二十八話 迷宮④
最後に出てくる道具は武器ではありません。でも実際当たると本当に痛いのです。
長さ50㎝、直径10㎝程の槍。
何故こんなサイズの槍を?
(速さを活かしての攻撃…。別にこんな大きな物である必要は無い筈。小石でも十分にダメージを与える事はできる…)
背中から槍を取り出し、投擲体勢に入り、手から離れる。投擲体勢時に波動を利用し盾を生成してなければ間に合わない。投げてくる槍は音速レベルに達しており、目で追えるわけもなく、盾に当たる感触で初めてわかる。自分の正面を覆う程の盾を展開しているが、その盾を突き抜けんばかりに押し当たる槍。その威力の源は当然速さ、である。
防ぎきった槍は威力を無くしその場に落ちる。そんな感じで足下には幾つもの槍が。更に方向を間違え、立体化した迷宮の天井に突き刺さる物も。
(…これじゃあただの持久戦。埒があかないが奴の目的がわからない今……)
考えながら、盾を展開しながらも確実に体力は削られている。そこそこ過ごしやすい気候な筈なのに体からは汗が滲み出る。
正体不明の長身青年は再び手を後ろに。取り出したのは当然槍………、ではなく携帯電話程の大きさのリモコンだった。
(? …あれを、投げるのか?)
確かに当たれば痛そう、というかあのスピードだったら何が当たっても致命打だが…。
その意に反し、リモコンは何かボタンを押しただけで直ぐにしまってしまった。
「? …い``!?」
何が来るかわからないまま構えていたところに足、正確には左足の足首に激痛が走る。
無意識に体が強張り、後ろに倒れる。
「あ``あ``あ``ああ!?」
体の後ろ側全体に痛みが襲う。地面に落ちる、刺さる、散らばる槍。それらを網のように繋ぐ細いワイヤー。天井や壁に突き刺さる槍とも繋がり、動きを阻止する。
(動けば体中が引き裂かれる仕組みか!)
痛みとそれに伴う興奮を鎮めようとしながら推測する。
正面に構える青年が今度はポケットに手を突っ込む。
(…まずい…)
何が来るかはわからないが恐らくまた投擲物だろう。盾を創ろうと掌に力を籠める。
「ぐっ!」
グレーに輝く光が集まるが、すぐに肥大化し、拡散、消滅する。高ぶる感情と擦り減る体力により能力の制御が上手くいかない。
(…この状態で能力を使ったら…)
「暴走等により自滅するかもね」
「!」
完全に理解されてる。そして青年は何かを放つ。
「くっ…」
能力に頼るのを辞め、咄嗟に腕を十字に組む。歯を食いしばり覚悟を決めた。が、
「!!?」
(は…!?)
衝撃があったのは脇腹。骨まで響くような痛みを感知し、目には涙が浮かぶ。
そして追撃。防御が薄くなった腕、そして胸部、その他体中に同じ痛みが走る。
「!!!」
倒れそうになる体を支え、悪くなる視界の中相手が持つ武器を見極める。
「…ボール…?」
野球のボール程の大きさで、当然球体だ。
「若干違うかなー…。正確には『バウンスボール』って言ってな。本来はジャグリングに使用する道具なんだ。ゴム製の高反発ボールだよ」
そのボールの一つを地面に向けて落下させる。コンクリートの地面にドン、と少々重そうな音を立て垂直に跳ね上がる。そのまま奴の手中に綺麗に収まる。
「下手に動けば余計な傷を負い、能力による補助は諸刃の刃。こっちの武器は二種。…さてどうする?」
家という壁を四方に設置し安全地帯を作る。既に今の実力では限界な位迷宮は拡張されていた。
現在迷宮内にいる人物は八人。うち一名は脱落、二名は戦闘中。ほぼ無限に広がる迷宮内の何処に誰がいるか位は解る。脳内に図面が浮かび上がるのだ。そして標的も。一人で移動している奴がそうだろう。
強かった。もう一回対面すれば完全に敗北するかもしれない。
(何か対策…)
壁の数を増やす?
…今奴は壁ごと破壊しながら進撃している。多少の足止めにはなるかもしれないが、効果は期待できない。
迷宮の外に出る?
…人を迷宮に放り込むため外に出るのには迷宮内に分身のような物を置いていかないといけない。分身は動かす事ができないうえに攻撃されたら本体がダメージを受ける。…迷宮そのものを捨てるには迷宮内にいる全員を解放しなければならない。
(いつまでも留まっているのは危険だな。とりあえずは奴から距離を取りつつ策を練ろう)




