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第二章   その一

   第二章   その一




 気がつくとあたしはお風呂につかっていた。

 あれからどうやって家に帰り、今こうやってお風呂につかっているまでの記憶がまったくない。

 ・・・もしかして全て夢・・・?

 んなワケがない。あの人の目もあの意志も脳ミソにしっかりと焼き付いているもの・・・

「・・・ぼくの妹、か・・・」

 ため息とともに漏れてしまう。

 確かにあたしが願った。家族に会いたいと。でも、それは会うだけ。どんな人たちなんだろうと知りたかっただけなのに・・・なんでこうなるのよ・・・

「つまり真実子ちゃんの家族が真実子ちゃんを望んでたってことでしょうね」

 目の前からそんな声がした。

 意識を向けると、あたしの膝の上に腰掛けたルーラがお風呂につかっていた。もちろん裸でよ。

「・・・ファンタジーでもお風呂に入るの・・・?」

「入るに決まってるじゃない。なにいってるのよ」

 ふひ~とおやじくさく息を吐いた。

 ・・・決まってるか決まってないかは軽く流しておいて、夢見る子供には見せられない姿だな・・・

「ってなことはどうでもいいのよ! どうしてこうなるのよ? あたしは『家族に会いたい』としか願ってないのに・・・こんなサプライズいらないよ・・・」

「べつにサプライズじゃないわよ。ただ願いとはべつに真実子ちゃんの家族が真実子ちゃんを望んでいただけ。その後のことは真実子ちゃんの判断よ」

 ・・・3つの願い。やはりそれは禁断の魔法なのね・・・

「それで、真実子ちゃんはどうしたいの?」

「わかんないよ、そんなこと」

 頭の中がぐちゃぐちゃで全然考えられないよ。

「ねえ、真実子ちゃん。真実子ちゃんはここにいて幸せ?」

「幸せだよ」

「サリアの家族は好き?」

「大好きさ」

「じゃあ、あのおにいさんは? どんな感じがした?」

「・・・口調も雰囲気も全然違うのに、恵子ねえちゃんにいわれたみたいだった・・・」

「それはつまり、好きってことね?」

 その問いにあたしはコクンって頷いた。

 あの目あの意志を見せられて嫌いになるヤツは赤ちゃんからやり直しをお勧めするね。

「なんなら空でも飛んでみる?」

「なんなの突然?」

「うん。そろそろハッフル───って、そういえば説明してなかったわね。ハッフルってのは名前じゃなくて聖なる戦乙女に与えられる称号みたいなものなの。で、その称号を与えるにあたって準備というか儀式が必要なの。それに、考えてもわからないときは違うことをしてすっきりさせるのがいいわよ」

 その愛らしい姿からは想像できないほどの大人っぽい表情で微笑んだ。

 なんだか妙に人間くさくなあか、このファンタジー? 

「ねえ。聖霊界ってどんなトコ?」

「そーね。爽やかな風が吹き、緑輝くところね。聖霊獣も精霊もなに不自由なく暮らしているわ。まあ、たまにイタズラ好きの聖霊獣が人間界に逃げちったり魔女ベガーテと戦ったりするけどね」

 なにか不満みたいなのを感じるのは、あたしの気のせい?

「ルーラはどうしてハッフルになったの?」

「なったというより選ばれの。あなたは戦う適正があるから任命しますって」

 なんかそーゆーのあたし嫌いだな。なんだかもの扱い受けているようで個人の意志を無視してる感じがしてならないよ。

「ふふ。そういえる真実子ちゃんって大好き。真実子はなにかなりたい職業とかあるの?」

 ・・・そういえばこのファンタジー心が読めるんだったっけ・・・

「ヌイグルミ作家か喫茶店のマスターになりたい」

「ウフ。かわいい夢ね」

「子供っぽい夢で悪かったわね!」

「ううん。すごく羨ましいわ」

 なにやら寂しい表情を浮かべた。

 あ、そういえば童話であったな、魔神を解放するってのが。

「なんなら最後の願いで叶えようか、ルーラを人間にしてくれって?」

「真実子ちゃんのそういう優しさ、本当に大好きよ。でもね、それは聖霊界の摂理に反することなの。さあ、そろそろあがろう」

 ぱしゃんと湯船から飛び出ると、右手を高く振り上げた?

