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第1章-1 嘘の嘘

紅葉学園に入学から4ヶ月の月日が経った。

2035年 8月1日。


「うぉぉおおお!!」

俺が吠えると同時にバギッという効果音が鳴った。もう何度も聞いてるせいか、ちょっと邪魔くさい。

「ヴラァァウヴァアア!」

こんな気色悪い声はもちろん俺の口からでなく、目の前の平均対象レベル42の【ゴールド・ゴーレム】のものだ。

このゴールド・ゴーレム略してゴーゴー(俺が名付けた)は、形がゴーレムだが、金色と化している。それだけじゃなく、名前通りに多めのゴールドが獲得できてお得だ。

いつもだったら、固いゴーレムを相手にするほど時間はないが、こいつを倒せば約一週間分の食料のゴールドが手に入る。だから、逃げるつもりはまったくない。てか、こんなチャンス滅多にないぜ!

「にしても固いな。HPが全然減らない……」

MPケチってる奴が言う台詞じゃないけどさ。

まぁ、日が暮れる前には戻ろうと思ってたしMP使っちゃいますか。

「……直進斬り」

俺は小さく言い捨てる。

そういえば、昔もこの技でゴーレムを倒したっけな……。

あの時、あの瞬間で、俺の人生が180度変わったのかもしれない。

それは今でも俺の心に残る後悔に近い、モヤモヤとした気持ちでもあった。

と嫌なことを思い出してしまい小さくため息をつく。

俺はそのことを忘れるように頭を振り、技の発動モーションに入る。すると、右手に構える自慢の片手剣が光りはじめた。

「もうちょっとの辛抱だな。

ふと自分の片手を見ると、愛剣は輝きを増していく。

青い光が最高点にまで到達したところで、足の遅いゴーレムが5、6メートルまで近づいてくる。

俺はゴーレムをギリギリまで引き寄せると同時に素早く剣を前方に向け、ゴーレムの腹を一直線で貫く。

「うぉぉおおおおお!!」

俺の雄叫びが響くと、ゴーレムのHPが一瞬で0になり、跡形もなく一瞬で消えた。

欠片一つ残さず。

すぐに目の前に取得経験値とゴールド、入手アイテムが表示された。

「……はぁ……はぁ、距離をけっこう離したのは正解だったな」

もしもっと近ければ、HPが残り、スキル使用負荷によって停止させられ、痛い一発を食らっていたからだ。

はぁ〜〜。

深いため息をつき俺は元来た道へ戻った。

このSRRは、フィールドのほとんどが森となっているため夜になると暗くて抜けるのが難しくなる。それに敵も昼とは一変して、強くなったりと俺にとっていい点はない。


親指と人差し指を空中で広くような動作をして、メニュー画面を出した。

時刻は17:52。

「出るとしますか……」

俺の独り言が虚しく静黙な森に響く。こんな奥まで来るプレイヤーがいないからな普通。

と言い訳みたいなことを思った。



歩くこと約20分。俺は中立領土である【オールヴィーン】に着いた。

このオールヴィーンは、SRRの中で3大大都市と言われる内の1つで、たくさんのプレイヤー(生徒)が行き交う。

それに公共大都市となっているため、C組である俺でも簡単に入れる。もしここが他領土なら即囲まれて俺は斬られているだろう。たぶん、いや、絶対。

想像しただけで恐ろしい。

そんなオールヴィーンは、品揃えの良さと、街の美しさがSRRナンバー1(俺的に)なため、とても気に入っている。

水色を主としている街づくりのため、街全体は鮮やかな水色の家や店が多く、噴水も所々にあり、夜になるとより町の明かりを反射して、美しく水が輝く。

「おっと」

俺は街に入る直前で足を止め、慌てて紺色のフードを被りコートで全身を隠す。

ある事情のため俺はいつも街に入る前はフードで顔を隠している。

たまにこれはこれで目立つんじゃないかと思うが……。

「これでOK、行くか……」

まずは……。

グゥ〜〜〜〜。

飯だな。

俺はいつもの店に向かう。

途中色々な会話が耳に飛び交う

あそこの狩場がいいだ、次の試験でパラメーターを上げるために頑張るだとか、パーティー募集中だとか。

地味に聞き耳を立てているとうまい情報が入ってきたりもする。これが本当に弱いソロが生きていく方法の1つでもある。

そんな情報収集ウォーキングを終えると目の前に黒っぽい赤色の屋根のじみぃ〜〜なお店が建っていた。

ここが俺の行きつけの飲食店だ。

この街にはたくさんのレストランがあるがここは一番安く、値段の割りにうまい。

まあ、実際はレストランでも飲食店でもフードショップでもなく、学食なのだ。

普通の学食と違う点は円ではなく、この世界の通貨ゴールドで払うこと。

