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歪恋愛シンドローム  作者: 杞憂
10/15

決断

「みゆちゃん、あそぼー!」

「いいよ。ゆきのはすぐ迷子になっちゃうから、わたしがついててあげる!」

「あたしそんなにドジじゃないもんっ」

「いーや、わたしがいないと一人で公園に行くこともできないもんね」

「一人だと行かないだけだもん……」

「あんしんしなよ、わたしがずっとめんどう見てあげるから。約束だ!」

「言ったなぁ! 一生めいわくかけてやるぅー!」

「それはヤダー!」

 ………………



 長い夢を見ていた。

 懐かしい記憶の夢、今はもう戻れない子供のときの夢。

 あたしはまだまだ小さくて、現実には覚えてない記憶だけれど。

 心はちゃんと記憶していた。

 小学一年生ぐらいのときだろうか。

 幼いあたしは、幼い深癒と一緒にあの公園で遊んでいた。

 その頃は、未来がどうなるかなんて考えることもなく、ただちっぽけな自分たちの生を必死に生きるだけだった。少なくともこのときは、あたしはまだ幸せでいられた。

 深癒と一緒の日常が、ずっと変わらないと、そう思っていた。

 でも、深癒の考える『一緒』と、あたしの考えてた『一緒』は、違うものだった。

 それを、昨日知ってしまった。


「……朝か。だるいなぁ」


 眠るときは寝つきが悪かったのに、いざ朝になるとちゃんと夢を見るほど寝れたようだ。

 ベッドの中に包まるように寝返りを打つ。もう何も考えたくない。ここから出たくない。

 ……深癒に、どんな顔して会えばいいのか、もう分からない。

 昨日は深癒一人を置いて公園から帰っちゃったから、あの後深癒がどうなったかは知らない。

 でも、鈍感なあたしでも、酷いことをしてしまったっていう自覚はある。

 だからこそ、あんな出来事のあったすぐ後だけに会いづらいっていうのもある。

 ……それに。


「あたしは深癒のこと、どう思ってるんだろ……」


 その答えを見つけない限り、あたしは深癒に会えないんだ。

 幼なじみで、親友で、あたしの大切な人だから。傷つけた分、あの子の気持ちとちゃんと向き合わなくちゃいけない。

 起きよう、じゃないときっといつまでもこのままだ。



 だるさの残る体に鞭を打ってテーブルにつき、朝食のパンを口にする。もう冬休みに突入しているので早起きする必要がなく、朝というか昼に近い時間ではあるけれど。

 何か行動を起こすべきなのは分かっているのに、その肝心な何かが分かっていない。

 もどかしい感じ。こんなに頭の中がぐちゃぐちゃになったのって、生まれて初めてじゃないかな。

 ……全部、深癒のせいだ。

 そのまま家で悩んでても答えは見つからなそうだったので気分転換でもと思い立ち、外出しようと家の扉を開けた。すると、何かが引っ掛かったようで、がさっと聞きなれない音がした。


「なにこれ、袋……?」


 どうやら玄関のドアに括り付けられていたようだ。

 家の中に戻って袋を開けてみると、中からラッピングされた箱と封筒が出てきた。

 封筒の中には一通の手紙が入っていた。


「なになに? ……これって」

 手紙は、深癒からのものだった。


『メリークリスマス。最後の最後に、ユキに辛い思いをさせてごめんなさい。昨日のことは忘れて』


「……なによ、それ」


 告白しておいて、しかも忘れろなんて。勝手すぎるよ。

 深癒だって、いや、きっとあたしより辛い思いをしたはずだ。あたしは、答えを出さずに逃げ出したんだから。

 箱の中からは、いつかあたしがデパートで深癒に試着させたのと同じ服が入ってた。

 これ、確かすっごく高かったはずなのに。


「深癒……」


 あたしは、その服を乱暴に袋に詰め込み、手に持ったまま家を飛び出していた。



「あれ、雪乃じゃん。マジ偶然だねー」

「あ、皐月……」

「こんなとこで何してんのー? 誰かと待ち合わせ?」

「いや、そういうのじゃないんだけど」

 公園のベンチに一人座ってたら、そう思うか。


「ふーん、まあいいや。それより、予定ないんだったら皐月と遊びに行かないー?」

「へ? ……遊び、かぁ」

「ダメかな?」

「今日は、ごめん。また今度なら」

「もしかして、なんかあった? 今日ちょっと落ち込んでるね」

「そう見える……?」

「皐月の観察眼を甘く見ないことだねぇ、これマジだよ」

「そっか。分かっちゃうかぁ」

「できる範囲なら、相談乗るよー」

 皐月にだったら、話しても大丈夫かな。この子、ちょっと抜けてるところあるし。


「……実はね、昨日のことなんだけど――――」



 あたしが話してる間、皐月は静かに耳を傾けていてくれた。間に質問や、意見を挟むことはなく。

 ただ静かにうなずいて、一言一句残さずに聞いてくれた。それが、あたしにはとても有難かった。

 実際、誰から告白されたかはぼかして話したので、皐月にはよく分からないところもあったかもしれない。それでも、その気遣いがたまらなく嬉しかった。

 一通り話し終えると、皐月はようやく重い口を開いた。


「うん、それは雪乃が悪いね」

「……やっぱりね」


 自分でも分かってたけど、改めて指摘されるとなおさら強く感じられた。


「で? 結局、雪乃はどうしたいの?」

「あたし? あたしは……」

「その子と仲直りするかしないかは、雪乃次第だよ。少なくとも皐月としては、勇気を出して告白したんだから返事だけはちゃんとしてあげて欲しいな」


 ……そうか。あたしは、深癒に告白の返事を伝えたかったんだ。

 この深癒を思うあたしの気持ちが、恋愛のそれなのか友情のそれなのかは、まだはっきりとは分からない。けど、あたしが今しなきゃいけない、したいことだけは分かってる。

 昨日のことを謝るために、深癒と話をする。そして、深癒と話す中で答えを見つける。

 これから、あたしは深癒とどういう関係で生きていきたいかを。それを伝えるために。


「……皐月、ありがとう。あたし、行かなきゃ!」

「うんうん、やっと目に光が戻ったね。それでこそ雪乃だよー」

「そうかも。本当にありがとね、今度何か奢らせてよ」

「でっかいパフェでも頼みますのだよ、マジで」

「いいよ。それじゃ、またねっ!」

「頑張ってねー!」


 皐月に手を振ってもらいながら見送られつつ、あたしは公園を飛び出した。目指すは、深癒の家だ。



◇◇◇◇◇◇



「あーあ、告白する前に振られたみたい。嫌な役回りだなー全く」


「……ファイト、みゆっち」



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