第4話…仮本
ギャイン!キン!ギャリリリ!!
火花を散らしながら刀とチェーンソーがぶつかる。
「ねぇ剣士さん?
チェーンソーと刀の違い、分かる?」
不意にニスがKに語りかけた。
「斬れたときの威力」
「半分正解かしら?
正解はね?刃の数。
このチェーンソーには一つ一つは威力の低い小さな刃が何個も付いてる。
つまり、あなたの刀は私の一撃を食らうごとに、何百回も刃の打ち合いをしてる事になるのよ」
「だから?」
「んんん〜あなたの刀、私のチェーンソーとあと何回か打ち合ったら、お終いよ?」
それはKも気付いていた。
チェーンソーの重量から来る一撃の重さ、
そして
今ニスが説明した理由。
「やっぱり、もしもの為に持ってきてて良かったぜ…」
Kが腰に下げた独特の形のカバンに少し目を向け左手を入れた。
「よそ見?」
「!?」
「け、K!!!」
Kの目の前には既にチェーンソーの刃が迫っていた。
*
「あーはっはっはっはっ!!口ほどにも無いわね!!図書館の人間が聞いて呆れるわ!!」
部屋の隅で見守っていた沙奈は呆然とし、
ティーをすする紳士は、少し眉間にシワを寄せた。
「さぁて、次はそこの女かしら?
ヤサ男、あんたは最後よ」
ニスはチェーンソーのエンジンをさらにふかした。
「ヤサ男が最後でも良いけど、最初のヤツをしっかり殺れよな?」
刀の横一閃がニスの背中を走った。
「がぁ!???
な、に!?」
ふらつきながら、ニスは振り向いた。
そこには
一切無傷のKが刀の刃こぼれを注視していた。
「やっぱ、全然違うなぁ………チェーンソーと、「肉」じゃぁさ?」
Kの紅い瞳がボゥっと淡く光っているように見えた。
「あ、あんたはたった今チェーンソーで真っ二つに…!?」
「されてないけど?」
「そんな、わけ……あるかぁ!!!!」
ニスは高々とチェーンソーを振り上げ、Kを左肩から袈裟斬りに
*
した後だった。
「あ……あれ?」
ニスは困惑していた。
自分はチェーンソーを振り下ろそうとした瞬間、
既に振り下ろした後だったのだ。
「何が起こってるの?」
沙奈の問いかけに、男はティーを持った手を止めたまま黙って首を横に振った。
「お前、図書館の人間が製本作る時に最も苦労した物語って、何か知ってるか?」
不意にKはその場の全員に目を向けながら言った。
そして最後にもう一度ニスと目を合わせ、カバンから一冊の本を取り出した。
「コレだよ」
「………不思議の国の…アリス?」
「そう。
この物語、闇の存在とも光の存在ともハッキリ断定できない、言わばグレーの存在がいっぱい出てくる上に、どの存在も確固たる強い自我を持ってた。
具現化した物語の中で最多数の存在が具現化したらしい。
けど、製本にした今、こいつらはものすごく心強い味方なんだよ。
それに、俺の相棒達でもある」
「だから、なんだってのよ!!」
背中の傷を癒したニスはもう一度エンジンをふかした。
「俺たち図書委員の中でも、添削班はとても特殊な権利を持ってるんだ。
それはなんだと思う?
はい、そこの「ヤナ男」答えてみ?」
ヤナ男と呼ばれた男はティーの香りを嗅いだ後答えた。
「物語をもう一度具現化する…とかかな?」
「ま、そんなとこだね」
それを聞いてニスは顔色を変えた。
「まさか?!」
「今呼び出したのは、こいつさ」
Kの足の陰から、時計を持ち、城の大臣のような格好をしたウサギが顔を出した。
「なぁカイル?初の実戦で最初が僕のなのですか?」
「ま、君の能力が役立ってるからね?」
Kはウサギにカイルと呼ばれている事に沙奈はキョトンとしたが、
すぐに「いやそこじゃない!」と自分に心でツッコミを入れていた。
「彼は「白ウサギ」。彼の持つ「ウサギの時計」はとても面白い能力があってねぇ……」
Kがそこまで喋った時だった。
業を煮やしたニスが、もう一度斬りかかったのだ。
「ごちゃごちゃ説明が長いんだよ!!!」
ニスはチェーンソーをKの右横腹から一閃に
*
振り抜いた後だった。
「ま、また…!?
………!?」
「説明は聞いた方が良いぜ?
