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第一章   その四

   第一章   その4



 多分、200グラムかな?

「なんのこと?」

 あたしの頭に座るファンタジーの重さだよ。

「行き交う人に変な子と思われるのもイヤなので心の中で答えた。

「おう、真実子ちゃん。首なんて揉んだりしてどうしたい?」

 八百屋のおじちゃんの突然の呼びかけに驚くも

見せる笑顔は百点満点。これぞ日頃の努力が成せる技よ。

「うん、ちょっと首を───あーっ! トマトが4つで100円だ! しかも大きいっ!」

 鍛えられたあたしの目は高性能。なにを置いても安いものに目が行ってしまうのだ。

「相変わらずいい目をしてるな、真実子ちゃんは。なぜかトマトが市場に集中してな、今日の目玉にしよう大量に仕入れたんだよ。」

 こーゆーコトがあるから商店街って好きなのよね。

「マカロニサラダにしようと思ったけど、中止。トマトサラダにチェンジしようと。おじさん、一箱くださいな!」

「よし! 真実子ちゃんなら二箱で500円だ」

「きゃあ~! だからおじさんって大好きぃ~!」

 心の底から大感激。八百屋のおじちゃんの手を取ってブンブン振り回した。

「アハハ。相変わらず真実子ちゃんの喜びは大げさだな」

 喜びの舞を踊っていると、後ろから笑いの声が飛んできた。

 我に返って振り返ると、軽トラに乗った橋本酒店のおじちゃんが笑っていた。

「てへ。また恥ずかしいトコ見られちゃった」

 どーゆー訳か喜びの舞を踊っていると橋本酒店のおじちゃんが通りかかるのよね。

「今日の獲物はなんだい?」

「トマトをいっぱいサービスしてもらっちゃった! あっ。玉ねぎとジャガイモが切れそうなの。いつもの量をお願いします。おじさんの

ところはみりんと調味料酒───それと適当なワインを1つお願いします。今日、秋にいちゃんがくるから」

 よりよい商店街を目指すため、大根1本からでも配達してくれるのだ。

「秋ちゃんもすっかり有名になったもんだ。昨日もテレビに出てたな」

「真実子ちゃんも芸能人になるのかい? 勧誘が凄いってひなこちゃんがいってたが」

「そんな、テレビに出る柄じゃないですよ、あたしは」

 あんな華やかな世界より商店街で買い物しているほうがしょうにあってるよ。

「いやいや、この界隈でも真実子ちゃんのファンは多いよ。こないだの靴のポスターなんてその日に盗まれたっていうじゃないか」

「おう。その話、おれも聞いたよ。恵子ちゃんと一緒に撮ったポスターなんて高額で取り引きされてるってんだってな」

「それはまた凄いもんだ。そういえば恵子ちゃん、またアメリカに行ったんだって?」

「はい。なんでも連続ドラマに出るそうです」

 恵子ねえちゃんは、あたしを育てくれた人だ。

 あたしの自慢の恵子ねえちゃんは、14歳から秋にいちゃんのところでモデルとして働き始め、とある事件でアメリカの映画監督と知り合い、それがきっかけで映画に出るようになり、今では活躍の場が海外になっちゃったのだ。

「恵子ちゃん、18だっけ?」

「はい。来月で19歳になります」

「あのお転婆が今や女優か」

 まあ、今では丸くなったけど、昔はクラッシャー恵子ってあだ名があったほどだ。

 あ、べつに不良って訳じゃないよ。あたしと同じく神無月流を学び、柔術で才能を開花させた、のはいいんだけど、根が『強く気高く美しく』っていう人。そんな人に力を持たせたら鬼に金棒。問題が起こらない訳がない。幸い警察ざたにはならなかったものの武勇伝は幾つもある。

 それをその目で見てきた人にしたら感慨深いものがあるでしょうよ。

「すみません、コレください」

「おっと、仕事しなくちゃな。またきてくれよ」

 あたしはニッコリ笑って次のお店へと移った。

 豆腐屋のおばちゃんと20分。お肉屋のおばあちゃんと30分。和菓子のねえちゃんと15分。靴屋のおじちゃんと話が盛り上がって40分。あたしにとっては日常に耐えられなくなったルーラが頭から下りてきた。

「・・・まだ続くの・・・?」

「うん! 最後にあたしのオヤツを買いにね」

 風に乗って心を惑わす香りが漂ってきた。

 そんな香りに誘われてきた先には一軒の茶屋があった。

 名は、いろり屋といい、頑固なじいちゃんと笑顔が素敵なばあちゃんが営むたい焼き屋さんなのだぁ~!



 ポケットに手を突っ込んだらサイフがにゃいっ!?

 ───あっ! ひなこから逃げるのに必死で自分のサイフを持ってくるのを忘れたんだ!

