第二章 その三
第二章 その三
雲を突き抜けると、星が星らしく輝いていた。
「なんて綺麗───アレ?」
感動を口にしたらなぜかストップしてしまった。
「なに? 壊れちゃったの?」
空を飛ぶための鳥型ボート、バーバリを叩いてみる。
「これ以上は星たちの世界だからよ」
「え~! もうちょっと近くに行きたかったのになぁ~!」
「星は天にあるもの。風は吹くものの。文句をいったら風に嫌われるわよ」
「ふふ。そりゃ大変だ」
軽やかに旋回し、下で輝く世界へと降下した。
「風は吹くもの、か。うん! 気持ちいいぃ~!」
バーバリは空を飛ぶというより空を滑るものといったほうがいいくらい滑らかに飛んでいた。
大回転に宙返り。急降下に急上昇。どんな飛行も思いのまま。クルクル舞ったりアクロバティックなことでもできちゃう。
「アハハ! たっのしぃ~っ!」
「そんなにはしゃいでいると飛行機にぶつかっちゃうわよ」
「えへへ。だって楽しいんだも~ん!」
呆れるルーラをひっつかみ、思いっきり頬をスリスリさせちゃう。
「・・・ごめんね、マミちゃん・・・」
されるがままでいたルーラが突然謝ってきた。
「なんのこと?」
「おとうさんに会わせてあげられなくて」
「なんだ、そんなコトか」
「そんなことでいいの?」
「まあ、純真な子供の夢を粉砕してくれた馬鹿父には拳の一発でもくれてやりたいけど、今はこの感動を優先したいから怒るのはあとよ!」
「拳だけじゃなく足も出てそうね」
「ついでに膝もくれてやる!」
「ケダモノね、マミちゃんは」
怒りのまま蹴りを放つが、そこにルーラの姿はなかった。
「あらあら。マミちゃんって意外とノロマさんなのね」
頭の上で人を小馬鹿にするルーラをつかもうとさた瞬間、火を吐くロケットのように逃げ出した。
・・・ウヌヌ。また人の心を読んだな・・・
ふつふつと沸いてくる怒りを風へと変換。お馬鹿さんに天誅を下すために風をバーバリに送り込んだ。
夜9時過ぎ。どこかの駅の上空でルーラが急停止した。
「どうしたの?」
顔を覗き込むと、なにやら緊迫した表情だった。
「・・・いる。近くにいるわ・・・」
「なにがよ?」
「・・・邪霊獣よ・・・」
といわれてもあたしには見えませんけど・・・
「それほど遠くないわ。ルーチャを抜いて。直ぐにでも戦いになるかもしれないから」
訳がわからないがルーチャを抜いてルーラの背に回った。
「・・・この気配、ルーペコだわ・・・」
なんとも可愛いお名前ですこと。聖霊界もクーマカだし、もしかして姿も可愛いのデスか?
「───気づかれた! こっちにくるわっ!」
「いや、そういわれても・・・」
「マミちゃんにも感じれるはずよ。集中して感じて。自分の中にある力とは違う、とても嫌な力を」
『───吹く風。咲く命。望む思い。この世は目で見えぬもので溢れかえっている。ならば目を瞑り、心で見ようではないか───』
昇段試験のあと、師匠がいった言葉が出てきた。
大きく息を吐き、心を静めて意識がを集中する。
あたしの中を駆ける力は春の太陽のように暖かい。ほんわかまどろむような感じとは違い、夏の太陽のように輝く強い力が背中から伝わってくる。そして、斜め右から冷たくてドロドロしたなにかがこちらに向かってくるのが感じ取れた。
「・・・なんか、気持ち悪くなってきた・・・」
まるで生ゴミの中に放り込まれたかのようだ。
「邪気に気をつけて。リルプルが防いでくれるとはいえ、何度も受けたら壊れ───」
言葉途中でルーラを突き飛ばした。
これぞ修練の成果。あと半舜でも遅かったら命をもってかれそうな黒い塊が直撃していたところだ。
あいや、それより、あんなの食らって本当に大丈夫なんでしょうね?
「───っ!?」
突然目の前に炎の壁が出現。黒い塊を弾き返した。
「集中してっ! ルーペコの飛行能力は変幻自在なんだから!」
なかなか無茶をいってくださる。
あたし、そんな心眼を極めた剣士じゃありませんよぉ・・・
「炎の矢!」
ルーラの小さな手から放たれた炎の矢が黒い塊を打ち砕いた。
「すごっ!」
「マミちゃん、行くわよ!」
自分も炎の矢と化してルーペコへと突っ込んで行く。
「・・・実戦に勝る修業はなあ、か・・・」
やれやれ。