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第一章   その二

   第一章   その二



 数分後、忍耐を必要とした昼食がやっと終わった。

 でも、こめかみのピクピクがおさまってくれにいけどねネっ。

「・・・ひなこ、買い物に行ってくるから後片付けお願いね」

 サリアの生活に役目などないーーというよりあたしが取り払った。

 シスターは掃除と洗濯はプロ級なんだけど、料理は全て毒。洗濯用洗剤を調味料と思ってるくらい危険な人なのだ。下手に台所に入れて料理(こちらからしたら毒リンゴ作る魔女にしか見えないよ)されたらサリアは一食で滅びる。

 そんなシスターに育てられた秋にいちゃんがどうして生きているのがサリアの七不思議。

 そこんところを知りたいんだけど、その話題になると秋にいちゃん、真っ青になって震え出すからサリアでは禁句とされてるのよね・・・

「後片付けだけでいいの? 宿題終わったからなにかやっておくよ」

「今日はカレーだからお絵描きしてていいよ」

「お絵描きじゃないもん! 漫画だもん!」

 将来、漫画家になるのが夢のひなこちゃん。

 その素晴らしい夢には賛同するけど、その画力にはノーコメント。更なる努力に期待します・・・

「はいはい、漫画描いてなさい」

「マミちゃんマミちゃん。久しぶりに大福食べたいなぁ~」

 優雅に緑茶をすするうちのママさん。ということは、昨日買ってきたカステラもう食べちゃったってコトですか・・・

「安かったらね」

 おねだりが激しくなる前に台所から撤退。自分の部屋へと逃げ込んだ。

「へ~。いい感じ清廉されてるわ~。さすが真実子ちゃんとひなこちゃんの部屋だわ」

 気にしない気にしないまったくもって気にするもんかっ!

 掛けてあるパーカーを羽織って身だしなみ用の鏡の前に立つ。

「わぁ~。真実子ちゃんかわいい~」

 あきらかに、わざと、あたしの前を浮遊する小人さん。

 堪えろ、あたし! ここでキレたら認めるコトになるんだからっ! ってがんばりも一分が限界。いつの間にかリップを畳に投げつけていた。

「ーーだぁあぁぁっ! ごめんなさいねっ! 無視して悪かったわねっ! 聞けばいいんでしょう、聞けばっ!!」

 このまま我慢していたたら最後には火吐くよ、あたしゃーよっ!

「ほっ。よかった。見えなくなっちゃたのかと思って心配しちゃったわ」

 そ、その爽やかすぎる笑顔はやめてちょうだい。あたし、人類初の小人殺しになりてくないからさ・・・

「どうしてよ。どうしてあたしなのよ? 他にやりたい人なんて幾らでもいるでしょう!」

「聖霊界は聖気で満ちてるの。聖霊界でならわたしたちハッフルやシップルでなんとかするわ。けど、この邪気に満ちた世界では聖霊魔法が弱まり、邪霊獣となってしまった聖霊獣の魔力には敵わないの。そこで邪気を祓える『聖なる乙女』ーーううん、邪気を滅ぼすことができる『聖なる戦乙女』に力を貸してもらうしかないのよ」

 なんのことかさっぱりわからんっ!

 こっちとらファンタジーと無縁なところで生きてんだ、そんなこといわれて「いいよ」なんて答えられるかっ!

