属性を持つ神龍王と言う存在でもある。
様々な属性の力を内に持つ彼だからこそ出来た芸当であり、他に出来る者は水の神とその血族、水の精霊のみ。
ここには居ない存在である為、彼が代役を買ってくれたのだ。
体の熱が落ち着き、やっと立てるようになった精霊・アーネベルアは、紅の女神・フレィリーと光の神子・リシェこと、リシェアオーガに向いた。
簡単ながらも感謝の言葉を言うと、二人とも嬉しそうに微笑む。
「これでべルアは、わたしの精霊さんね。これからもよろしくね♪」
「先程の礼は要らない。
べルアにはかなり迷惑を掛けたし、世話になったから…御相子だ。兄上達の処へ来たら……会いに行っても良い?」
「ええ、勿論ですよ。それと、この事はバートに内緒にしてくれますか?
会いに行く時に驚かせたいので。」
フレィリーの言葉とリシェアオーガの後半の御願いに、アーネベルアは普通に微笑み、更に自分の意見を言って悪戯な微笑に変える。
面白そうと思ったらしく頷くリシェアオーガとフレィリー、苦笑するキャナサだったが、アーネベルアの微笑は深まるばかりであった。
これで炎の剣の枷から逃れ、友と永い時を平穏に過ごせる…そう思うと彼の心は、暖かい物で満たされた様に感じるのだった。
炎の女神・フレィリーに引っ張られ、彼女の住まいへ連れて来られたアーネベルアは、多くの精霊達に迎えられた。
炎の精霊、風の精霊、光や闇等、彼女に仕える様々な精霊が彼を出迎え、歓迎した。特に彼と知己であるフルレと呼ばれる、焔の騎士の歓迎振りは凄かった。
「べルア、やっとこっちに来たんだ♪
で、剣は如何する?一応、精霊剣を作る予定だけど。」
彼女の言葉にアーネベルアは、申し訳無さそうに告げる。
「フルレ様には申し訳無いのですが、今は…剣を持ちたく無いのです。
友と語らい、ゆっくりと平穏を味わいたいのです。」
彼の言葉に何か思い当たったらしい焔の騎士は、機嫌を損なわず、反対に労いの言葉を掛ける。
「…そっか、リシェア様の事で大変だったもんね。
それじゃあ、剣を持ちたくないよね。
まあ、その気になったらあたし等に言ってね。何時でも気に入った剣をその手に出来る様、用意しておくから。」
全く剣を取らない事を想定していない言葉に苦笑しながら、その時はお願いしますと彼は答える。
人間として生を終えた日に炎の騎士から炎の精霊となったアーネベルアは、彼等から精霊として必要な事を学び、その身に着けて行った。