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第一章   その一

投稿第一段です。

お楽しみいただけたら幸いです。


   第一章   その一




 草が生えている。

 カリカリカリ。

 あっちにもこっちにも生えている。

 カリカリカリ。

 春が終わり初夏へ移り変わろうするこの季節。サリアの庭には小さな命が咲き乱れる。

 そう、雑草は早目に刈るのが一番。

 カリカリカリ。

 雑草が生えてくる。虫も出てくる。カエルも出れば小人も出てくるこの季節。まったく、この季節は───


「───ふぎゃんっ!」


 なにか奇妙なことを口走ったと思うより早く後ろで奇声があがった。


 ・・・はい?


「もー! いきなり投げるなんて酷いじゃないっ! !」

 今にも心臓が張り裂けそうだけど、うん、全力で落ち着こうよ、あたし。

 んーと。あたし今、日常会話ではまず出てくることがないことをいったね。んでもってなにか赤いものを投げたね。そしたら後ろで奇声があがりました。

 ・・・っていう状況でいいんだよね・・・?

「ちょっと聞いてるの!」

 硬直したまま地面を見詰めていると、奇声の主と思われる・・・なにかが視界に入ってきた。

 もし、この目が壊れていないのなら、そこにいるのは小人さんだ。

 赤い髪に水色の瞳を持つ、身長約20㎝の女の子。深紅のドレスに身を包み、左腰には剣を。右腰にはトンカチ(?)を差している。

「・・・は、ははっ。こりゃ夢ね。うん夢よ。昨日夜遅くまで起きてたから寝ぼけてるのよ」

 まったく、読書もほどほどにしなさいっていわれてるじゃないか。ほんとあたしは悪い子だよ。今度からは十時までだからな。気をつけろよ。

 草刈り鎌を放り投げて家へと向かった。

「あっ、ちょっと待ってよっ!?」

 幻覚がふわりと浮かびあがり、あたしの鼻先で通せんぼする。

 まったく、カエル恐怖症だからっといってなにも小人にすることないじゃない。いつものように悲鳴をあげて気絶すればいいじゃないのさ。そんなんじゃ病院に連れ行かれるぞっ。

「もーっ! わたしはカエルでもなければ幻覚でもないわよ!」

 と、頬に激痛が走った。

「───痛っ!」

肩に乗る幻覚を払い落とした。

「・・・あたたたたぁ。痛いのはこっちよ・・・」

 地面に落ちた幻覚が顔面をさすりながら抗議の声をあげる。

「ちょっと、小さいとはいえ刃物でなにするのよ

!」

「だっていつまでも現実を受け入れてくれないんだもの」

「当然でしょう! どこの世界に深紅のドレスを着た小人がいるっていうのよっ!」

 この怒りを前に"幻覚"がやれやれと肩をすくめる。

 パンパンとドレスについた土を払い、乱れた頭のリボンを整えた。

「ほら、ここにいるじゃないの」

 反論を許さない"事実"がクルクルと舞いあがってきた。

「・・・・・・」

 そう。夢でもなければ幻でもない。痛む頬が現実だよ」といっている。

 深呼吸を三回。現実と向き合う覚悟を決める。

「・・・で、あたしになんのようなの?」

「信じてくれた?」

「はん! いつまでも幻覚にしてられるほど子供じゃないんでねっ!」

 嫌な現実から逃げたところでもっと嫌な現実が待ってるだけよ。

「コホン。では、自己紹介を」

 しゃんと背筋を伸ばすと、なんともラブリーな笑顔を咲かせ。

「わたしは、ルーラ。聖霊界クーマカの守護騎士にして炎の名を抱く戦乙女。偉大なる女王、セーサラの命によりあなたのもとへ参りました。この出会いに幾万の感謝と幾万の幸福がありますように」

 小人。聖霊界。守護騎士。女の子。

 どうか見た・・・かもしんない漫画が駆け巡った。

「・・・あ、あのさ、そーゆーのは、もっと女の子らしい子とか平和な環境で生きている女の子の役目じゃないの・・・?」

 ここは、世間でいうところの孤児院。んでもってあたしは孤児。皆さまの温かい寄付で生きている女の子なの。許される範囲でお小遣いを稼いだり家事をこなしたりと、なにかと忙しい11歳。そんなファンタジーに協力しているほど暇じゃないの。

「クスン。真実子ちゃんって大変な環境で育ったのね・・・」

 ドレスのポケットからハンカチを取り出して「涙を拭った。

 なぜ泣く? そしてなぜあたしの名を知っている?

