三十四話 迷宮⑦
「みーつけたぁあ!!」
「いやぁぁぁぁあああ!!?」
家に見えるハリボテを壊して壊して、再び出会ってしまった神崎と月影夕与。そしてそれは、この戦いに終止符が打たれるの…
「長かった鬼ごっこはおしまい!」
「…くっ!!」
…だろうか。
「は!」
走り回って体力はほぼ限界。半ば倒れこむようにして襲いかかる神崎。しかしそこで異変に気がつく。
「は!?」
武器としていたカッターナイフ。その刃がとうとう最後の一枚も切れてしまったのだ。
「!」
そしてそのチャンスを逃すほど月影も甘くない。
体力を温存していたのも効いたのか、素早く後ろに下がり、分銅の付いた鎖を振り、神崎の首を後ろから押し付けるように当てる。
「が…」
足が痙攣して立てない。一時的に動けなくなった神崎に近寄り、月影は神崎のズボンのポケットから次々と『武器』を取り上げる。
「カッターナイフにハサミに…尖っている物であればいいなら確かにシャープペンシルや鉛筆も有効か…。しかも学校だから持っていても怪しまれない……考えたねえ」
目がギョロリと動き、取り上げた武器を全て後ろに投げ捨てる。
「…そっちの、制服の胸ポケットの方は?」
「……ち」
倒れている神崎の前にしゃがみ、近づく。
「!」
「!? が!?」
一瞬だった。神崎の左手が素早く動き直後に月影の伸ばしていた右手の手首から地が噴き出した。
「は!? …あ」
未だに状況に着いていけないようだ。とりあえず手首を抑え、一歩、二歩と後ろに下がる。鎖は床に落ちた。
「…まさか役に立つとはなーー…」
一方の神崎は立ち上がりながら何か感心したように自分の左手を眺めている。
「…な、にを…。?」
「んーー? これこれ」
自分の左手をに月影夕与向ける。その指、一見普通だが、よく見てみると一箇所違和感が。
「ここの小指の爪、ここはいつも尖らせているんだ。理由はわかるよな?」
鋭利断裁と呼ばれる彼の能力は早い話が尖っているもので斬れそうもないものが斬れる能力。当然、小さな爪も例外ではない。
「………」
「ーそれじゃあ、ほらこれ」
胸ポケットから最後の武器を取り出す。月影が唯一取り損ねた武器を。
彫刻刀。
今度こそ、勝敗が着く。
☆
「ええ、そうです。こちらは負傷者一名。…は。すいませんでしたーー、まあいいじゃないですか。こうしてわかりましたがやっぱりあいつ能力以外はカスですよ。それより、興味深いのが。ええ、この傷を付けた奴です。……ーじゃあまた後で」
通話を終了し、携帯をしまう。住宅街から撤退し、今は大通りのビルの屋上に。
「…。」
夜景を眺めながら、額の血を拭う。
「まだ止まってなかったか…」
今日横濱弘星につけられた傷だ。
「でも、なかなか面白いのが見れた」
その傷や弘星に怒る事はない。寧ろ高評価だ。
「…ん……」
傍にいる少年の意識が戻る。
「! 目良さ…ん。……」
「いいっていいって。言わなくてもわかるから」
慌てて弁明しようとする少年を笑顔で黙らせる。
「こっちとはぐれた挙句、ただの、一般のヒーローに惨敗…。間違ってないよね?」
「いや、その。それは!」
声に重さは全くない。だからこそ、得体の知れない悪寒がする。
「つ、次こそは!!」
思わず立ち上がり、目良に向かって叫ぶ。
「そうだねー」
少年の肩に手を置き、目良は立ち上がる。
「へ?」
次の瞬間、少年は浮いていた。そしてすぐに重力を感じる。
「それじゃゃあその『次』とやらを見せてくれええええ!!! 簡単! 意地でも生き残れればそれでおっけぇぇい!!」
彼にしては珍しく興奮している。およそ十階の高さのビル。すぐに地上に着くだろう。
(さっきの台詞は聞こえてないかもしれない。下の大通りには人が大量にいる。だが知ったこっちゃねえ! 死に物狂いの底力、見せてみろおおおぉ!!)
腰に手を当て、下を見下ろす。まだ状況を理解していないのか、少年はただ闇雲に手足を動かすだけだ。
その姿もみるみる小さくなり、
「ーーー……あーあ…」
下から悲鳴があがる。
目良理は心底残念そうな表情で下を見つめ、
「…………んん!?」
☆☆
「おおおーーい!!」
「! 神崎!」
朽木、横川、渡辺、中原、神崎。
今回の事件に関わった人が集まる。
そしてここはその住宅街。一見あの迷宮と変わりはないように思えるが、間違いなく戻ってきたと実感できた。
「いきなり周りがぐにゃーーってなったと思ったらいきなり夜になって…。その…、犯人は?」
「まだ見つかってないけどこの辺にいるはず。今捜してるよ。しっかしあいつ弱かったなー。腹辺りをちょっと切っただけでショックで気絶しちゃってさ…。横濱は病院に?」
「さっき救急車でね。俺等もこれから一応行く事になっているんだが、神崎もそれでこっち来たんだろ?」
「まあ…そんな感じですねー。…どうした渡辺?」
「皆は心配じゃないの? 神崎はともかく横濱は一般人じゃない。どうしてあそこにいたのかはわからないけどあんな巻き込まれて…」
(あ、そっか)
渡辺だけが横濱の正体を知らないのだった。
「まあ、心配だよな。そりゃ」
そんな懸念がありつつも、一つの事件は幕を閉じる。
「ふーーーむ…」
タイルス本部、地下研究施設。
地下の殆どは様々な研究所が占めており、日々様々な研究がされている。
しかしその研究施設の実に9割はたった一人の研究者の物だった。
「よし、じゃあ次の実験をするかのう。2番実験室に向かってくれ」
そのたった一人の研究者に、最近助手ができた。
「……了解です、博士」




