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第二章   その五

   第二章   その五




「・・・ちゃん。マミちゃん・・・」

 遠くて近く、シスターの声が聞こえた。

 んーなあに? もうちょ───っ!!


「ふぎゃんっ!!」


 布団をはね飛ばして起き上がると、なにか柔らかいものに激突。続いて奇妙な悲鳴が聞こえた───が、そんなことにかまっている暇はない。神速級のスピードでドアを開けた。

「ゴメン! 寝坊した?」

 開けると、ジャージ姿のシスターが立っていた。

 なぜかは知らないけど、朝のお勤め《掃除》はこの格好なのよね。

「ううん。まだ6時前よ。疲れているならまだ寝てなさい。わたしがやるから」

 とんでもない。シスターにやらせたらサリアの住人は速攻で天に召されるよ。

「大丈夫。直ぐ行くからお湯を沸かしてて」

 急いで着替え洗面所(脱衣所)へダッシュ。途中、意味不明に怒るルーラをはね飛ばしたような気もするが、そんな細かいことに気にしている暇はない。朝は1分1秒無駄にはできないのだ。

「シスター。後はあたしがやるから!」

 冷蔵庫から出したハムを奪い取り、台所から追い出した。

 捨てられた仔犬のような表情を見せるが、そんなものに同情してたらサリアは守れないのだ。

「おしっ! やるか!」

 昨日セットした一升炊きの炊飯器と五合炊きの炊飯器1号をテーブルへと置く。

 棚から大皿と梅干しが入った壺を出し、冷蔵庫から昆布の佃煮とシャケフレイクを出しておにぎりを作って行く。

 野郎が5人。底なしの胃袋を満足させるにはおにぎりが一番なのよ。

 大量のおにぎりを作ったら次はお味噌汁。それと同時に玉子焼きを作り、トマトと漬物を添えて終わり。

 だいたいその頃になると、バレーの名門高校に通う博幸にいちゃんとアツキにいちゃんが起きてくる。

「おはよう。そのまま洗面所に直行!」

「はぁ~い」

「・・・ああ・・・」

 自分たちで起きてくるのは助かるけど、パンツ姿で起きてくるな! ひなこの教育に悪いじゃないのさーーなんていっている暇もなく流し台に5つの弁当箱を並べる。

 五合炊き炊飯器2号からごはんをよそい、作った順におかずを詰めて行く。最後にマグボトルに麦茶を入れて完了だ。

「・・・おはよう、おねえちゃん・・・」

 夢の世界に片足突っ込んだひなこが起きてきた。

 いつもは弁当作っている頃に起きてくるのだが、部屋を占拠した次の日はちょっとお寝坊さんなのよね。

「おはよう。着替えたらテーブルに並べてちょうだい」

「わかった。あれ? 秀雄にいちゃんもう行くの?」

「ああ、日曜日に試合があるんでな、軽く朝練することになったんだよ。なんでマミ、朝メシ包んでくれ」

「あいよ。冬香にいちゃんは?」

「まだ寝てる」

「もー! ちゃんと起こしてきてよ! あ、一郎にいちゃん冬香にいちゃん起こしてきてよ」

「あいよ」

 さすがサリアで一番頼り甲斐のある人。ほんと、秀雄にいちゃんが育てたとは思えないね。

 シャキっと決めた博幸にいちゃんとアツキにいちゃんが朝食を食べ終わり、自分の弁当を包み始める。

 続いて秀雄にいちゃんと一郎にいちゃんが着替えてきた。

「マミ、包んだ?」

「できてるよ。あ、そこ! そのまま座らない。洗面所に行く。ほらっ!」

 秀雄にいちゃんの陰に隠れてこたつに座ろとする冬香りにいちゃんに喝を飛ばした。

 まったく、顔いい、頭いい、性格いいと三拍子揃ってるクセに身だしなみ疎くてマイペースなんだから困っちゃうよ。

「んじゃ、いってくる」

「いってきます」

 サッカーの強豪私立中学に通う秀雄にいちゃんと一郎にいちゃん。ただでさえ朝が早いのに朝練とかあるとさらに早くなる。ほんと、14キロの道程は大変だ。

「あ、忘れてた。今日、監督のうちで反省会があるから夕食いらないよ」

「了ー解。あ、二人とも。ちゃんと礼儀正しくするんだからね! それとガツガツ食べない。いただきますごちそうさまはいうんだからね」

「わかったよ」

「ちゃんとするよ」

 二人を見送り、空になったお皿やお椀を流しへと運ぶ。あとはシスターにお任せ。最後までやってたら遅刻しちゃう。

「おねえちゃん、マーガリンでいい?」

「あれ? チョコレート切れてたっけ?」

「うん。あと、イチゴとカスタードもないんだ。 昨日は半分以上あったのにな~?」

 それはね、こたつの上であたしのホットミルクを飲んでいるネズミが食べちゃったからだヨ。

「知らないもぉ~ん」

 焼き上がった食パンを両脇に抱え、食器棚の上へと逃げ去った。

「なんなのよ、いったい!」

「どうしたのおねえちゃん、突然怒り出して!?」

「え、あ、な、なんでもないよ」

 ベロベロバーしているファンタジーが見えるのはあたしだけ。なにもなかったように席へとつき、ひなこがぬってくれたパンを一口かじり、弁当の残りに手をつけたところでなにか忘れていることに気がついた。

「あれ? なんだっけ?」

 シスターに尋ねた。

「秋ちゃんなら明日くるって」

 突然の問いに当然のように答えるシスター。それを不思議そうに見るひなこちゃん。あたしもとうとう不思議ちゃんの仲間入りかな?

「ごちそうさまでした。冬香にいちゃん食べたらちゃんと流しに運んでよ。それと寝癖は直す。少しは身だしなみに気を使え!」

「食べたらやるよ」

 小学校が2キロ。中学校が400メートルちょい。コーヒーを堪能する暇があるなら髪型でも整えろ、まったく。

 いつもの朝でいつものサリアの風景だ。

 寂しい思いも辛い思いもない。そんなことにかまってられるほどゆとりある日常ではないし、生きている充実感で満ちている。でも、なんだろうこのモヤモヤした気持ちは? あのにいちゃんの顔が頭から離れてくれないのだ・・・

「・・・なんだろう、これ・・・?」

「うん? なにかいった?」

「ううん、なんでもないよ。さあ、行こう」


『───いつも元気と笑顔を忘れずに───』


 それがあたしのモットーだ。

「んじゃ、いってきまぁーす!」






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