まぁ今ので説明要らなくなったけどね。
ウサギの時計の能力…それは「行動を一つ飛ばす」んだよ。
つまり、アンタが俺を斬ろうとする。
すると、
「斬る」
とゆう行動と飛ばして
「斬った」
とゆう行動になるわけだ。
「斬る」行動はしてないから
「斬った」行動をしても、僕は無傷。
こういう仕組み」
「こ……のぉ!!!」
「ただ、そんな事続けただけじゃアンタは倒せないし……ある程度抵抗力削らなきゃねぇ………」
「もしかしてカイル、女王様を?」
「あぁ、そうだな、女王が適任だな」
そう言うと、Kは持っていた本を開いた。
すると、白ウサギは光の粒となって本に吸い込まれ、続けざまに光の粒が本から飛び出し、光の粒はKの横で赤いドレスを着た女性になった。
「あらカイル。やっとその綺麗な赤ぁぁい瞳を携えた頭、私に差し出してくれるのかしら?」
「いやそれはもうちょっと待ってよ」
「ちよっとぉ??どれくらい?」
「100年くらい?」
「100年んんんんん!?………わかったわ!!」
「「100年待つんだ。」」
「ヤナ男」と沙奈は同じ事を思った。
「ところで「赤の女王様」。そんな予約済みの僕の頭、この目の前のチェーンソー女が横取りしようとしてるんですよ」
「なんですって!?」
「赤の女王様」はニスにキッと顔を向け睨んだ。
「そこの娼婦!どこの者かは存ぜぬが、カイルの頭は私!「赤の女王」が既に予約済みである!速やかに諦めて首を差し出せ!
さもなくば、今すぐ首を落としてやる!!」
「「いやどっちも首切られてる!?」」
「ヤナ男」と沙奈は同じ事を思った。
「私は娼婦じゃないわ!殺人鬼よ!!
あんたもその大好きな首だけの状態にしてやるわ!!」
「殺人鬼ですってぇ…!?裁判にかけるまでもない!処刑よ!打ち首よ!!!
カイル!!!」
女王がKを呼ぶと、Kはため息を一つこぼし、女王の手を取った。
「私の力で、其方も首にしてやろう!」
そう言うと、女王の姿が光に包まれ、一瞬の後に、巨大な斧に姿を変えた。
「さて、やっと女王様もお静かになりましたし?
第二ラウンドと行こうか、殺人鬼が」
「望むところよ!!」
ニスはチェーンソーをけたたましくふかし、Kに切りかかった。
Kはそれを身軽に避けると、ニスの左脚を斧で切りつけた。
が、斧の刃は左脚をすり抜けるだけだった。
「は!そんな変な斧!
脚をすり抜けただけじゃ…ゴプォ!!」
ニスが大量の血を口から吐いた後、首から勢いよく血が噴き出した。
ニスは慌てて手で傷口を押さえたが、指の隙間からはまだ血が噴いていた。
「ヒュー…な、んなの!?ヒュー……次は、いった、いヒュー…!!??」
「いやぁ、説明嫌いっぽかったから言わなかったんだけどね?聞く?」
Kはニヤリと口元だけ笑ってニスを見た。
ニスの方は、またもすぐに首の傷を癒していた。
「聞いたところで、この部屋にはそこの女が出した想像力が………!?」
そこでニスはハッとした。
想像力が減っている。
むしろ今の致命傷を癒すために使った想像力で、かなり減った。
ニスは沙奈を睨んだ。
先ほどから
既に沙奈の中に恐怖は無かった。
つまり、
恐怖心が駆り立てる無駄に大量の想像力は、一切排出されなくなっていた。
「今頃気づいた?
そんな傷を癒すのも一苦労になってきた殺人鬼さんに、良い事教えてあげる。
この「女王のギロチン」ってゆう斧は、すごく残忍でね?
もぅ本当女王様そのものなわけ。
つまり、どこを斬っても、
そのダメージや傷は「首」に現れるんだよ。
今左脚を斬ったのに首から血が出たのは、そーゆー仕組み……だから」
Kは一気にニスに距離を詰めた。
「気をつけてね?」
「こ、のぉ鬼がぁぁぁああああ!!!」
Kが斧の刃を90度回転させ、その広い面でニスの左半身を渾身の力で打ちつけた。
バシィ!!!
ゴキバキ、ボキ!!!
「んガバハぁ…ガ!!!????」
「補足1。刃だとすり抜けるけど、面だとすり抜け無いんだよね、コレ。
でも、ダメージは首だから」
その時ニスの首の骨は、描写するのも引くほど凄惨な状態になった。
ニスは先ほどより盛大に血を吐きながら、大量に並べられていた部屋のマネキンに突っ込んでいった。
長年放置されていたせいで積もっていた粉塵が立ち登り、視界を遮る。
視界が晴れるとそこには、
マネキンの山の中にグッタリと倒れ口から血を流して気絶している、小学生のような姿に戻った殺人鬼が横たわっていた。
「お見事、だね。図書館の青年よ。
カイルくん、だったかな?」
「…あぁ」
「ただ一つ言うことがあるとすれば………
折角の素晴らしい茶葉で淹れたティーが、埃でダメになってしまった事かな?」
「…また淹れりゃいいだろうが。
おい。ゴッドツリー。こっからはアンタの仕事だろ。さっさと仮本にしな」
「あ!そうだった!!!!……ってその呼び方やめて!!」
沙奈は急いでカバンから、透明の液体が入った瓶を取り出した。
そして、殺人鬼、ニスの前に行くと瓶の蓋を開けた。
すると、ニスの体が光り、瓶に吸い込まれていった。
瓶の中の液体は先ほどの透明から少しずつ黒さを増していき、暗い灰色になった。
「あとはアンタだよ、「ヤナ男」。」
Kはカップに新しくティーを注いでる男に声をかけた。
「ふむ。この一杯は、飲んでもいいかな?」
「好きにしな…」
Kは続けて斧から手を離した。
すると、斧「女王のギロチン」は元の「赤の女王様」に戻った。
「まったく。あのような不届き者、完全に首を落とした方が良いんじゃ無いかしら?」
「まぁ仕事だからな。それに本気で殺すとなりゃそれは完全に消える時だし、それをするのは「添削班」じゃなくて「棄却班」だ。
さ、女王もそろそろ帰りな」
「はぁ、理解に苦しむわ。
次に呼ぶ時は首を差し出す時にしなさいよね!