「ちょっと記憶を見せてもらったわ」

「・・・あ、あのね、いくらファンタジーの住人だからって人の記憶を勝手に覗くなんて趣味悪いわよ・・・」

「まあまあ、そんな怖い顔しないの。かわいい子は笑顔が一番。笑って笑って」

 記憶を見られて笑える・・・いや、いい。もういい。こんなのに構っていたら時間がもったいない。それにそろそろお昼。昼食の準備しないと。

「えーと。あたしには無理です。以上」

「ーーま、待ってよっ! 真実子ちゃんっ!」

 小人がなにかいってくるが、そんなもの無視。

 そろそろお昼。昼食の準備をしないと。

 台所に通じる勝手口から家へと入った。



 麦わら帽子を壁掛けに戻し、横に掛けた黄色のエプロンを装着する。

 築50年は経つサリアには不似合いな最新の冷蔵庫に張り付けた材料表を覗き込む。

 とはいえ朝食でほとんどを使いきっている。まあ、クセで見ただけでお昼はケチャップごはん決めてある。

「・・・あ、あの~真実子ちゃん・・・」

 目の前の浮遊物を横へとずらし、野菜箱から玉ねぎとニンジンを取り出した。

「あ、あのね、お願いだから話を聞いてよ・・・」

 草刈り鎌を放り投げて家へと向かった。

「おねえちゃん、なにか手伝う?」

 台所と続きの居間で宿題をしていた妹のひなこがやってきた。

 ひなこは、あたしの一個下で小学五年生。サリアにきたのは三年前と孤児歴は浅いが、この台所と家族の命を守る大切な存在だ。

「ポテトサラダがあったから出してちょうだい。あと、お皿も」

「うん、わかった」

「───あ、マミちゃんって。さっき秋ちゃんから電話がきて今日くるって」

 サリアの責任者にしてあたしたちのおかあさん。そして、このサリア教会唯一の神の使徒・・・かもしれないシスターが音もなく現れた。

 本名は、木野桜という以外全てが謎で、朝のお勤め以外はTシャツかトレーナー、下はジャージというサリア教会最強の不思議ちゃんだ。

 ・・・ちゃんとした格好で黙っていればマリアさまのように神秘的な美人なのにな~・・・

「お土産はなんだって?」

「アリシアのケーキだって。あたしは島根屋のどら焼がいいのに。秋ちゃんのバカ」

 そのバカはここの卒業生でプロのカメラマン。町の写真屋さんから始まりなにがどうなってそうなったのか何度聞いてもわからないけど、今や専属モデルを何十人と抱える会社の社長さん。サリアで一番の出世頭である。

「というわりには残さず食べてるじゃないの」

 和菓子党と主張するクセに、大の甘党のあたしより見境がないんだよね、うちのママさんは。

「そういえばそのアリシアにこないだ撮影したやつが貼ってあったってリコちゃんがいってたよ」

「あら、それならさっそく秋ちゃんにもらわないとね」

「やめてよ。あんなの貼られたら友達呼べなくなるじゃないのさ。ただでさえうちの壁はあたしだらけだっていうのにさ」

 足せば4メートルもないサリアの廊下には、お小遣い稼ぎでやったモデルの写真が貼られているんですよ・・・

 ・・・まったく、お金に目が眩むとろくなことににらないって本当にだね・・・

「いいじゃないのかわいいんだから」

「そうだよ」

 笑顔でそういう二人に肩をすくめる。

 べつにこの顔に不満はないけど、世間の目からはウンザリだヨ。

 偽名を使ったり身元を隠したりしてるのになぜかバレるし、髪を染めたり化粧したりしてもダメだし、モデルの仕事を奪われたといちゃもんつけられるし、ライバル視されるし、変質者には追いかけられるし、もう散々よ、まったく!

「フフ。真実子ちゃんに挑もうにんてたくましい子ね」

 ついその声に振り向けばひなこが切ったトマトをかじる小人・・・なんて見えないもん。そーよ。この世に小人なんかいないんだからっ!!



 

 

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