第三章 その四
第三章 その四
パルペットのしっぽ攻撃をまともに受けてしまい、あたしたちは外へと吹き飛ばされてしまった。
「───バーバリ!」
直ぐにバーバリがあたしの足下に現れた。
どういった理屈かは未だに理解してないが、固定具がある訳ではないのにあたしの足がバーバリにしっかりとくっついた。
と、背後から凍えるような邪気を感じ取った。
咄嗟に回避。すると氷の息が通り過ぎて行った。が、ホッとしている暇はない。氷の息の連続攻撃が襲ってきた。
右に左に避け、新しく生み出した『そよ風』で氷の礫を交わす。しかし、飛行能力が拮抗しているせいで付け入る隙がなかった。
「───ッ!」
あらぬ方向からしっぽが襲いくる。
鍛えられた反射神経がバーバリを蹴って空中に回避した、とはいえ自分の魔法で空は飛べない。真っ逆さまに墜落して行った。
「風のマント!」
墜ちて行く先がガラス張りのラウンジであることを認識すると同時に風を纏った。
───ガシャーン!
なんか最近、窓ガラスに突っ込んでばかりだな。
魔法が強くなっているのか、前回よりは痛みが少ない。とはいえ、痛いのは痛い。もっと鍛えないと
バカになっちゃうよ。
「マミちゃんっ! 逃げてッ!」
といわれて動いてくれたのは両腕だけ。パルペットの氷の息をまともに受けてしまった。
「────────」
寒さではない。痛みでもない。そんなものとは別次元のものがあたしの心と身体を凍てつかせた。
・・・心が、痛い・・・っ!!
「炎よ、慈しむ熱き炎よ、その闇を焼き尽くせっ!」
熱き炎があたしの中に入ってきて心を侵略していた闇を焼き払った。
「───やってくれるじゃないの! 剣風!」
感謝はあと。突っ込んでくるパルペットに鋭い風を放ってやった。
威力も切れ味もイメージしたものに追いついていない。それでもラウンジから追い出すことはできたからよし、だ!
あ、いや、方向がダメだった。不味いことにロビーへと追い出しちゃったよッ!?
土曜日のお昼。豪華ホテルのロビーは、なかなかの混み具合。そして大混乱。ふふ。以前観たパニック映画みたぁ~い。
「───なんて現実逃避している場合じゃないだろうがッ!」
ロビーでのたうち回るパルペットを『剣風連打』で外へと追い出した。
怒りに身を震わせるパルペットは、素晴らしい・・・んだと思う日本庭園を真冬へと変えていた。
「どうせなら夏くればいいものを」
まったく、時と場所を考えて欲しいよ。
「だからそんなに落ち着いてないでよっ!」
そういうルーラは慌て過ぎだよ。仮にも戦乙女なら戦いの駆け引きとか精神のコントロールとかないのか? 感情のままに戦うのは狂戦士っていうんだぞ。
「ご、ごめんなさい。落ち着かないとね」
「そうそう、その調子。では、行くよ!」
「ええっ!」
邪気を滅ぼすルーチャを構え直し、あたしの作戦を読んだルーラが頭に移動する。
突っ込むあたしたちにしっぽが襲ってくるが、防御役のルーラが魔法で撃退。攻撃役のあたしが滑り込んできたバーバリに飛び乗り、パルペットの頭へと迫った。
「───ごめんね!」
バーバリから飛び下りパルペットの頭にルーチャを突き刺した。
「───シキャアァァッ!」
パルペットの絶叫とともに真っ黒の邪気があたしに吹きかかる。
「炎よ、慈しむ熱き炎よ、その闇を焼き尽くせ!」
先ほどと同じく闇が焼き尽くされる。
「・・・まったく、何度も何度もやってくれちゃって、剣風連打ッ!」
気力で放つもパルペットの姿に大して変化はなかった。
「やっぱりルーチャでないとダメなの?」
「今のマミちゃんではね。それと、持ってないとダメよ。使い手と同調してこそのルーチャだから」
「まっ、そう都合のよい武器はないか。でも、取りに行かなくて済むのは助かるよ───ルーチャ」
パルペットの頭に突き刺さっていたルーチャがあたしの手に現れる。
「まったく、マミちゃんの戦いかたはメチャクチャよ!」
「それがあたし流なの。じゃあ、援護よろしく~」
相棒にウインクを送り、パルペットに駆け出した。
「バーバリ!」
呼ぶと右手から地面を滑るように現れたバーバリに飛び乗り、大きく放り投げてもらう。
空中で身体を捻り位置修正。自由落下のままもう一度パルペットの頭に突き刺してやった。
「悪いの悪いの飛んで行けっ! 風に吹かれて飛んで行けっ! あの山越え飛んで行けぇえぇぇっ!」
思いを込めて叫んだ。
根性とルーラの炎で耐えること数十秒。肌を駆ける不快感が消えてなくなった。
静かに瞼を開けると、目の前にクリクリした緑色の瞳とチョロチョロと動く舌を持った、なんともラブリーな顔があった。
「うるっ。るるう」
目の前の生き物が鳴いた。
白ヘビをゆるキャラにしたような身体に光の羽を生やした謎の生命体。ルーペコ同様かわいいでやんの。
「や~ん。かっわいぃ~ん!」
本能が命じるままにパルペットちゃんに抱きついた。
「・・・マミちゃんって、変なところで乙女ちっくよね・・・」
あたしだっていっぱしの乙女。かわいいものに目がくらんでなにが悪い。誰がなんといおうが抱き締めちゃうもんね~だ。
「るるう~。るるう~」
「うんうん、パルちゃんも嬉しいのね」
まあ、なにが嬉しいのかわからないけど、かわいいは無敵なのよ!
「マミちゃん、そろそろ封印しないと人がきちゃうわ」
も~! パルちゃんったら人目がないところで襲ってきてよ。抱き締める時間がないじゃないのさ~~。
名残惜しのを必死に我慢してシルリープを出した。
「さよなら、パルちゃん。聖霊界に帰ってもあたしを忘れないでね・・・」
「そんな死に際の別れじゃあるまいし、大袈裟よ」
「そんなこといったって、簡単に聖霊界に行ける訳じゃないんでしょ?」
「ま、まあ、そうだけど・・・あ、人がきたわ!」
ったく。わかりましたよ。
るるうるるうと鳴くパルちゃんの頭を撫であげ、かわゆい頭をピコンと叩く。
ぷしゅぅぅぅっとシルリープに吸い込まれた。
「マミちゃん、風を吹かしてちょうだい」
「あいよ。風よ吹けえ~!」
あたしの風とルーラの炎で真冬の日本庭園が元に戻って行く。魔法は凄いね~~。
「マミちゃん。わたしは壊れたところを直してくるからそれ以上無茶しないでね」
なにをと尋ねる前に飛んで行ってしまった。
「・・・なんなのよ、いったい・・・?」
「───そこの君っ!」
おっと。あたしも退散せねば。それに北斗さんが心配だ。
呼び止める警備員さんの頭を飛び越え、人目のない場所へと急いだ。