 ・・・ううっ、あたしのマヌケが・・・

「すみません、4つください」

 落ち込んでいるあたしの横でたい焼きくんを買う者を恨めしく───思うより早く、その姿にビックリした。

 歳は14、5だろうか、とても思えないくらい綺麗なにいちゃんの、その髪その瞳があたしと同じ亜麻色だった。

 鏡の中でしかお目にかかったことがなかったからすっごく驚いちゃったよ。

「こんにちは」

 と、亜麻色の瞳にあたしが映った。

「え? あ、はい、こんにちは、です」

 左右を見るが誰もいない。間違いなくあたしにいっているので挨拶を返した。

「真実子ちゃん、だよね?」

「あ、え、はい。そうですけど、どちらさまでしょうか?」

 この顔と羞恥心を売ってしまったため、いろんな人から声をかけられる。けど、それはもう1人のあたしのとき。商店街で、それもすっぴんで声をかけるのは知り合いくらいにもの。いやまあ、たまに変な人にも声をかけられるもののこのにいちゃんはそんな類いの感じはには見えなかった。

「・・・そ、そうだよね、知らないのも当然か。いや、いつも写真で見てたからつい・・・」

 はん? なんのこっチャイナ?

「あらら。2つ目の願いが先にきちゃったわ」

 全身から血の気が引いてしまった。

 なっ!? ちょっ、え? まっ、待ってよっ! そんな急になんて困るって! まだ心の準備がどころかワケわかんないわよっ!!

「いいじゃない、順番なんて。ふ~ん。さすが兄妹だけあって魂が似てるわ。でも、ちょっと曇りがちね」

 ばっ、ばかもーんっ! 誰が順番を問題にしてるっ! あたしはなんでこうなったか聞いてるんだよっ!

「あいよ、たい焼き6つ」

 寡黙にたい焼きを焼いていたいずおじいちゃんができたてホヤホヤのたい焼きを紙袋をに入れあたさたちに突き出した。

「え? あ、はい。いくらですか?」

「320円。2つはサービスだ。マミちゃん、お茶出すから奥で食べてきな」

 そんなじいちゃんの心遣いに甘え奥へと入った。

「いらっしゃい、マミちゃん」

 いつものように笑顔で迎えてくれるしずるばあちゃんにぎこちないながらも笑顔を返した。

「お邪魔するね、おばあちゃん」

 人生経験の成せる技か、笑顔を一瞬たりとも崩すことなく席に座らせ、お茶を出して奥へと下がった。

 ・・・ごめんねばあちゃん。いつものおしゃべりに付き合えなくて・・・

「いいところだね、よくくるの?」

「はい。あたし甘いものが好きなので・・・」

 ちらっと見れば真っ直ぐあたしを見ていた。

 ううっ、あたしにどうしろというのよ! こんな状況で余裕で対処できるほど大人じゃないぞっ!

「あ、そういえば自己紹介がまだだったね。ぼくは、北斗ほくと。白井北斗です」

 ・・・なんというか、マイペースなにいちゃんだな・・・

「よ、よくわかりましたね、あたしのこと」

「う、うん。ぼくのこと、わかってたの?」

「全然です。でも、なんとなくわかりました」

 まさか3つのお願いでなんていえんでしょう。

「北斗さんは、どうしてあたしのこと、知ったんですか?」

「え、えーと、その、とうさんが残した写真で、かな。あ、それとポスターで。もっとも友達に指摘されるまで同じ子とはわからなかったけどね」

「あ、あの、残したって?」

「・・・うん。一月前に病気で・・・」

 なんだろうね、なんにも感じないや。

「真実子ちゃん。突然で戸惑うかもしれないけど、ぼくたちと一緒に暮らそう!」

 本当に突然で頭が真っ白。でも、なんとか言葉を見つけ出す。

「で、でも、あたし、一緒に暮らせる立場じゃ・・・」

 大人の事情なんて知らない。でも、あたしにその資格がないってことぐらいはわかる。

「やっぱり、知ってたんだね」

「なんとなくです」

「でも、それは真実子ちゃんには関係ない! それが覆せない事実でも真実子ちゃんはぼくの妹だっ! それだけは変えられない真実。それを否定するならぼくは誰であろうと許さない。絶対に妹を守ってみせるッ!!」

 その気迫に顔を上げるた、びっくりするくらいの意志を輝かせていた。

「・・・ごめん。本当なら週末に祖父が挨拶に行くはずだったんだけ、どうしても真実子ちゃんに───ううん。妹にこの気持ちを知って欲しかったんだ・・・」


「・・・・・」

「ごめん。いや、ごめんでは済まされないけど、これだけは覚えていて欲しい。ぼくは妹がいると知ったとき、本当に嬉しかった。心の底から嬉しかったよ・・・」

 とても静かな声だけど、そこにこめられた思いは山より大きかった。

「だからお願い。ぼくたちと一緒に暮らすことを考えて欲しい」

「はい。わかりました」

 自分でも驚くくらいすんなり言葉が出た。

「あ、ありがとう! じゃあ、週末に祖父と行くから」

 脳ミソに焼き付くほどの笑みを刻み込み、いろり屋から出て行った。

 でも、あたしはそこで意識が途切れてしまった。




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