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歪恋愛シンドローム  作者: 杞憂
14/15

エピローグ

「ユーキ」

「なーに、深癒」

「ん、なんでもなーい」


 普段はあまり見せない甘えた様子で深癒があたしの肩に寄りかかってくる。急にどうしちゃったんだろうか。いつもはもう少しクールなキャラなのに。


「どうして私を選んでくれたの?」


 不意に投げかけられた疑問。こちらを見つめる深癒の目には、僅かに不安と期待の色が見えた。


「選べるほどあたしもててないんですけどー」

「ユキは気付いてないだけで人気あるんだよ。まあ、もう私だけのユキだけど」

「おおー、出ました。私のモノ宣言」

「うぅ……照れるな」


 どうして深癒を選んだのか、ね。それを聞いちゃうなんて、深癒さんも中々勇気あるね。

 あたしはなんとなくだけどその理由に心当たりがあった。


「んー、そうね……夢を見たの」

「夢?」

「そう、夢。その夢のおかげで、深癒のこと意識してる自分に気が付いたの」

「へえ。どんな夢?」


 今もはっきり覚えてる。普通は寝て起きたら忘れちゃうんだけど、その夢は特別だった。


「……その夢の中では、深癒は知らない男の人と付き合っちゃって、あたしを置いてどこか遠くに行っちゃうんだ。そこで目が覚めるの。もう、すっごい喪失感でいっぱいだったわ」

「私は男の人と恋愛なんてしないよ。ましてユキを諦めるなんてありえないなー」

「夢の中ではそうだったの! てか、そのおかげで今付き合えてるんだから、夢の中の深癒に感謝したいぐらいよ」

「うーん、何かフクザツ……」


 深癒にとってはそうだろうね。あり得ないことに違いはないし。

 でもそれは、あえて言うなら好きだってことに気付いたきっかけみたいなもので、それで好きになったわけじゃない。

 多分、あたしは無意識のうちに深癒に少なからずそういう感情を抱いてたんだと思う。

 あんまり恋愛ってものに真面目に向き合ってこなかったから気付かなかっただけで、種はちゃんとまかれていたんだ。それが偶々色んなことが重なって、今さら発芽しただけ。

 だってすっごく長い付き合いなんだもん。お互いが自分の体の一部みたいに、切っても切り離せない関係なんだよね。あたしはそもそも、この先もずっと深癒と一緒にいられるんだろうなって、そのことを当たり前のように思ってたんだから。


 まだ不満が残っているらしい深癒を、あたしはそっと胸に包み込んだ。


「大丈夫よ深癒。あたしは何があっても深癒以外の人を好きになることはないわ。それに、深癒を誰かに渡すつもりもないし。それだけじゃ……不安?」

「……! うぅん、ありがとうユキ。嬉しい……」


 あたしの腕の中で、深癒はほんの少し涙を流して笑っていた。

 

◇◇◇◇◇◇


「晴れて恋人同士になったわけだけど……恋人ってどんなことするの?」

「え。それを私に聞くの」


 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。思いがけない質問だったに違いない。


「深癒以外にいないでしょうが」

「うーん。一緒にお話したり、デートしたり……その、キス、したり?」

「全部やったわね。前とあんまり変わってない気がするわ」

 そう、既に実行済みだったりする。


「そう言われればそうかも」

「何かさー、折角恋人なんだから、特別な何かをしたくない? こう思うのってあたしだけ?」

「いや、私も」

「じゃあさ、二人でアイデア出し合いましょ。それぞれのやりたいこと」

「あ! 私一つあったよ、ユキとやりたかったこと」

「ん、なになに?」

「二人で一緒の布団に包まって、一日中ゴロゴロ過ごすの。話したり、キ、キスしたりしながら、まったりするんだよ」

「えー何それ。あたしは二人で買い物に行ったりとか、アウトドアがいい」

「外だと誰かに会っちゃうかもしれないじゃん。それだとユキを独り占め出来ないし」

「んー? 友達にまで嫉妬しちゃう深癒さんてば、いじらしいですなぁ~、うりうり」

「つ、つつくなよー」

「とりあえずそれは候補の一つってことで。他にはある?」

「そんなすぐ思いつかないよ……ユキは?」

「あたしは深癒に告白されるまで恋愛には疎かったからなー。恋人というと……同棲、とか?」

「それいいね。ユキと二人っきりで暮らしたい」

「でもあたしたちまだ高校生だから、少し先の話よね」

「家に泊まるぐらいが限界かな」

「よく考えたら、今あたしたち限りなく同棲に近いことしてるんじゃない?」

「そういえば……そうかも」


 深癒と目が合った。途端に無言になっちゃって、あたしたちはしばらくお互いの顔を見つめ合っていた。なんとなく気恥ずかしい雰囲気。深癒の目を見てると、何だか引き寄せられるみたいで……

