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歪恋愛シンドローム  作者: 杞憂
13/15

誓い

「いや、何でよ深癒っ! ずっと一緒にいるって言ってくれたじゃない! あの言葉は嘘だったのっ!?」

「ごめん……ユキ。私のことを好きでもないユキと一緒なんて、耐えられないよ」


 そう言って深癒はあたしの知らない男と腕を組んだ。その顔は安堵に満ち、あたしといるときは見せないような眩しい笑顔を浮かべていた。


「この人は私だけを見てくれるんだ。私だけを愛してくれるんだ」

「そんな……そんなのってないよ……」

「さよなら。もう付きまとわないで」

「深癒ぅ……っ」


 深癒が行ってしまう。こちらに振り向きもせず。

 追いかけようとしたけど、体が何かに押さえられててあたしは一歩たりとも動くことができなかった。

 去っていくその後姿を、ただ見つめることしかできなかった。


 ………


 ……


 …


◇◇◇◇◇◇


「いやぁぁぁぁっー!! ……あ?」


 え、まさかの夢オチ? ちょっと本気で泣きかけたんですけど。目に涙たまっちゃってるし。

 ……良かったぁ。


「あれ、なんであたし今安心したの?」

 嫌な夢を見てて、起きたから現実の出来事じゃないって分かったからよね。あれれ?

 なんで嫌な夢って思ったんだろう。なんとなく自分で答えが分かるのが悔しいんだけど。

 ……あーあ、まさか自分の夢に気付かされちゃうなんてね。

 しかも、夢の中で体が動かなかった原因が分かった。深癒と一緒のベッドで寝てて、深癒に抱きつかれてたからだ。やけに寝苦しいと思ったら、こういうことだったのか。


「あ、縄緩んでる……」


 寝てるときに外れかけていたようで、あたしをベッドに縛り付けていた縄はいとも容易くほどくことができた。これで晴れて真の自由の身になったわけだ。

 さて、横ですやすやと眠っている深癒さんをどうしてくれようか。昨日のお返しに逆に縛り付けてやろうかしら。


「うぅん……」

 深癒はまだまだ目覚めそうになく、あたしの方に向いていた身体は寝返りを打って背中を向けた。一瞬チラッと見えた深癒の目元には、何故か涙が溢れていた。深癒も夢を見ているのだろうか。


「……ユキ……行かないで……」

「!」


 名前を呼ばれた瞬間、心臓がドキッと跳ねる。寝言だよね、多分。

 深癒もきっと、あたしと同じような夢を見てるんだ。

 何か、素敵な偶然――――


「それは猟師の罠だよ……食べちゃダメだよユキ……むにゃ……」

「ん?」


 どんな夢見てんのよ、あたしはタヌキかなんかと同レベルってわけ? すっごいバカにされた気分。

 ……ちょっと、驚かせちゃおうかな。


「……んぅう……重い……」

「誰が重いって?」

「……はれ、ユキ? ……なにして」

「おっはー。見れば分かるでしょ? またがってまーす」

「お、重いよ……それと、縄は……?」

「ほどけちゃったから、あたしの好きにさせてもらうね」

「え、ほんとだ。ユキ、もしかして怒ってる?」

「怒ってるわよ。人の話も聞かないで、勝手なことばっかして」

「……ごめん。許してなんて、虫が良すぎるよね」

「そうね。だから、あたしが今から何をしても深癒は文句言っちゃいけないの。分かった?」

「分かった」


 深癒は覚悟を決めたみたいに目をきゅっと強く閉じた。身構えてる、のかな。別に殴ったりするわけじゃないんだけど。まあこれはこれで、サプライズになるか。


 あたしは縮こまっている深癒に顔を近づけて。

「ん――――……」


 唇に、キスをした。


「……え? ゆ、ユキ、今のって……!?」

 普段からは想像もつかないほど取り乱しちゃっている。予想外だったからって、あたしの記念すべきファーストキスをあげたっていうのに、全く。


「分からなかったの? ならもう一回してあげる」

「あ、ふわぁぁぁっ!?」


 高鳴る心臓の音を誤魔化しながら、あたしは再び深癒に顔を近づけた。深癒は目に見えて分かるほど顔を真っ赤に染めている。多分、あたしも同じぐらい赤いはずだ。


「んっ……ちゅっ……」


 二回とも、唇と唇が触れ合うだけの、軽いキス。でも、それだけでもあたしの身体は蕩けそうなほど熱くなっていた。


「はぁっ……ユキぃ、どうして……?」

 潤んだ瞳で深癒が見つめてくる。やばい、とっても可愛い!