 すると右手に炎が生まれ、腕を、身体を包み込んだと思ったらあら不思議。一瞬で深紅のドレスへと変化した。

 ファンタジーって便利とか思いながりもあたしも湯船から出た。

 二畳ほどの脱衣場に出ると、大きく洗濯カゴに今日着ていた服やら下着やらが無造作に放り込んであり、横の脱衣カゴにはなにも入ってなかった。

「・・・お風呂に入る習性はあっても着替えを持ってくる習性はなかったか・・・」

 ま、いっか。バスタオルの替えならいっぱいあるしね。

 年季の入った戸棚からふわふわのバスタオルを取り出し身体を包み込み、イオン発生がどうたらこうたらという恵子ねえちゃんが置いていったドライヤーで髪を乾かした。



「なにしてんの?」

 脱衣場から出ると、にいちゃんたちが整列していた。

 右から年長の博幸ひろゆきにいちゃん、アツキにいちゃんの高校生コンビ。続いて秀雄にいちゃん、冬香とうかにいちゃん、一郎いちろうにいちゃんの中学生トリオ。全員そろってスポーツ馬鹿。身体を大きくすることしか考えてないんだから!

「なにって、お前、悩みがあるならにいちゃんたちが相談にのるぞ」

「ああ。1人抱え込むなんて身体に悪いぞ」

「といっても金の相談は無理だけどな」

「恋愛も不可だ」

「はい。二人は黙っててね」

 いつものように博幸にいちゃんとアツキにいちゃんが最初に切り出し、秀雄にいちゃんと冬香にいちゃんが茶化し、一郎にいちゃんが突っ込みを入れる。

 あたしが悩んでたり落ち込んでいると、必ず行われるにいちゃんズの漫才だ。

 まーね。妹を心配してくれるのは嬉しいよ。でも、お風呂上がりの、しかもバスタオル姿の妹の前に出てくるな! まず最初にデリカシーを身につけろっ!

「今日、あたしのにいちゃんだと名乗る人に会った。一緒に暮らそうって、だか───」


『───ななぃいぃぃっ!?』


 凄まじい絶叫に思わず耳を塞いでしまった。

 ・・・み、耳が・・・

「そ、それで、なんて答えたんだ!?」

「どうなんだマミ!」

 左右からぐわんぐわんされ、答えることができない。


「───だぁーッ! うるさいっ!!」


 にいちゃんズを殴ったり蹴ったりして引き離し、自分の部屋へと向かった。

「うっさいっ! 入ってくんなっ! 馬鹿ども!」

 押し入ろうとするバカども蹴り飛ばしドアを閉めて鍵をかけた。


「マミぃ~っ!!」


 大の男がピーピー泣くな! 近所迷惑だ!

「ウフフ。楽しいおにいさんね」

「変態なだけだ!」

 タンスから下着や服を出して着替えた。

「うるさいから外に出よう」

「子供がこんな時間に外に出たら危険よ」

「それで危険ならどれだけ弱いのよ、その邪霊獣って?」

 捕獲するルーラも同じレベルならどんだけ貧弱なファンタジーなのよ、まったく!

「しょうがないか。でも、どうやって外に出るの?」

「もちろんルーラの魔法でよ。可能でしょう?」

「そんなことに魔法は使えないわ」

「じゃあ、ドアから出てにいちゃんたちに着いてこさせる? あたしはいいけど、そういうの秘密なんでしょう?」

「べつに秘密っていう訳じゃないけど、なるべくなら人目は避けたいわ」

「だったら必要な魔法じゃない。そんな固い頭してるから逃げられるのよ。もっと柔軟になりなさい」


『前を向くのは大事。でも向いただけじゃダメ。幸せを見極める目をとつかめる手を持つのよ』


 恵子ねえちゃんが教えてくれた『幸せの教訓』はあたしの道しるべ。いや、あたしの誇りだ!

「まったく! わかりました! 行くよ」

 ポンという軽い音とともに視界が暗転した。



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