三十七話 『冥土』撤退作戦
エプロンのような、しかしあちらこちらに装飾がされていて、おまけに目に悪そうな蛍光色のワンピース。
「……なんだそのふざけた格好は…」
場違い以前の問題であった。あまり知らないが恐らくア○バ系のメイド、というやつだろう。一昔前に一部で流行っていた、という話はきいたことがある。
「あんたこそ、そこまで『人間らしい』と不気味だっつーの」
メイド服の女は眼前の売家の屋根から道路に立つこちらを見下す。
「……とりあえず降りてきてくれ。…不快だ」
右手の五本指を広げ、メイドの方に向ける。
「!!」
メイド服の女が反応するが、遅い。指先がピピ、と二回緑色に点滅し、
売家の二階部分が容赦なく消し飛ぶ。
……………………
「………」
しかし爆発にしては異様に静かだった。せいぜい家庭用の掃除機位か。これ位なら周囲も気がつきにくい。
そして木片と煙が止み、視界が晴れる。
「うっひょーー。ギリギリ!!」
興奮したメイドの声の方が夜の街に響く。
その女は四方八方に五角形と六角形の盾をまさにサッカーボールのように展開し、身を守っていた。
五角形はライトグリーン、六角形はライトパープルのその盾は彼女の声と共に硝子の様に砕け散った。
「じゃあ今度はあたしのターンかなー!」
まだ残った一階部分の屋根に乗ったメイドが左手を掲げる。
「…? !」
一瞬怪訝に首を傾げる。しかし次の瞬間には首を反らし、何かを回避しようとする。
感覚で言うなら糸のような物。それが目の前を通過する。
「……………………………」
(『演算』が間に合わなかった!? 理屈じゃないってことか? )
「…流石『未来因子』。博士から押し付けられた雑用だと思っていたが…、意外と」
目の色が、黒と白から赤と緑に。比喩的ではなく実際に変化する。
「面白いじゃん」
身体中からしゅー、と湯気が噴き出る。まるでいらない物を吐き出すように。
「『サイボーグ』が…」
メイドが吐き捨てるように呟く。
がち、と機械同士が噛み合う音がする。
「「!」」
地面を離れ、一瞬でメイドの正面をとり、手の甲から突き出たナイフを突き刺す。
メイドはただ中途半端に握り締めた右拳を左から右に動かす。
それだけで見えない刃と実体の刃が拮抗する。
(『未来因子』…)
ヒーローの能力名としては『仮』のものだ。発動条件、特性が不明……、否、『現在の力では解明が不可能』なのだ。
(……無理もない。そもそもヒーローそのものの正体もまともに掴めてない今、むしろこういう能力が出てこない方がおかしかった……)
「そしてその能力の解明には二、三十年の時が必要だった」
勢いで吹き飛ばされる前に空いた左手の掌を突き出す。
「そう! しかしながらその前に今、なう!! …この力を解明する方法があった!」
掌から照射されるレーザーを体を急速に捻り、回避する。動きにくそうなメイド服はおろか、裸体でも到底できそうもない動きを負担なくこなす。平然とした顔でそのまま頭についたカチューシャを外し二本の指で挟んで振るう。腕は容赦なく頭上を空振るが、その後。
その腕の軌道を縫うように重力の塊のようなものが降る。
「ぐっ…」
反応が遅れ、頭で十字に組んだ腕がギチギチと音をたてる。
さらにメイドは屋根に着地する瞬間もう一度腕を振るう。カチューシャを頭に載せた瞬間目の前に鈍色の槍が出現する。
押されるまま地面に叩きつけられる。
「ぷは!」
(やっぱり『視えない』…。ふざけた力だな)
「その方法は、いやその人物は!」
放つ人物名は同じ
「「松川博士!!」」
(まあ当然知ってるか…)
互いに両手を広げる。ちょうど中間の距離で断続的に爆発が起こる。
「…名前、なんてったっけか?」
確認を取るように呟く。
「……『冥土』!!」
「うわぁ…」
吹き飛んだ。『冥土』と言うふざけたメイドを。
今回の目的は討伐ではなき撤退。いずれ必要な人材らしい。
「博士…お待たせしました」
『…少し遊び過ぎていたのう? まあこういう機会も少ないからよしとするが』
電話のように会話をするが、耳には何もない。
『とりあえず一旦戻って来い。『冥土』君と住宅についてはこちらが手配する。…しかし彼女、なかなか面白い。やはりいずれ実験には必要不可欠か』
「…了解しました」
まるで機械人形のように歩き出す。しかし、あのメイド服の『冥土』は言っていたではないか。
『サイボーグ』が…
と。