ちなみに雰囲気を壊したくない生徒によって学食と呼ぶのは禁句となっている。

店に入り周りを覗くと数人店に入っていた。隠れ家のようにしていた店の客が多くなってきたことに少々不満を持ちながら席に座るとウエイトレスがメニューを聞いてきた。

この店員は街にいるCPUと違って本当の人間なので物が運べるという分けだ。

「シチュー&パンセットで」

俺はいつもの低い声音で言うとウエイトレスが明るく返答してくれた。

「かしこまりました」

深々と頭を下げるとキッチンへと向かって行く。

そういえば、別の街には店員がCPUのお姉さんの所もあるそうだ。

物を持てるのは、手などの骨組みがついたロボットだからであり、その上に人間のような見た目をしたお姉さんの高度な立体映像を付けているので、CPUがリアルの物を持ってるように見える。

だがしかし、お姉さんに触れようとしても(実際には触れたいとは思ってない、ほんとに)すり抜けたり、機械の金属のような感覚はない。それは、擬似感覚技術と言われる俺らプレイヤーの体を覆うメターラインと俺の頭と首、手首、足首に付けられているギアと呼ばれる物によって、映像を触っているのに脳には布や人の肌に触れたような感覚がもて、すり抜けることを脳で止めてるようだ。

要するにお姉さんNPCに触ると、人間の女の子のように柔らかい肌の感触が感じ、ごっほん、ごっほん、まぁ、そういうわけだ。

突然、ガタンと机が叩かれる音が耳に響き、奥の席から怒鳴り声が巻き散る。

「いつになったらゴールドを返してくれんだあ!」

「いっ、一週間後には、返せる、と……思います」

「てめえそれ、この前もいってなかったっけかぁ? なあ!!」

まるで古いドラマの借金取りのような脅しをしている男は、年が近いとは思えないごつい体格だ。

「……ほんとに高校生かよ」

と周りに聞こえない声で呟く。

それ引き換え少女は小柄で、ウィンクなんてされたら世の男どもは一撃だろうという容姿を持っていることが遠くからでもわかるくらい可愛い。

俺はやってきたシチューとパンを頬張りながら得意の聞き耳を立てる。

「返せないなら、いい仕事紹介しますよ。死ぬかもしれないがな」

ぷっはっははと大声で男は笑う。

「そ、それだけは」

大柄な男が男より一回りも二回りも小さな少女を攻め立てている。

こんなシチュエーション、かっこいい主人公様なら助けに行くだろう。絶対にね。

だけど俺の主人公スキルはまったく高くない。むしろ0に近いくらいだ。

だから言わせてもらおう。

俺が取る選択肢は。

ガタッと、大きな音を立て俺は立ち上がる。


………………関わらない。


自分の事で精一杯な奴が他人のことまで構っている暇などない。

主人公みたいな大胆なことが出来るのは、アニメや漫画、ラノベの中だけ。

これが現実だ。悪いがこの選択しか今の俺にはできない。

(ごめんね)

と、遠くで少女をほんの一瞬チラ見した。もちろん彼女は俺に気づくことなく、俺はそのまま店を後にした。


空は暗くなり、街には明かりが灯され輝きを帯びていた。

街中の水が光を反射し幻想的な世界を作り出している。

その街の光を見つめていると、さっきの少女の顔が無意識に浮かんできた。

店を出る前にチラッと見たその表情はまるで誰かに助けを求めてるような……。


…………だけど、俺は。


また嫌なことを思い出してしまった俺は夜にも関わらず街を出た。

1日で2回も思い出してしまうとは俺も弱いな。

レベルも心も全て。


夜のフィールドは通常、昼間の敵より5、6以上はレベルの高い敵が出たりとイレギュラーがあり、危険が多い。そのため、夜に街を出る人は多くはない。

まぁレベルが高い奴は別だが。

俺の場合は、ほんの気晴らしのつもりだった。

どうせなら経験値稼ごうかな〜とかす、すこしも考えてない。ほ、ほんとだ。

夜のフィールドは、街の明かりがあたるところ以外は暗く、月の光に照らされていた。月の光を浴びるフィールドは美しく、風がとても気持ちがいい。

木が揺れる音が子守唄のように聞こえたのか少し眠くなった。だが、ここは耐えなければ寝ている間に敵にやられたら終わりだ。

この5ヶ月いや、今までの人生が無駄になる。

俺は意識をもうろうとさせながら、街へ戻ろうとした瞬間。

シュッという音が自分の首筋から聞こえた。

「⁉︎」

首元を見ると不気味に輝くナイフが俺の首元に触れそうな位置にあった。いや、あってしまった。

「おい……嘘だろ」

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