11話 師匠
ラサニアのことは諦めた。
もう一時的な恋の病とかではないらしい。
普通ならあの僅かな時間で付き合って、倦怠期に入って、別れての流れを一人でやるらしい。
結婚まで行く場合もあるにはあるらしいが、1年持たずに離婚するらしい。もちろん一人でだ。
ラサニアの一人恋愛はあの職場で相当有名だったらしく、前に一年を超えた時には妄想なのにお祭り騒ぎだったらしい。
今回の子供ができた発言は衝撃だったらしい。しかもその子供が十歳を迎えているのはすごく異常なことだ。
ほかでは一年もたないのにまさか結婚生活が最低でも10年を突破していた。
いつもなら相手と興味を失っている時間に異常な言動をしてまで逃げるのを防いだ。
そこで時点でこのあとのことは職員にはわかっていた。
だからその話を事前に聞いた神官はアバドとの別れ際にアバドに「ラサニアさんを頼みます」と言ったのか。
今は喫茶店に向かっている。師匠はガランさんの喫茶店で待っているらしい。
ついてこさせるのは諦めたけどラサリアさんがかなり邪魔くさい。俺にべったりで歩きづらい。
国営の施設で一番有名な美人。国営に勤めているのだからいいところの出だろう。
そんな人がべったりなんだ。周りの視線なんて言うまでもないだろう。
腕が良いためなかなかの給料の貰っているとの噂もある。
受け持った人のなかには難関ダンジョンのクリア者もいる。その人が転職するときラサリアが担当してその日に上級武器をプレゼントしたのは有名な話だ。
上級武器とはシルバーランクが扱う上質の高い武器だ。そんなものを転職したて駆け出しの冒険者にプレゼントしたんだ。
そんな彼もすぐに有名になってレベルもグングン上がっているそうだ。彼女の武器のおかげだろう。
そんな彼女を狙っていたやつは多いだろう。
彼女は性格以上に謎な点も多い。まず誰も彼女の職を知らない。同僚でさえ知らない。
次に彼女は人族じゃなくてエルフ族だということだ。見た目が東洋的なため耳は長いが俺の知らない種族だろうと思ってスルーしていた。
しかし妹は普通のエルフ族と同じ見た目なそうな。エルフ族にしては胸がやけに大きいのが悩みだそうだ。これはラサリアから聞いた。なんだか心当たりがあるが・・・。
きっとエルフ族の中でも特殊な種族なのだろう。
「ラサリアの職って何?国営で働けるってことはレベルもそこそこなんだろ?」
ものは試しだ。もしかしたら答えてくれるかもしれない。仲間の職がわからないなんて問題だろ?
「そんな辱しめをこんなに人のいるところで?」
「はっ辱しめ?」
突然何を言い出すんだろうこの変態は。
もしかして狂戦士とかなのか?戦うとき原型がなくなるくらいムキムキになるのか?
「スッ・・・スナイパー・・・です。弓ではなく魔道炎筒を使い超遠距離からの攻撃をします・・・」
なんで今まで謎だったのかわかった気がする。エルフ族で弓使いは珍しくない。エルフ族は風や木がメイン属性のが多い。そのため弓との相性がいい。
しかし炎筒は火属性、エルフというよりはダークエルフ。エルフ族の村では居づらかっただろう。別に肌は黒くないからダークエルフでは無いようだし。
きっとこの大和撫子風の見た目はメイン属性から来るものなのだろう。
エルフ族の村では居づくてアプスにいるのだろうがアプスは近距離武道職主義。魔法職はもともと人口が多くない。魔法職ではないなら近距離武道職にするのが普通。わざわざスナイパーを選ぶ理由がない。
ずっと隠していた理由はそんな感じだろう。
「嫌いになりましたか?」
心配そうにこちらを見てくる。いつもこれくらいのテンションなら接しやすいんだけどね。
「いろいろな苦労がその武器と職から感じ取れたよ。大丈夫、俺は君を歓迎するよ。」
すると彼女の目から一粒の涙。
「ありがとうごさいます!今まで火属性のエルフでこんな変わった見た目から気味悪がられていました。そんなこといってくれる人初めてです。」
(う~ん・・・元魔王なんだけとなぁ・・・。しかも今まではって、いつも一人で完結しているんじゃなかったのか?)