「この街て真実子ちゃん以上の聖気を持つ子なんていないし、邪霊獣と戦える術をもった乙女がいるなんて奇蹟としかいえないんだからっ!」

 聖気うんぬんはべつとして、確かにあたしには戦う術がある。武器ーー木刀があれば大人にも負けないし、素手でも素人の大人なら十分勝てる自信がある。

「・・・あたし、そんな恥ずかしいこといわれる女じゃないよ・・・」

 自分でいうのもなんだけど、けっこう強欲だし、それが得になるならプライドなんて横に置く。ケンカだって何度もしたことだってある。

「わたしたちにはそんな心をもった乙女が必要なの。どんな邪気にも負けない『戦乙女』が」

「・・・どうしてもあたしなの・・・?」

「真実子ちゃんしかいないの!」

 とてもファンタジーの住人とは思えない迫力に圧倒されてしまう。

 それでも踏みとどまり、肝心なことを尋ねる。

「そ、それで、その、逃げたなんとか獣って、何匹なの・・・?」

「逃げたのは100と4匹───」

「帰れ」

 いい終わる前に切り捨てた。

「あーん! 話は最後まで聞いてよ! 逃げたといっても97匹まではわたしたちで捕まえたわ。真実子ちゃんには残りの7匹を捕まえるのに協力して欲しいの!」

「そんな1円にもならないことしてられるか!」

「もちろんタダで協力してもらおうとは思ってないわ。真実子ちゃんのお願い、3つまで叶えてあげるからっ!」

 障子を開ける手がぴったりと止まる。

 一瞬、欲望が目覚めるも直ぐに理性が待ったをかける。

 ・・・童話的報酬には必ず危険がつきものだもの・・・

「だったらその願いで捕まえたらいいじゃないのよ」

「聖霊界の生き物には願いの魔法は効かないのよ」

 そんな役にも立たない魔法など捨ててしまえ!

「お願いよ。もう真実子ちゃんに頼るしかないのよ」

 小さな手を祈るように合わせて必死に懇願している。

 あたし、甘いものが大好き。一口チョコで感涙できるくらい大好き。それと同じくらいかわいいものが大好きなんです。趣味のヌイグルミだってかわいいものしか作らないもの。

「・・・ま、真実子・・ちゃん、ぐっ、ぐるじぃいわぁ・・・」

 ───ハッ!

 いかんいかん。また理性を失ってしまったわ。

 どうもかわいいものを見ると抱きしめるクセがあるのよね、あたしって。

「ナハハ。ごめんね」

「謝罪はいいからわたしに協力して!」

「う、うーん・・・」

 あたしも鬼じゃない。困っているのなら助けてあげたいと思うし、正直3つのお願いは魅力的だ。捨てるなんてもったいないじゃないのよ。

「・・・3つのお願いって、どこまで可能なの・・・?」

「悪い願いはまずダメね。例えば誰かを殺してくれとか永遠の命が欲しいとかは絶対に無理。はっきりしない願いの魔法は発動しないわ」

 まあ、そんなモンでしょうよ。

「んで、そのなんとか獣って危険なの?」

「ええ、危険よ。でも、それ相応の装備は用意してあるから大丈夫よ」

 ・・・それ相応、ね。大丈夫とは保証はしてくれないんだ・・・

「そんな顔しないで。確かに安全とはいえないことをお願いしてるわ。先の戦いで最強といわれた聖なる乙女たちが負けてしまい、死なないまでも心を汚されてしまったわ。けど、放っておくことはできないの! 邪霊獣は聖気を敵視し、世界に邪気を放ってしまうのよ!」

 水色の瞳が涙でゆがんだ。

 ここで「うん」っていう訳にはいかない。だってこの命はあたしだけのものじゃないもの。これまであたしを愛し育ててくれた人のものでもある。簡単に失ってはいけない命だ。

「・・・そう、よね。突然現れて協力してくれというほうが悪いわよね・・・」

 笑顔のまま、その小さな瞳から涙が零れた。

 あふん! それって卑怯だわっ!

 罪悪感が身体中から吹き出してきたじゃないのよ!

「ごめんね。もう二度と現れてたりしないわ。さよ───」

 クルリと回った小さな身体をわしっとつかんだ。

 ・・・ううっ、あたしのバカ! こんな甘い性格してたら悪いヤツに騙されるんだからね・・・

「ほら泣かないの。かわいい子は笑顔が一番って

いったのはあなたでしょう」

 ポロポロ流れる涙をハンカチでぬぐってあげる。

「・・・ありがとう」

 なんともラブリーな笑顔を咲かせてくれる。

「それで、なによ。本当に願いを叶えてくれるんでしょうね?」

「え? じゃあ協力してくれるのね!?」

「これもなにかの縁。協力するわよ」

 ここで断ったら鬼でしょうが。

「ありがとう、真実子ちゃんっ!」

 プツンってなにかが切れました。











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