まぁ…今回のような横取りしようとする者が出た時なら、手を貸してあげる」
そう言って赤の女王もKの持つ「不思議の国のアリス」の本に吸い込まれていった。
「さて、そろそろお別れかな?
いやぁ、具現化してすぐこんな面白い者が観れるとは思っていなかったよ」
「あ、あのぉ」
ティーを飲み終えた男に、沙奈が声をかけた。
「ホントに、さっきは失礼しました…あんなに怖がってしまって……」
「いや、そんな事は些細な問題だ。気にするほど私の心は狭く無いからね」
男は優しく微笑んだ。
「あ、最後になっちゃったんですけど……お名前、教えてくれないですか?」
「名前かい?
ジュヌスィパ…………」
Kが男をギッと睨みつけた。
「……と言ったら、カイルくんに殺られてしまうね。
私の名前は、
シャーロット・ホームズ。
この物語では、かの有名なシャーロック・ホームズの孫とゆう設定になっているよ。
作者は偉くシャーロック・ホームズの、ファンでね?
アルセーヌ・ルパンの孫が活躍するあるマンガを元に、シャーロック・ホームズの孫である私とゆう存在を生み出したのだ。
そのおかげか、
私も人よりは幾分か頭が良い事になった。
さて、自己紹介はこれくらいで良いかな?」
「あ、ありがとうございます!!」
シャーロットは次にKを向いた。
「カイルくん。
とてもワガママなお願いなんだが、私はこのティーが気に入ってしまった。
時々、飲ませてはくれないかい?」
「ちょいちょい具現化しろって?」
「そう言うことだ。
ま、たまには仕事も手伝ってあげよう。
私は本として活字に戻りたいが、時には息抜きも必要だろう?」
Kは一つため息をした。
「はぁ…アンタのその態度がホントに嫌なんだけどな………考えててやる」
「ありがとう。
では、そろそろ活字に戻るかな」
シャーロットがそう言うと、沙奈は一礼して瓶の蓋を開けた。
瓶の中の液体は、完全に真っ黒なインクのようになっていた。
沙奈は、大きな真っ白い羽をしたためた専用のペンを取り出し、インクに浸した。
インクはみるみる内にペンに吸い込まれ空になり、対してペンに着いた真っ白な羽根部分はみるみる黒くなった。
次に沙奈が取り出したのは、専用の羊皮紙だった。
この羊皮紙は、図書館が開発した特殊仕様の物で、
枚数を重ねる事で、物語を封印する力が累乗されていく仕組みになっている。
沙奈は、インクを全て吸った羽根ペンを羊皮紙に滑らせていく。
羊皮紙に描かれるのは直線…ではない。
と言うより、描かれた直線は自ら字の形を作り、自ら連なり単語になり、自ら繋がり文章となっていった。
そして、羊皮紙に字が入りきらなくなると、別の羊皮紙へと移行した。
約10分程この行程を続けた頃には、羽根ペンの羽根は元の純白に戻り、物語は
俗に言う「仮本」の形となっていた。
「よし!!最初の任務しゅうりょっ!!!」
「まぁほとんど俺が頑張ったようなもんだけどな」
その通りである。
今回は殺人鬼とゆう分かりやすい暴れ馬と戦うことになりはしたが、
通常はここまで激しい戦闘は無いものである。
沙奈が発した「恐怖心からの想像力」が闇の存在である殺人鬼をパワーアップさせたのも要因の一つである。
「で、でも仕事は一つ片付いたから結果オーライ的な!!」
「俺が本の貸し出し申請出してなかったらどーしたよ?
俺かなり序盤でグロテスクパーティ開くことになってたぞ」
「ごめんなさい……」
取材班の仕事は本来ここまでである。
その後、出来た仮本は図書館に持ち帰り
「製本班」に渡す。
そこで「製本班」が仮本を製本にし、物語の封印は完全に完了するのである。
しかし、今回
沙奈達はもう一つの任務があるのだ。
沙奈とKは、まさかもう一つの任務が
この後2人どころか図書館をも巻き込む大きな事件につながる事を、
今の時点で知る由も無いのであった…。
「おい、ゴッドツリー。」
「だからそれやめてよ!!!」
「神木なんだから良いだろ?」
「だったら!
Kのこと「カイル」って呼ぶわよ!!」
「………ごめんなさい、沙奈さん。それはダメです」
「わかれば良いのよ!!(なんでそんな赤面するのかしら?)」




