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第二章   その二

   第二章   その二




 そこは友達が住むマンションの屋上だった。

 眠れぬ夜、教会の屋根に上がって見た星空とは全然違う。まるで宇宙に出たかのようだ。

「ほらほら、いつまでそうしてるの。風邪引いちゃうわよ」

「もうちょっと。もうちょっとだけひたらせてよ」

 この頬に触れる風の感触も全然違う。まるで風たちがなついてくるようだわぁ~。

「もー! リルプルを纏えばもっと感じられるんだから話を聞いて!」

 夜空の下で舞うあたしの頭の上で地団駄を踏んでいる。

「はいはい、わかりましたよ」

 ドレスの襟首をつかみ、ポイと放り投げてやった。

「まったく! 風邪引いたらどうするのよ。ほらっ!」

 そのかけ声とともににルーラの右手に火の玉が生まれ、そして弾けた。

「あれ? なんだか温かくなってきた」

 全身に湯タンポでも当てられてるかのようだ。

「ほんと、子供なんだから!」

「11歳は立派な子供なの。そーゆールーラは何歳なのよ?」

「秘密」

 プイって横を向いてしまった。

 ・・・ファンタジーでも女性に年齢を聞くのはタブーなのか・・・?

「んで、子供のあたしがどうやって捕まえるワケ?」

「まずはこれよ」

 ルーラの左手に小さな光の玉が生まれた。

「なにそれ?」

「これは魔法の種。ってところかしらね。真実子ちゃんの魂に植え付けるのよ」

 ルーラの小さな手があたしの胸へと近いっき、そっと光の玉を胸へと押し込んだ。

「・・・それで、なにがどうなる───」


 ───ドクン!


「───んなっ!?」

 突然胸の中で表現しがたい爆発が起こった。

 なになになに!? なんなの!? なんだっていうのっ!? これなに? 身体破裂しちゃうよっ!? 

「大丈夫。落ち着いて。生まれたことに喜んでいるだけ。直ぐにおさまるわ」

 ルーラの言葉通り、爆発は徐々に小さくなった。

「・・・な、なんなのよ、いったい・・・? 」

「その聖なる名は、ミミカ。真実子ちゃんが生み出した"白き風"の魔法よ」

 ・・・風? この身体中から出る白い湯気みたいなのが? これが魔法なの・・・?

「ご感想は?」

「・・・言葉にできないよ・・・」

 これは楽しさではない。喜びでもない。なんだろう? この感覚、前に一度経験してるような気がする。なんだっけ? えーと、んーと、あっ! そーだ。師匠から木刀をもらったときの感覚だ、これ!

「さすが真実子ちゃんね。風魔法の中でも聖なる風とされる白き風を生み出すんだから」

 それがどう違うのかあたしにはわからないけど、うん! この風いいわ! 気に入った! よろしく、あたしの風さん!

「白き風の聖なる戦乙女、ミミカ・ハッフルここに誕生ぉ~!!」



 しばらく身体中から出る風で遊んでいると、ふっと面白い考えが浮かんだ。

 身体から出る風を全部下に向けたーーけど、ほんの少し浮いただけだった。

「んー無理か」

「今はね。でも、その魂が輝けば輝くほど魔法は強くなり、空も飛べるようになるわ。けど、邪な気持ちで使えば真実子ちゃんの中から魔法はなくなってしまうの」

 小さな水色の瞳があたしを包み込んだ。

 出会いはお昼だっていうのに、何年も前からこの瞳に包まれていた感じがするよ。

 自然と右手が動き、その小さな身体を手のひらに乗せた。

「今さらだけど、あたし、ルーラと友達になっていいかな?」

 その小さな足から激しくも優しい炎が伝わってきた。

「・・・わたしがこの世界にきたのは聖霊界に、自分に疑問を感じたから。綺麗な世界。幸せな世界。なにも変えなくていい世界。わたしがわたしでなくてもいい世界。同じ今日。同じ未来。まるで時間が止まったような世界・・・」

 伝わってくる炎は激しいのに、その笑顔はロウソクの火より儚げだった。

「そんな世界で燃えるわたしをセーサラさまは心配してくれた。深い愛で包み込んでくれたわ。けど、わたしにはいらない心配。いらない愛。選ばれた役目もいらない。わたしが欲しい───」

「───ダメ! それ以上いったらルーラじゃなくなる!」

 なにか嫌な予感がして慌て止めた。

「・・・ごめんなさい。ときどきこの感情が暴れちゃうの・・・」

 他のハッフルなんて知らないから比べることはできないけど、ルーラが特別なのはなんとなくわかる。きっとあたしたち人間に近いだと思う。

「いい じゃないの感情が暴れちゃってもさ。楽しいのを楽しいと感じるのはその感情があるからよ。ルーラと友達になりたいっていうのも感情だよ」

 その感情せいで悲しいむときもある。辛いと胸が痛くなるときもいる。だけど、その感情には喜びがある。温かさがある。胸を熱くさせる。なんとも困った感情だけど、それがあるからこそ心が育つ。心が大切だと知るんだ。

「あたしはルーラと友達になりたい。それって嫌だった?」

 その小さな、今にも消えそうな炎に風を吹き込んだ。

 風を受けた炎が徐々に勢いを増し、先ほどの、ううん。それ以上の激しくさで燃え出した。

「じゃあ、わたしも"マミちゃん"って呼んでもいいのね」

 クスっと悪戯っぽく笑った。

 べっ、べつに、壁をつくってるワケじゃないよ。ただ、呼ばれて嬉しい人とそうじゃない人がいるだけさ!

