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歪恋愛シンドローム  作者: 杞憂
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萌芽1

    ――――あたしたち、ずっと友達でいようね。


    ――――! ……うん、私たちはずっと友達だ。



 あたしが発したその他愛ない言葉に、あの子がどれだけ傷つけられたのか、あたしには知る由もない。だけど、知る必要もないと思う。だってその思いは、彼女にしか分かるはずがないのだから。


◇◇◇◇◇◇


 去年の暮れ頃の出来事だった。あたしはあまり新聞やニュースを見ない性質で、そのため政治にも疎い傾向があり、その事実を知ったのはクラスメイトとの会話の中でのことだった。


「え、雪乃知らないの? 今ちょー話題になってるよ、同性婚が認められたって、マジで!」

「何それ、初耳なんですけど」


 興奮冷めやらぬ、といった様子で彼女は嬉々として答えた。一方そんなことを微塵も知らなかったあたしは、彼女との温度差に戸惑ってしまう。クラスの中でも専ら話題となっているのは同性婚関連の新しい法律だったり、誰それとの恋愛話だったりと、全体的に浮ついている感じがする。というのもきっと、この学校が女子校だからなのかもしれない。女子しかいない場所だから、この話題はあたしたちに当てはまり易いんだと思う。まあ、認められる=マジョリティになる、とすぐに変わるわけではないわけで、あたしにとってはあまり興味のない話題だ。


「というか、あんたも女の子が良いわけ?」

 特に意味はないが何気なく聞いてみた。


「え、いや~。どうなんだろね? ああでも、三年の王子様なら大歓迎かも!」

「ふーん。まあ王子が誰かは知らないけど。軽いもんだね、あんたの恋愛って」

「なによ~、冷たすぎ! 王子ってば、ちょーカッコいいんだから、マジで。雪乃も会えば分かるよ!」

「はいはい、この話は終わりね。また明日」

「も~、いけず」


 適当にあしらって話を切り上げる。そろそろ部活に行かなければならないと席を立つと、教室の扉の前で見知った顔が待っているのに気付いた。


「や、ユキ。部活一緒に行こ」

「深癒、待ってたの?」

「うん、ユキと一緒が良かったから」

「何それ、照れるんですけど」


 天羽深癒あまはみゆ、クラスは違うけど小学校からずっと同じ学校に通う幼なじみだ。昔は元気なやんちゃっ子だったが、最近は比較的大人しい性格に変わってきている。あたしと深癒は小さい頃から何をするにも二人セットだったので、その名残で今も同じ部活で頑張っている。きっと深癒とは、これからもずっと一緒だとあたしは思ってたり、まあ腐れ縁ってやつ?

 更衣室へと向かう間、あたしたちはのんびりおしゃべりしながら歩いていた。部活のこととか、近い期末テストのこととか、深癒といると何だか安心して何でも話せる気がする。


「テストそろそろだよね~。あー、勉強ばっかだとストレスたまるわ」

「あはは、いっつも同じこと言ってるよ、ユキは」

「む。だってあたしは深癒みたいに頭良くはないですからね~。クラスで三位だっけ?」

「四位ね。私だってそんなに得意じゃないよ」

「それで得意じゃないんだったらあたしはなんなのよ~! この前のテストなんて二十三位よ、微妙もいいところでしょ」

「えと……ノーコメントで」


 あ、逃げた。深癒は言葉に詰まると大体そう言って回避しようとする。何だか頭がいい子の波風立てない逃げ方みたいで釈然としない。気が置けない仲なんだから、もっといじってくれてもいいのに、なんて。そこであたしは、逆に深癒をいじることを閃いた。


「ねえ、深癒。今度さ、勉強教えてくれない? 二人っきりで」

「い、いいんだけどさ。なんで"二人っきり"を強調したの?」

 妖しい雰囲気で迫ると、案の定深癒は驚いて少し引き気味になっている。


「それはぁ、深癒と二人っきりでぇ、イチャイチャしたいから?」

「な、なななに言ってるんだよユキ……!?」

「にひ。照れてる照れてる。顔真っ赤にしちゃって可愛い!」

「か、かわいいとか急に言うなバカ!」


 あー、ずっと一緒だったからすっかり忘れてたけど、深癒って美少女だなぁ。なんていうか、一見活発そうに見えて、実は内面はとっても繊細なガラス細工みたいで、守ってあげたくなる感じ。顔立ちは整ってて綺麗だし、セミロングの髪もあたし好み。はぁー、いじるの楽しい。


「えっへへ、冗談よ。可愛いってのは本当だけど。あと勉強教わりたいのも」

「……全くもう。今度の土曜にうちに来る? そしたら教えてあげる」

「うん、行くー」

 色々と話しているうちにいつの間にか更衣室の前まで来ていた。話が一段落したあと、深癒が扉を開けるときにぼそっとこちらの顔を見ないで言った。


「……ユキの方が、可愛いよ。私、ユキの笑顔好きだし」

「……………………へ?」


 不意打ち過ぎて、あたしは一瞬固まってしまった。多分目を丸くして滑稽な顔を晒しているだろう。そのすぐ後に、深癒をいじったことを後悔しそうなほど恥ずかしくなってきた。


「ちょ、ちょっと!」

「ふふ、ユキも顔真っ赤。りんごみたい」

「もぉ~! からかわないでよー!」


 深癒が反撃してくるなんて、予想外だった。あのいい子な深癒が、珍しい。といっても、あたしから仕掛けたことだから強く言えないんだけど。

 それにしてもなんて破壊力だ、これ。たったの一言で、あたしのライフは大幅に削られてしまった。もうこれからは深癒をいじるのは程ほどにしよう。あたしの精神が持たない。


「からかってない、本当だよ」

「まだ言うか、このこの~!」

「いたたたっ! ホールドするなぁ!」


 そうしてその日は騒がしくも平凡に過ぎていったのだけど、クラスメイトから聞いた話をあたしが身をもって実感するのは、もう少し先のことになる。


 

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