第2話…初任務
人間が住む世界。
この世界の全ての素は
人間自身が発生させる「想像力」とゆう
実体も、ましてや物理的なエネルギーとしての変換も出来ないものである。
この「想像力」が
力として最も顕著に現れる存在が
「物語」
である。
「想像力ありし所に
物語が生まれる」
異界図書委員が最初に習う事である。
そして、その現状にどの班よりも最前線で関わるのが
「取材班」である。
異界図書館 居住区
取材班棟 808号室
「だぁかぁらぁ!!!!
脱いだ服は洗濯カゴに入れろって言ってるでしょぉがぁぁぁぁあ!!!」
沙奈の怒声が棟全体に響き渡っていた。
沙奈が異界図書館に勤めて、早くも一週間が経っていた。
沙奈の基本的な勤務内容は
製本されている物語の点検と手入れ。
そして、
部屋での洗濯係。
この洗濯係が何気に1番沙奈の重労働となっていた。
沙奈のバディであるKは、沙奈自身の物語取材以外だと、添削班が所有する訓練場での自己鍛錬くらいであり、
K自身、かなり怠け癖のある性格のようで、
その華奢な身体と白い肌が
いかにも「外で活動してません」感を出していた。
つまり、
Kはほぼ毎日、部屋でゴロゴロしているか、
ふらっと何処かへ行ったと思いきや、
かなり夜遅くに帰ってきたりしているだけであった。
ゴロゴロしているならまだしも
夜遅くに帰宅した時は、
決まって
入り口からKのベッドまで順々に
靴、靴下、ジャケット、シャツ、ズボン
といった風に、
脱ぎ捨てられた衣服の道しるべが出来上がるのだ。
洗濯係、沙奈にとって、
4人分の衣服を洗濯するだけでも大変にも関わらず、Kの衣服を集めるとゆう手間まで掛かってしまうのだ。
大問題である。
この洗濯物をカゴに入れろだなんだという問答をしている中、
部屋のチャイムがジィィィィ!!!と音を立てた。
ルナ班長であった。
「朝から仲が良い事ね」
微笑みながら言うルナ班長に沙奈は無意識に深々と頭を下げていた。
「ここに来たのはまぁ大した事ではないわ。
沙奈さんにとっては、大した事かも知れないわね?」
「と言いますと?」
部屋に元からあった、少し年季の入った木椅子に腰掛けているルナ班長に、
沙奈はお茶を出しながら聞き返した。
その様子を、どこで手に入れて、どこに持っていたのか知らない干し肉(のような物)を食べながら、Kは見ていた。
「沙奈さんに初の取材任務を命令に来たの」
「しゅ……取材ですか!!!」
沙奈の目は一瞬にしてペテルギウスレベルに輝きだした。
「えぇ。
まぁ、今回の任務は少し特殊でね?
普通なら1人に1つの物語を取材させるんだけど、
この任務は2つの物語を取材してもらうわ」
「え?!
な、なんで2つなんですか?」
「厳密には1.5…といった感じかしら?
沙奈さんとバディでまず、1つの物語を取材してもらいます。
その後に、先行している別の取材班に合流していただき、そちらと一緒に1つの物語を取材してもらうの」
「な…るほど……?」
「理解してないのは理解したわ。詳しくはバディのKに資料を渡します。
それでは、少し早いかも知れませんが、本日午後5時に出発して下さいね」
「今日ですか!?」
「仕方ないじゃない?沙奈さんの初取材から任務掛け持ちになるなんて、今朝決まった事なんですもの」
そう言いながら、ルナ班長はKに一冊のノートを手渡した。
渡されたと同時にすぐ、Kはそれを読み始め、ルナ班長はクスッと微笑んだ。
「その…任務内容をもう少し詳しく聞けないでしょうか?」
少し不安になってきていた沙奈がルナ班長に困り顔で尋ねた。
「そぉねぇ……
沙奈さん単独の任務の方は、
「前島 瑠璃子」とゆう日本に住む新米作家が書き上げた、新しいファンタジーサスペンスタイプの物語を取材するものよ。
恐らく、ファンタジーサスペンスタイプ特有のハッキリとした闇の存在が現れると思うから、Kに任せて良いと思うわ。
沙奈さんは抵抗力が削られた物語をしっかり封印して下さいね?」
「なる…ほど………?」
「やっぱりKに任せて良いと思うわ。ホントに」
尚も微笑みつつ、ザックリと辛辣な言葉をルナ班長は言ったが、
沙奈はあまり理解していなかった。
「取材」とは
つまり、物語を本に封印する事だな。
厳密には仮本の状態にするわけだ。
「想像力」によって生まれた「物語」。
それは、大きく分けて闇の存在と光の存在とゆう実体を持ったものになる。
光の存在は人間が読む本として存在したがるが、
闇の存在は実体を失う事を極端に嫌い暴れまわる。
どちらの存在も原動力は同じ「想像力」だが、闇の存在は暴れれば暴れる程に「想像力」を消費する。
想像力の消費を抑える為にも、物語を取材し製本する事は重要なのである。
しかし、
闇の存在が強ければ、取材班も危険である。
それに対処するのが
対物語戦闘の専門集団である「添削班」である。
添削班が
闇の存在の持つ抵抗力を削っていき、想像力を消費しなくなった時点で、取材班が仮本として封印する。
持ち帰った仮本は、図書館に常駐している「製本班」に渡される。
製本班による製本が完了した時点で物語の封印は完了となり、今後この物語が暴れる事は無くなる。
光の存在はと言うと、元より本として存在したがっているのだから
仮本に封印するのは容易である。
光の存在と闇の存在は二つで1つの物語であるため、
結論、やはり闇の存在の抵抗力を削るのは必要事項となる。
では、
抵抗力がまだある闇の存在を封印するとどうなるのか
だが、
まず、仮本の状態に出来たとしても
製本が完成するまでの間に実体を取り戻してしまう。
過去に、図書館内で実体を得た物語によって
図書館が崩壊しかけた事件もあったくらいなので、
抵抗力は削りきらなければならない。
「………つまり、相手がどの程度の抵抗力だろうとそれは削らないといけないわけだ。
取材班と添削班はそういった関係だ。
わかったか?」
Kは、初の取材である沙奈に
長々と取材の基本事項を説明していた。
「あのKセンセー」
「なんでしょう?」
「そろそろ16:00なんで準備しませんか?」
「あ、ヤバ」
ルナ班長が部屋を後にした直後、唐突に始まったKセンセーの勉強会は、
頭からオーバーヒートの煙を出し始めていた沙奈の一言によって
やはり唐突に幕を閉じた。