「え、あ、その、なんと申しましょうか・・・いいじゃないのよ! 好きに呼んでよ! それより続き! 続きと行こうよっ!」

 手をバタバタさせてルーラの悪戯っぽい笑みを払い飛ばした。

「うふふ。それもそうね」

 クルクル舞い上がったルーラは、あたしの目線よりやや上、1メートルくらい離れた。

「じゃあ、まずは手を上か横に伸ばして」

 というので右手を上に伸ばしてみた。

「これはいわゆるリルプルを纏う呪文よ。マミちゃんの好きな言葉とポーズをしたあとに"リルプール"っていってみて」

「・・・そんなんでいいの・・・?」

 なんというかこう、なんたらかんたらカタカナいっぱぁ~い、って感じじゃあないの? いつか見た───かもしんない漫画には、そんなことが描かれていたような気がしますが・・・?

「マミちゃんの中からミミカとは違う力を感じない?」

「え? ───うわっ! なんか入ってる!?」

 しかも1個だけじゃない。何個も入ってるよ!

「いわばマミちゃんという鍵付きタンスにしまってあるのよ」

「鍵付き? なんでよ?」

「本当はリルプールって思うだけでいいのだけど、マミちゃんにできる? 必要ないとき以下はリルプールって思わないでいられること?」

 はい無理です。

「だから鍵を付ける必要があるのよ」

 ・・・はい。納得しました・・・

「では、やってみて」

 下げた右手を再び天へと伸ばし、なににしようかと瞼を閉じた。

 黙考すること数分。それらしい言葉とポーズが浮かんだ。


「・・・我謳うは封印の鍵。呼ぶはミミカの衣。我を纏え───」


 右腕と左腕をクロスさせ、右に一回りて両手を空にかかげた。


「リルプールっ!」


 右手から光の粒というのか光の風てうなか、なんだかわからない光が右手を覆い、続いて腕や身体を包み込んだ。

 けど、それは一瞬。直ぐに光は消え去った。

「・・・・・」

「マミちゃんの───いえ、ミミカ・ハッフルの衣よ」

 ルーラの声で意識を取り戻すと、目の前に見知らぬ女性が立っていた。

 年の頃は、15、6。真っ白に輝くワンピース型のドレスの上にレースのように薄い、まるで翼のようなマントを羽織っている。なぜか薬指と小指のところだけない銀色の手袋。なにかの花をが描かれため桃色のブーツ。腰には意匠に凝った細身の剣を差していた。


 ・・・どちらさまで?


「マミちゃんよ」

 へ? は? あたし?

 よくよく見ればそこにあるのは大きな鏡。なので写るのはあさたしってことになるのか。

 両手で頬をぷにゅぷにゅ。胸をむにゅむにゅ。

 はい、わかりました。


「───あたし、成長してるぅぅぅうぅっ!!」


 鏡の中のあたしが驚いている。

 あたしなの? あたしなのかあたし! そこにいるのは本当にあたしなのかっ!?

 そこになぜ鏡があるのか突っ込まないのとか冷静なあたしが問い掛けくるが、感情を発散させることを優先させて。じゃないと頭が破裂しちゃうよ!

「なぜだ!? なぜなんだあたしよ! そんな変態に育てた記憶はないぞっ! なんとかいってよ、あたしぃっ!!」

「意味のわからない驚きしないの。11歳の身体では弱いからリルプルが一番体力がピークのときまで成長させたのよ。

 へぇ~それは凄い───じゃなくて、聞き逃せないぞ、それは!

 6歳から習い始めた神無月流の稽古はハンパではにい。師匠が生きていた頃は、毎日素振り200回、打ち合い1時間。土日は打ち合いが3時間に組手2時間。最後に座禅と無我になるくらいだ。それが16くらいでピークだなんて・・・ちょっと涙が出てくるぞ・・・!

「安心して。魔法で無理やり成長させるとその年齢がピークなのよ。だからマミちゃんの努力しだいで強くもなれば弱くもなるわ」

 どういう理屈かはわからないけど、この年齢から低下しないのならいいや。

「じゃあ、次に腰の剣ね。ちょっと抜いてみて」

 というので抜いてみた。

 キラキラと輝く刃には文字が書かれていて、ミミカとは違う風が吹き出していた。

「その剣の名は、"ルーチャ"。セーサラさまの思いと伊吹で鍛えられた邪を滅ぼす剣よ」

 綺麗ではあるけど、なんか頼りないよ。こんなに細くて大丈夫なの?

「見た目に騙されないで。聖なる乙女に与えられる聖なる槍にも匹敵するくらい邪を滅ぼす力があるんだから。それに、手から離れても呼べば戻ってくるのよ」

「捕まえるって、殺してから捕まえるの?」

「それは捕獲じゃなくて討伐よ。大丈夫。殺したりはしないわ。そのルーチャは邪以下斬れないから」

 ほっ。それはよかった。悪くなったからって殺すのは乱暴だもんね。

「次は、シルリープといってみて」

 いってみると左手に柄の長いトンカチが現れた。

「それは封印の道具よ。邪を滅ぼして聖霊獣に戻ったら、どこでもいいからポカリと叩くの。そうすれば勝手に封印してくれるから」

 ・・・まあ、形のコトは、ファンタジーだからで納得しておくか・・・

「次は、パーパリね」

「あ、その前に、どうしてドレスなの?」

 どうしても不可解に思ってたこと尋ねてみた。

「え? 似合うと思うけど」

「いや、そうじゃなくて、パンツ見えちゃうじゃない」

「大丈夫。ちゃんと見えないように作ってあるから」

 ・・・それはつまり、服ありきってコトか・・・?



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