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第一章   その三

   第一章   その三




 ───1つ目の願い。


「サリアを存続できるように信頼できる後見人をつけて」

 これなら願いもはっきりしてるし、世間からの目も不自然じゃないでしょう。

 寄付ってコトも考えたんだけど、世の中お金だけでは解決できないこともある。なら、信頼できる足長おじさんに守ってもらうほうが賢いってモンだわ。


 ───2つ目の願い。


「家族に会ってみたい」

 べつにサリアに不満はないよ。こんな温かい家と優しい家族、そうそうないわ。それに、孤児だったからこそ出会えた人もいる。

 幸せと断言できる時間をここで過ごしてきたわ!

 ・・・でもね、やっぱり気になるの。あたしと血の繋がった人たちのことが・・・

 あたしだって親が誰なのか、どういう人たちなのか、知りたいよ。例えあたしを愛してくれなくても、知っておきたいのよ。

「ふ~ん。真実子ちゃんも普通の子供なのね」

「あのね、11歳は立派な子供なの。人を珍獣みたいにいうな!」

「あ、ごめんなさい。そんな意味でいったんじゃないの。聖なる戦乙女といっても人である以上、邪気はあるわ。でも、聖なる戦乙女はそんな邪気を振り払って強く笑うのよ。でも、真実子ちゃんはちゃんと悲しみも弱さも出す。なのにちっとも邪気が現れてこないのよ」

 聖とか邪とかあたしにはわからないけど、今のあたしがあるのはシスターのお陰。なにもかも失ったあたしにを見つけてくれ、温かい家と優しい家族を与えてくれたからよ。

「ええ。こんな奇蹟を育んだ人たちに大感謝だわ」

 ・・・そんなこといわれる存在かね、あたしは・・・?

「それで、3つ目のお願いはなににするの?」

「う、うーん・・・」

 いろいろ考えるけど、これといったものが出てこない。

 いろいろ考えるけど、これといったものが出てこない。

 貧乏は貧乏でも食うに困るほど貧乏ではない。ちゃんと三食食べてるしおやつだってある。

 趣味は読書とヌイグルミ作りだが、本は学校や公共の図書館から借りばタダだし、ヌイグルミの材料はお小遣いでこと足りる。

 頭がよくなりたいと思うほどバカでもなければ身体なんて健康そのもの。風邪なんかいつ引いたか覚えてないくりいだ。小学校に入ったくらいから神無月流剣術と柔術を習い、毎日修行はきさないから運動神経と反射神経にも困ってない。

 あれこれ欲しいものを考えていると、ひなこが部屋に入ってきた。

「さっきからなに騒いでるの? おねえちゃん」

「ちょ、ちょと運動してたのよ。なにか用?」

「シスターが洗剤が切れそうだから買ってきてだって」

 キョロキョロと辺りを見回すひなこちゃん。

 そういえばこの子、霊感みたいなのがあったから小人の気配がわかるのかな?

「───じゃ、じゃあ、買い物に行ってくるから!」

 ひなこの頭の上でクルクル舞う小人をひっつかみ、急いでその場から逃げ出した。



「ねえ。どうしてひなこたちにはあなたの姿が見えないの?」

 いつもの商店街へと向かう道すがら疑問を口にした。

「魂の問題よ」

「魂?」

 どーゆーコト?

「人が生まれたとき、魂の輝きはみな平等なの。でも、生きているうちに邪気は生まれる。悲しみから、憎しみから、妬みから、あらゆる"負"が生まれるの。そんな汚れた魂ではわたしたちは見えないのよ。ほんと、奇蹟の存在たる『聖なる乙女』ですら探すだけでも大変なんだからね」

「まったくもって理解できない説明だけど、お金に不自由なく恵まれた環境で育った子なんて沢山いるんじゃないの?」

「真実子ちゃん、そういう子を見て羨ましいと思う?」

「え? いや、これといって羨ましいとは思わないけど」

 貧乏には貧乏なりに楽しいことはある。安くていいものを手に入れたときなんて舞っちゃうくらい嬉しいし、安い食材で美味しい料理ができたたら最高に気分がいいものよ。

「楽をしたい。得をしたい。快楽が欲しい。誰に勝ちたい。他の人より幸せになりたい。それは人であるなら当然の欲。責められる理由などどこにもない。けど、真実子ちゃんはそれで"幸福"になれると思う?」

「よくわからないけど、なんか後ろ向きな感じがしてイヤだな」

『───幸せは前から。通りすぎた幸せなんか追いかけるだけ無駄。前を向いて両手を拡げて待ち構えているほうが賢いわ───』

 と、卒業したねえちゃんがそうあたしに教えてくれた。

「恵まれた環境では魂は綺麗でしかない。それでは邪気に打ち勝てないの。でもね、恵まれない環境で幸せの意味と不幸の意味を知っている子の魂は輝いているわ。願いことでそれが出ているもの」

 どーゆーコト?

「まずなにより家族の幸せを願い、それから自分の願いをいったでしょう。」

 だから?

「真実子ちゃん、『両親に会いたい』っていわなかったでしょう」

「う、うん、いったけど、、それがなに?」

「真実子ちゃん、おかあさんの記憶、ちゃんとあるでしょう」

 ある。3歳のときだけど、ちゃんと記憶している。

 大人の事情なんか知らない。けど、あたしがいるから悪いんだってのはわかった。

 どこかの駅で『どうしよう』を何度も口走る母親は、あたしを残して線路に飛び降りた。

 それは忘れたくても忘れられない記憶。心に焼き付いた母親の死だ。

「・・・もう8年か・・・」

 11歳のあたしがいうのもなんだけど、時が過ぎるのって早いよね・・・

「おかあさんのこと、恨んでないの?」

「全然。あのまま母親といても苦労してたと思う。1人で留守番。寂しさに毎晩泣いてると思う。なら、捨ててくれたほうが断然いいよ。疎ましい目で見られるかと思うとぞっとするよ」

 なにが心を傷つけるかって、大切な人から『いらない』っていわれることだ。

 だったら大好きな人から『いて欲しい』といわれるほうが何億倍も幸せだよ。

「ええ。この優しくも強い心を慈しみ育ててくれた人たちに感謝を送りたいわ」

 あたしを見る瞳は、とてもファンタジーの住人とは思えない。シスターがあたしたちを見るときの母親の目だ。

「ルーラ」

「うふ。やっと名前を呼んでくれたね」

 思わずルーラの視線から逃げてしまった。

 なんだか恥ずかしいんだもん。

「・・・まあ、なんだ。これからよろしくね・・・」

「うん。こちらこそよろしくねっ!」



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