闇の精霊剣士と精霊騎士
光の騎士の腕の中で大人しくなった少年神・リシェアオーガは、彼等の戦いを無言で傍観していた。その瞳は厳しく、少しでも相手が卑怯な真似をしようものなら己の力の駆使を厭わないと感じた。
レナフレアムが見た事の無いリシェアオーガの姿に、彼の心は揺れ動く。
先程、共に敵を制した時も言いようの無い高揚感に満たされ、一緒に戦える事に喜びをも感じた。
だが、迷いはある。
力の弱い自分では、目の前の神に迷惑を掛けるのでは無いのかと。
レナフレアムがそう考えている内に闇の精霊同士の戦いは終わりを告げる。精霊騎士最強のアレストでは、その力の差は天と地程も有り過ぎるのだ。
辛うじて死んでいない状態にしたアレストがリシェアオーガへ話し掛ける。
「リシェア様、後、宜しく、お願い、します。」
そう言うと後ろへ下がり、代わりに光の騎士の腕から離されたリシェアオーガがレストレームの前に出た。
「くそっ…何で…闇の騎士が…出てくる…んだ…。
光の神子…なんて…オレ達の…敵…だろう…。」
息も絶え絶えの闇の剣士の言葉に、光の神子は大きな溜息と共に真実を吐き出す。
「アレィは、我の保護者の様な存在だ。
それに闇と光は敵では無い、魅かれ合う仲間同士だ。そなたの考えは間違っている。
…判らぬか?光の神子である我の中に闇がある事が…。」
告げられた言葉にレストレームは驚き、その気配を探る。龍のそれには様々な属性が共存し、お互いを補っている。勿論その中には闇も光もある。
共に力を合わせて更に強くなっている事を知り、驚愕をする。
「な…んで…こんな…。」
「答えは簡単だ。我は光の神子であると同時に、神龍の王であるからな。」
返された言葉に闇の剣士は、少年を見つめた。
神龍の王…様々な属性を持つと言われる幻の存在…未だ、出現していない者だと思っていた存在が目の前にいる…。
馬鹿なと否定の言葉を言おうとするが、少年の姿にその証を見つけてしまった。
服装に描かれている銀色の龍、右薬指にある双頭の銀蛇、そして……右腰にある様々な神龍が描かれている剣……。
疑う余地の無いその姿に闇の剣士は高笑いを始める。
「とんだ茶番だ…。
神龍の王相手に戦ったのか…ならばオレ達、邪気を取り込んだ闇の精霊が敵う訳ない…。リシェアとか言ったな、一思いに殺せ!そうすれば…」
「新たな力を得て我等を倒すと?ふっ、そんな事はさせるか。
我がそなたを殺す事は、肉体だけを滅ぼす事では無い。魂諸共消えてなくなるのだ。」
そう告げて自らの力を解放する。
剣で無に帰す事も出来たが、敢えて自らの力を曝け出す。
「罰を受けたにも係わらず、罪の償いもしないで更なる邪気を纏うのならば、その存在すら許す事は出来無い。
故に我からの罰は、己の消え行く様をじっくりと味わう事だ。」
剣では出来無い緩やかな還元を、リシェアオーガは施す。
始めに四肢の先端が消え、それが徐々に頭の方へと向かって行く様にレストレームは恐怖した。目の前の神龍王…いや、新しい神からの罰の厳しさに恐れ戦く。
だか、狂う事は許されず、正気のままで恐怖に晒される。
無論、助けは無い。
冷たい視線を投げ掛けるリシェアオーガと、その罰を当たり前のように受け止めている大地の騎士と緑の騎士、風の神龍。
そして…厳しい顔の光の騎士とリシェアオーガと同じく冷たい視線の闇の騎士。
彼等の様子をレナフレアムは、不思議な事だと思わなかった。
邪気に対して神々の慈悲は無い。
その存在自体を消すのが守護神たる神々の成す事。
一瞬で滅するには目の前の闇の剣士は罪深く、愚か過ぎた。故に罰としての恐怖を味合わせ、その許せぬ存在を消したのだ。
闇の剣士が跡形も無く消えた頃、リシェアオーガは大きな溜息を吐いた。
「アレスト、あれで気が済んだか?」
彼の言葉に頷いた闇の騎士が口を開く。
「リシェア様、自分、あれには、為りたく、無い。自分、聖なる、闇。邪気では、無い。」
闇の騎士の懇願に似た叫びに少年神は即答をする。
「当たり前だ!アレィは、あれと違い聖なる闇だ。この先もずっとそうだ!!
……アレィ、そんなに心配なら、後で伯母上の御許しを貰って良い物を上げるよ。」
そう言って微笑む姿は以前の彼と同じ。
戦いが終わった事を告げるそれは、騎士達に安堵の気持ちを齎した。