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5.勇者と魔王の楽しい昼食


 結局なんだかんだで、一緒に昼食をとることにする四人。

 デュースはお弁当など用意してきておらず、ご相伴にあずかる事になった。


「ほい、これオススメ。オレの好物、トッナロロトのサンドだ!」

 フォンドはバスケットからサンドイッチを取り出し、ひょいとデュースに渡す。


 銀髪の青年は、少し驚きながらそれを受け取った。

「あ、ああ。どうもありがとう」

(トッナロロト……とは何だろうか? 全く聞いたことがないな)


 正体不明のサンドイッチを前に、デュースは長いにらめっこを続けていた。

「…………」

「なんだよ食べねえのかー? すっげえ美味いのになあー」

 

 煽るような話し方のフォンドに、カレナが呆れた声で指摘する。

「お兄ちゃん、何言ってるの。それ普通のチーズサンドでしょ」

 

 今日の昼食には、トッナロロトサンドというメニューは存在しない。

 トッナロロトという食品はフォンドの国に実在するが、パンに挟もうという者は少ないだろう。ねばねばしているうえ、匂いがきつい食べ物だからだ。


「ごめんなさい、デュースさん。変な物は入ってませんから、どうぞ遠慮せずに召し上がってくださいね」

 カレナがそう勧めると、デュースは微笑んでうなずいた。

「ああ、頂くよ。お気遣い、感謝する」


 そこには、勇者候補と次期魔王が仲良く食事を囲むという、不思議な光景が広がっていた。見た目は普通の少年少女と青年なので、そこまで違和感はないのだが。



「それにしても、色々な具材がありますね。どれも手が込んでいて美味しいです」

 クラルスは豊富な種類のサンドイッチに感嘆の声を上げた。

 赤、黄、緑の三色野菜サンド、タマゴサンドにハムサンド等。十種類以上ある。


「だろ? うちの母ちゃんのサンドは最高だぜ!」

 フォンドが今食べているのは揚げた豚肉を挟んだカツサンドだ。お肉がジューシーかつ、サクサクとした食感で、味付けに使っているソースもまた絶妙だ。


「お兄ちゃんの騎士団長としての初陣だから、お母さんすごく張り切っちゃって。わたしも作るの手伝ったんですよ」


 カレナはどこか誇らしげに、嬉しげにそう告げた。

 騎士団長として出陣、ということは戦いに行く意味だが、平和に慣れきっているのかフォンドの両親は普通に喜んだ。そして、妹のカレナがついて行くことにも普通に賛成したのである。


「あ、それオレが狙ってたのに」

「いいじゃない、まだいっぱいあるでしょ」

「そうですよ。落ち着いて、よく噛んで食べましょう」


 楽しげな雰囲気で食事をする彼らを、デュースはただじっと見つめていた。


 * * * 


「さて。そろそろ本題に戻るとしようか」


 食事も終わり、フォンドたちはデュースとの会話を再開した。

 先程とは打って変わって、緊迫した空気が辺りに満ちる。


「さっきも話したが、勇者と魔王の力が暴走しないためにも、我々は力を制御する方法を探さなければならない」

 

 デュースの話を聞き、フォンドは思ったことを口にした。

「つうか、魔王が悪さをしなけりゃ、戦争は起きねえだろ。お前たちがおとなしく自分の国に引きこもってればいいんじゃねーか?」


 フォンドの説は暴論のようで正論でもある。過去の戦いの発端は魔族にあるのだから、原因さえ抑えれば何も起こらないはずなのだ。


 絞り出すような声でデュースは呻いた。

「そういうわけにもいかない。何者かが、再び魔神を復活させようとしている。皇子である私や現在の魔王が何もせずにいたとしても、蘇った魔神が世界を滅ぼそうとするだろう」

  