国営の施設にいた盗み聞きのおばちゃんたちが言うにはここまで入り込んだ人初めてのはず。
まぁそれだけが出会いじゃないよね。さすがに合コンとかじゃないだろうけど。
「急ごう。師匠となる人を待たせてはいけない。」
これ以上は周りの誰かに襲われてもおかしくない。会話が聞こえてない人には国でも有名な美人がベッタリと付いていて、しかも泣かせた。
俺はラサニアの手をしっかり掴んで喫茶店へ向け走り出した。
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
確かこの裏路地だ。別に走る必要はなかった。歩いても5分くらいで着いただろう。会う時間は言われていなかったので急ぐ必要は実はなかった。
「どうしたの?裏道に誘い損でなんなことやこんなことするの?」
「いや。この先が目的地なんだ。」
「近道ならやめたましょ。最近裏道では人拐いが出てるから危険よ」
人拐い・・・なんだか心当たりがあるが気のせいだろう
「裏路地にひっそりとあるんだ。喫茶店がさ。」
「私はあなたの妻だから何処までも着いていきます!」
別にそんなこと覚悟を決めなくても場所が変なだけの普通の喫茶店なんだけどなぁ。
裏路地を少し進んだところにその店はある。
外観は二階建ての白煉瓦。しっかりと手入れされていて綺麗だ。他の壁が薄汚れているため日の届かないところに建ってはいるがかなり目立っている。
カラン
ドアを開けるとき付いている鈴がなる。ラサニアも恐る恐る入ってくる。今日はダレイは居なかった。朝から豆を取りに狩りにいった。
一体何を使っているんだ・・・
店内は薄暗い。だがビルなど高い建物があるわけではないから真っ暗ではない。
「珍しい。お客さんか?マスターは知り合いのお孫さんとお出かけ中だ」
なんだこの紳士は。フロックコートにシルクハット。横には杖もある。そういえば大天丸も同じような服装だったな。見た目はちょいワルの中年おやじ。
「カップルか。この店は穴場だよな。」
「いえ。カップルではありません。夫婦です」
「職業案内所の有名人が結婚したという話は初めて聞きたぞ。美人だから狙ってたんだがな」
やっぱりラサニアは有名人だな。
「何を言ってるんですか。もう10才の娘と生まれたばかりの娘がいるんですよ!」
「あれ?一人増えた?」
そのうち妄想だけで本当に妊娠しそうで怖い。
「おっ!すげぇ!かなり妄想進んでんじゃん!」
言動が紳士じゃないな・・・
「そうか・・・お前が・・・」
突然真剣な顔になる紳士(仮)
カラン
「アバド!」
やっと帰ってきた。そういえばマイシャもやけになついてるよね。
「おや。もう帰っていたのですね。今日はラサニアさんの出勤日だと聞いていたので長くなると思っていたのですが・・・」
こいつ!こうなることがわかっていたな!
「さすがガランだな!なかなか面白いことになったぞ!」
やっぱりガランとこの紳士(仮)と知り合いなんだな。
「もしかして妊娠決定まで行きましたか?!」
「良い読みだが残念!すでに生まれてもう10才だ!しかもどうやら今さっき二人目が生まれたようだぞ!」
楽しそうだな!おい!
「知ってたなら教えてくださいよ!なんかどんどんおかしくなっていって焦ったのなんの・・・」
最初に鼻で笑われたのが懐かしい。
「で?こいつが話のアバドか?」
当然真面目モード。ビックリするからやめてほしい。
「あなたの妻に内緒で『アバド』を名乗っているんですか?危ないから子供のためにもやめてほしいです」
「その辺について今から説明しよう・・・」
名前については何とかする必要があるか。
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
「なかなか面白いじゃねーか!」
気に入ってもらえたようだ。
「そういや自己紹介がまだだったな!おれは『ウェポンマスター』のハーン・フェルディモ」
「ガランの野郎から面白い奴がいるから師匠をしてみないかと誘われたからとりあえず来てみた」
「まさか初めての弟子が元魔王とは!お前は何の剣を選んだ?」
「双剣です。もともと守りは仲間に任せていたので。今からでは時間がかかってしまうでしょう。だからいっそのことガン攻めで」
そんなこと言ってるけど本音は双剣にロマンを感じていたから。
「双剣か・・・まあしばらくは片手で基礎をしっかりとだな!」
「おい!妄想嬢ちゃん!登録は剣士だよな!」
「はい。案内所で師匠を紹介させていただく場合は名前を変化させて登録しますが今回は知り合い任せているそうだったので」
「嬢ちゃん冷たいねぇ。俺には仕事モードかよ。」
できるOLの雰囲気が漂う。あの変態はどこに行った。
「妻としては普通に魔法職をしてもらいたかったんですが・・・そんな理由があったんですね」
「ますます好きになってしまいそうです。」
なんで若干頬を赤くして、痙攣してるんだろうね。熱があるのかな?お熱かな?
「妄想場ちゃんにはすまないが俺はこいつとダンジョンに潜って短期集中特訓だ!」
「えっ・・・すぐに帰ってきますよね・・・・・・日帰りですよね?」
どうやら一泊でも耐えられにらしい。
「アバド・・・」
マイシャも寂しそうだ。
「俺があげた本でしっかり勉強するんだぞ!」
「うん・・・わかった!」
でもまさかそのまますぐに行くとは思わなかったよ・・・
シルバーウィーク中は0時の投稿です