 いつの間にか体が深癒に近付いてたのにハッと気が付いた瞬間、思わず顔から火が出た。深癒も同じで、二人ともあたふたしながら話題転換を図ろうとしたり。


「そ、それにしても熱いわね! 真冬だってのに」

「そ、そうだね。アイスあるけど、食べる?」

「あ、食べたいー。深癒さん太っ腹~」

「太ってないよー」

 その返しは予想外ですわ。まあいいんだけど。


「今取ってくる。待ってて」

「うん、お願い」


 深癒がいそいそとキッチンに向かった。

 はあ……緊張した。付き合う前だって二人っきりで遊んでたってのに、どうしてこんなにドキドキしちゃうんだろう。

 恋人同士って自覚するだけで、友達のときとは全然違うんだなぁ。当然といえばそうだけど。

 あたしも、そして深癒も、表面的には何も変わってないのに、内面は信じられないほど変化してると思う。これがきっと、恋をするってことなのかな。



「お待たせ。バニラとチョコがあるけど、どっちがいい?」


 カップアイスを二つ手に持った深癒が部屋に帰ってきた。あのお高いことで有名な赤いパッケージの高級アイスだ。


「こ、これすごく高いやつじゃない。何か悪いよ」

「ユキが来たときに二人で食べようと思って買い置きしてたんだ。遠慮されたら逆に寂しいな」

「……だったらありがたく頂くわ。あたしバニラで」

「はいどうぞ」


 渡されたカップアイスをまじまじと見つめる。これ気になってたけど食べたことなかったんだよね。でも何よりも嬉しいのは、深癒があたしと一緒に食べるために買ってくれたってことだ。


「深癒、ありがと。頂きます!」

「気合入りすぎだよ、ふふっ」

「う、うっさい」


 ふたを外してアイスにスプーンを突き立てる。食べられまいとしてるのか、アイスは思ったより固くてなかなかすくえない。情けなくも、結構苦戦してしまう。


「このこのっ! ……ダメだぁ、深癒ぅ」

「カップの周りを手で持って溶かすんだよ。貸してみて」

「うん……」


 深癒に渡したら、驚くほど簡単にスプーンですくってくれた。うわ、あたしってば不器用すぎ……?


「はいユキ、あーんして」

「え、ええ!? 一人で食べれるわよっ」

「クレープ食べた時だってしたじゃない。しかもあの時はユキから」

「あ、あの時とは違うでしょ。その、色々……」

「ふーん。ユキは私のあーんに応えてくれないんだ。ふーん……」

「や、やめてよ……そんな悲しい目であたしを見つめないで! ほら、あ、あーんっ」

「はい、どうぞ」


 深癒の無言の圧力に屈して口を開けてしまったけど、やっぱり無性に恥ずかしい。クレープを食べさせあったときは友達同士のじゃれあい気分だったから平気だったけど、今日のは何か違うんだよね。なんていうか、深癒の愛? のようなものが込められてる気がする。ただでさえ甘いアイスが、そのせいで口の中が蕩けるほど甘々になっちゃった。


「ん……美味し」

「よかった、喜んでもらえて」

「も、もう……味分かんないよー」


 顔が真っ赤になるのはもはや避けられない。だったらいっそ、深癒もあたしみたいに恥ずかしがらせてあげないと気がすまないや。そう思い至って、あたしは油断してる深癒の隙を突いて開けたまま放置されてた深癒のカップアイスを奪い取った。


「あ、ちょっとー?」

「深ー癒ー、あーんしなさい、あーん」

「あ、え? 怒ってるの?」

「怒ってないからさっさと口開けなさい」

「やっぱり怒ってるー!?」

「うふふふ……頭が痛くなるまで口の中に詰め込んであげる」

「あわわわ、許してよユキ! そんなにあーんが恥ずかしかったの!?」

「ふふ、よく喋るお口ね。口移しで塞がれたいのかな?」

「く、口……移し……?」


 ゴクリ、と生唾を飲み込む音が聞こえた。

 あれ、この反応はまさか……


「深癒さん、今……期待した?」

「あっ、ち、違うよ! 引かないで、いやかなり魅力的だったけどさ!」

「やっぱり期待してんじゃん。深癒のスケベ」

「うわー! そのレッテルは嫌だよ……」


 イチャイチャはまだあたしたちには早いかもしれない。

 まあこのあと、結局試してみたんだけどね、口移し。


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