「……言わなきゃ、伝わるわけないよね」

「う、うん……?」


 あたしは、ベッドの脇に置いてあった手錠を掴んで、深癒の手にかけた。驚いた深癒の体がビクッと反応する。


「もう、こんなものは必要ないってこと……」

「そ、それって……?」

「もう、最後まで言わせないと気が済まないわけ?」

「ユキ……」


 何かを期待するような眼差しで深癒があたしを見つめる。とうとう言っちゃうのかぁ、深癒との関係の一区切りの言葉を。

 あたしは一つ深呼吸をして、息を整えてから深癒にその言葉を伝えた。


「あたしも……あんたのことが、好き。大好きよ、深癒」

「ゆ、ゆきぃ……っ!」


 涙の防波堤が決壊した深癒は、鼻水を垂らしてぐじゃぐじゃのだらしない顔をあたしに隠すことなく見せていた。他の人だったら引いちゃうかもだけど、不思議と深癒の泣き顔は庇護欲をかきたてる。


「深癒ってば、あたしを監禁しちゃうような常識外れなのに、自分のこととなると純情なんだから」

「だ、だってぇ……っ! ひぐっ……夢みたいだから……私……!」

「よしよし、泣きやめ泣きやめっ」

「な、なでるなよぉ~!」


 相変わらず、照れてるときの深癒は可愛いわね~。なーんか、この顔見てるだけで安心する。あたしの選択は間違ってなんかないって、確信できる。

 きっと、これから先も今よりもっと大変なことが待っているだろう。同性婚が認められているからといって、マイノリティには変わらないんだから。

 でも、深癒と二人一緒なら、絶対乗り越えられる。そう思えるんだ。


「ユキ……ほんとに、私なんかでいいの?」

「なによ今更。不安になっちゃったの?」

「う、うるさいっ……ただ、私って結構面倒くさい性格だよ。嫉妬深いし、すぐ怒っちゃうし……」

「それは今回のことでよーく学んだわ。だからもう慣れたし、平気」

「そ、それに……」

「あーもう。しつこいわね、あたしは深癒以外の人と付き合うなんて考えられないの! その口また塞いじゃうわよ?」

「いいよ……塞いで、ユキ」


 深癒が最初のときのように目をつむった。唇をつんと突き出して、キスをせがんでくる。

 ま、まずいわ。理性が何処かへ吹っ飛んで行きそう。

 ……でも、あたしたちこれで恋人同士ってわけだから、オッケーよね? 多分。


「容赦、してあげないから」


 本能の赴くままに、あたしは深癒の唇に吸い付いた。初めの二回のキスとは正反対に、今度はむさぼるように情熱的なキスをする。


「んむっ……ちゅるる、ぴちゅ……ふみゅう……」

「ぷはぁっ……あははっ、何よ深癒! 『ふみゅう』って!」

「ひ、ひたがまわらないんらよっ……!」

「きゅーん! ってきたよ今の! 初心なやつめ~、可愛がっちゃうぞー!」

「や、やめてぇー!!」


 深癒と一緒にいられるなら、あたしはこれでいい。いや、――――これがいいんだ。


◇◇◇◇◇◇


「ところでさ、いつになったらこの手錠外してくれるの? ユキ」

「え? 今日一日は外さないわよ?」

「へ?」

 呆けた顔の深癒もいい感じに嗜虐心をそそるわね。


「それは罰ゲームよ。深癒にもあたしと同じ目に遭って貰うから」

「ちょ、ちょっと待って!? まだ怒ってるのっ!?」

「文句言わないって、約束しなかったっけ?」

「そ、そんなぁ……」


 深癒はやるせなくがっくりとうなだれる。でも、しょうがないよね。これは深癒が招いた結果だもん。

 だから、あたしはわざと深癒の耳元に口を寄せて息をかけるように囁いた。


「一日中可愛がってあげる……感謝しなさいよね」

「ひゃいっ……!」


 あたしたちの恋はまだまだ未熟で、愛なんて呼べる代物ではないかもしれない。でも、だからこそ二人で育んでいきたいって思うし、こんな結末もありなんじゃないかなって。

 他の誰でもない、深癒だから。

 ――――この長い長い景色を、二人で歩んでいくんだ。



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