「魔神を復活させるような物好き、魔族以外に誰がいるってんだよ」

 口を尖らせるフォンドに、銀髪の青年はかぶりを振る。

「それは魔族ではないと断言できる。今の我々に、そんな力は無い」


「力が無いって、どういうことですか?」

 カレナが訊くと、

「知ってのとおり、五十年前に魔神は大地神によって封印された。そして現在、魔族はほぼ魔力を失っている。簡易魔法ですら使えないほどに」


「そうだったんですか……」

 その説明を受け、カレナは納得がいった。

 魔神を力の拠り所とする魔族に対し、人間は大地神の力を借りて魔法を使うと学校で習っていたのだ。

 当然、魔力源を断たれてしまえば、術は発動しないはずだ。

 なお簡易魔法とは初級の術で、カレナが祠で使った光魔法などが該当する。


 デュースは続けた。

「それに今の我々は大地神の結界により、自国の外に出ることすら叶わない。そのような状況で、国外に封じられた魔神を復活させることなど出来るはずもない」


「待って下さい。では、貴方はどうやってこの場所まで来られたのですか」

 クラルスは矛盾点を挙げる。魔族は大地神の結界を通れないはずである。


「それは……」

「なんだよ。まさか今までの全部、嘘だったとか言うんじゃねえだろうな?」

 返答に詰まる魔族の青年を、フォンドは怪しく思った。

 デュースのこれまでの話は回りくどい所が多く、何か大事なことを隠しているような気がするのだ。


 しばしの沈黙の後、デュースは重い口を開いた。


「――私は、純粋な魔族ではない。半分は妖精族の血が流れている。ゆえに、私だけは大地神の張った結界を通ることが可能だ」


 そう語る言葉は真実か否か。


 フォンドたちにそれが分かるべくも無かったが、デュースがその事を言いたくなかったということだけは感じ取れた。

 現に青年は色白の顔をさらに蒼白にさせ、唇を噛んでうつむいている。


 デュースは顔を上げた。

「見てのとおり、一番疑わしいのはこの私だ。信じられなくても当然だろう。だが信じてもらえるよう努力することしか、今の私には方法がない。どうか、キミたちの目でそれを見極めてほしい。……私が正しいのかどうかを」


 切に訴える青年を前に、どうすればいいのかわからず、フォンドたちは顔を見合わせることしかできなかった。


 * * * 


 会話は終わり、日も暮れた。

 フォンドたち三人は、これから王都への帰路につく。

 デュースの真偽の判断については、次の機会まで保留となった。


「それでは三日後、ここでお会いしましょう」

「またお弁当作ってきますね!」

 クラルスとカレナがそう言うと、銀髪の青年はうなずいた。

 今後どうするかを話し合うため、再び集まることを約束したのだ。


「今日は美味しい昼食をありがとう。この埋め合わせは、必ずさせてもらおう」

 そう言ってデュースは爽やかな笑みを見せた。カレナたちも笑顔を返す。


 フォンドは魔族の青年の前まで行き、びしっと宣言した。

「なかなか手強いヤツだったぜ。オレの永遠最強のライバルと認めてやろう!」

「勝手にライバル視されても困るのだが……」

 眉を寄せ、本当に困った顔をしてデュースは呟いたのだった。



 空が茜色に染まる中、魔族の皇子は別れを告げる。

「では、また会おう。くれぐれも勇者のことは内密にしてほしい」


 勇者候補が現れた事を周囲に知られると、不要な混乱を招く恐れがあると指摘され、フォンドたちはそれに従うことにした。

 確かに誰が勇者なのかも不明であるし、その力さえも覚醒していない。

 少し時間をおいてから報告すればいいか、とフォンドも同意した。


「じゃあな、デュース。次に会うときは鎧の修理代を払ってくれよ! お前のせいで傷が付いたんだからさ」


 フォンドは金鎧の小さな傷をさすりながら言った。六万金貨もする鎧が壊れでもしたら洒落にならない。ちなみに先ほど天井に刺さった大剣は刃こぼれ一つ無かったので、ひと安心である。


「ああ、覚えていればね」

 振り向いて、魔族の青年は苦笑いを見せる。


「絶対忘れんじゃねえぞー!」

 自業自得なのに、あくまで他人のせいにしようとするフォンドであった。


 かくして、勇者候補と次期魔王の慌しい一日は、やっと幕を下ろしたのである。



※トッナロロトは作者による造語です。くれぐれも逆から読まないで下さいね。

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