表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/18

元祖父と孫

 突然、開いたままだった扉から、熟年の男性の声がした。

振り向くとそこには、紅の髪と紅金の瞳の男性が立っていた。彼は、自分と同じ色合いの精霊を見つけて驚いていたようだ。

アーネベルアの方も男性を見つめ、無言になった。自分と同じ色合いの、人間の時の己が孫を思い出したのだ。

そして、ぽそりとその名を呟く。

「…アルベルト…」

呟きが聞こえた男性は、怪訝そうな顔をしながらアーネベルアの方を向き、その顔を確かめながら返す。

「初めまして、炎の精霊殿とお見受けします…が、何故、私の名を知っているのですか?

 ……………?御爺様?…………ああああ~!!!何故?御爺様が若返って、生き返っているんですか???

そう言えば、あの時、こちらの方も一緒で…御爺様も若返って????」

目に見えて混乱している男性に、リシェアオーガも何かを確認したらしい。

「そなた、あの時べルアの魂の姿を見た者だな?

まあ、身内なれば混乱も致したか無いな。

今のべルアは、精霊として転生している。炎の神の希望で人間の時と同じ姿になっている。」

声を掛けられた本人は、その主を目に捉えて言われた事を復唱する。

「精霊に転生ですか?あ……その服装は…リシェアオーガ様?!……し・知らぬとはいえ、あの時は無礼を致しました~~。」

元孫が声の主が何者かである事を悟り、その慌てっ振りにアーネベルアは頭を抱えて言葉の一撃を食らわせた。

「アル…君は、もう少し落ち着きを養えって、何時も言っていただろう。

未だにそんなんじゃあ、先が思いやられるよ。もっと周りを見る目を養うんだよ。」

祖父であった精霊の言葉にアルベルトは一瞬にして、落胆した顔になる。中々治らないこれは彼の父親譲りであり、祖母の性格でもあった。

しかし、父親の方はしっかりとその性格を制し、祖父のそれに近くなっている。目の前の本人は努力の跡が見えるが、如何せん以前と変わらないようにも見える。

アーネベルアは、我が子であり、アルベルトの父親であるアルファリートの性格が一変した出来事を思い出し、ある事を尋ねた。

「アルは、今、結婚相手はいるのかい?」

唐突に尋ねられた彼は、キョトンとして首を横に振る。その姿に苦笑した老人達が話し出す。

「アルは、まだ未婚ですよ。然も、気に入ったお嬢様もいないようです。」

「己を売り込むお嬢様方は沢山いるのですが、アルの方が彼女達を避けていますよ。

まあ、理想だけは高いようですね。」

「アルにも、理想があるんだね…。で、どんな御嬢さんかな?」

老人達の話に悪乗りしたアーネベルアにアルベルトは俯き、言い難そうに口をモゴモゴするだけだった。そんな彼の代弁をファムトリア老が笑いながら始める。

「金髪の少女らしいですよ。何でも、御爺様が死ぬ間際に見掛けたようです。」

「…?私の死ぬ間際?」

聞こえた言葉に、その視線を傍にいる少年へ向ける。少年も何か気付いたらしく溜息を吐く。

「……アルベルトだったな。その理想の少女って…私の事か?」

率直な意見で指摘された本人は、顔を上げて戸惑いがちに彼を見る。確かめるような視線を向け、確信した様に頷いた孫へアーネベルアの鉄拳が下った。

「因りによって、リシェア様に懸想するとは…。

気持ちは判らなくもないが、報われない想いと判っているのかい?」

「判っています。あの時はリシェアオーガ様とは知りませんでしたけど、判った後はリシェアオーガ様みたいな女性がいたら…って、思っています。

ですが…未だに見つかりませんし…本人を前にすると…駄目ですね…。」

溜息交じりで言われ、苦笑する周りを余所にリシェアオーガが彼に尋ねた。

「アルは、心に決めた主を持っているのか?」

「本来なら、陛下や殿下が主だと言いたい所ですが、未だ見い出せていません。

だから、エニア様やファム様に良く突っ突かれるんですよ。」

リシェアオーガの質問に、素直に答えるアルベルトへアーネベルアの突っ込みが入る。

「騎士たる者が主を見出せなくて、如何する!…か?」

「はい、御爺様。」

祖父に言われ、首を垂れるその孫。

その様子にリシェアオーガが真剣な眼差しを送る。何かを探るような視線で彼を見つめ、納得した様に再び質問をする。

「アル、そなたが我に感じている感情は、本当に恋愛のそれなのか?」

言われて、はっとしたアルベルトは考え込んだ。あの時は何故か男装の少女と思った為、理想の女性と恋い焦がれていた。

両方の性を持つ神と知った後に、今、彼が追い求めていた本人を目の前にして感じる事は……傍にいたいという事。

目の前の神の傍を求める…その感情がアルベルトに行動を起こさせた。跪き、神と主に捧げる騎士としての最敬礼。そして、告げる言葉。

『我が不変の忠誠を貴方へ。その証に、この剣を捧げます。』

自らの剣を両手に掲げ、リシェアオーガに差し出して告げられた言霊。それにリシェアオーガは反応し、声を掛ける。

「アル、その言葉を我に告げるという事は、この国と己が家を離れる事に繋がるぞ。

それで良いのか?」

「国の方は後を任せられる者がいますし、家は既に弟が後を継いでいます。

まあ、御爺様の遺言に背く事にはなりますが…私の騎士としての心は、貴方を主として求めています。」

返った返事にリシェアオーガは、ちらりと炎の精霊を見る。孫の選んだ事に頭を抱えながら見ている炎の精霊は、その視線に気付いて頷いて彼へ向けて口を開く。

「アル…私の遺言は半分無効にするよ。

クリエが家を継いだのなら、家族はあの子に任せればいい。

騎士が主を見出せたなら仕方無いしね。それにリシェア様の傍なら、家族を含めた世界を護るという事に繋がるから、私の遺言の半分は有効だよ。」

皆を宜しくと言った遺言に、家を継ぐ事と家族を護る事を含めていた事をアーネベルアが告げるとリシェアオーガが動いた。

アルベルトの前に進み、掲げられた剣に左腕を置く。そして、返すべき言葉を綴る。

「『アルベルト・フェルナディール・コーネルト。

我、ファムエリシル・リュージェ・ルシム・リシェアオーガは、そなたの剣と志をしかと受け止めた。

騎士として、その生命が果てるまで我が傍で仕えよ。』

…アル、この国での雑務を終えてから、我が許へ来るが良い。ルシフへ向かえば連絡は付く。」

「承知いたしました、我が主。…?

御爺様、何か他に言いたい事が御有りですか?」

主従の誓いが終って顔を上げたアルベルトは、祖父であったアーネベルアの視線に気付いて尋ねる。炎の精霊は溜息を吐き、彼が知らない事実を教えた。

「…血は、争えなかったみたいだね。撚りによって君まで、リシェア様に仕えるとは…ね。」

「え…?という事は…御爺様は、リシェア様の精霊騎士なのですか?!」

驚いて質問をするアルベルトにアーネベルアは頷き、言葉を返す。

「私の剣が出来たら、誓いをする予定だよ。勿論、リシェア様からは既に了承を頂いている。

…だからアル…同じ神に仕えて同僚になる私を、【御爺様】って呼ぶのだけは止めてくれないかな?」

「無理です。今は精霊であっても以前の貴方は私の祖父です。

姿と名前が同じならば、余計に呼び名を変えられません。」

即答で断言され、苦笑するアーネベルアに周りの者の笑いを誘った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