表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

第7話『RPGの世界における服装の統一感は、往々にしてないものである』

〜前回までのあらすじ〜

何だかんだ言ってナッシュは、お金が欲しかっただけ。

 「さぁ、荷物は持ったか?」

 ナッシュが満面の笑顔で言った。

 「ええ!」

 キャサリンも笑顔で元気に答える。

 (この人達、ピクニックでも行くと勘違いしてるんじゃ)

 2人のやりとりを見てディアスは不安になった。

 タルは仕事のため見送りには来れない。その事がかなり早い段階でナッシュ達がを浮かれさせてしまった原因では?とディアスは思っていた。

 ちなみにディアスはタルから「仕事は父さんに任せて、ナッシュさんに付いていきなさい」と先ほど突然言われ、この場所にいる。2人のブレーキ役は自分しか居ない。しっかりしないといけないのだが、既にこのような状態では後が思いやられる。

 突然、ディアスの背後から「アンタ達、観光旅行に行くわけじゃないんだからね!」と大きな声が聞こえた。

 3人が一斉に振り向くと、小さなカバンを1つ肩に下げたエルシーが腰に手を当てて立っている。

 「エルシーさん、どうしたの?」

 ディアスが尋ねる。

 「あなた、アイツが旅の間どんなにハチャメチャか知らないでしょ。心配だから私も付いていくコトにしたわ」

 エルシーは質問したディアスではなく、キャサリンの方を向いて言った。キャサリンは特に反応がない。代わりにディアスがもう一度尋ねる。

 「工場は?」

 エルシーは今度はディアスの方を向いて「工場長に言って辞めてきました」と言い、続けて「リーダー嫌いだったし、そろそろ辞めようと思ってたんで」と付け加えた。

 「そっか・・・。じゃあ、まぁ4人で出発しましょうか?」

 特に断る理由もないので、ディアスはナッシュたちの方を向きそう言った。

 ナッシュは明らかに不満顔だったが、結局なにも言わずに歩いていく。キャサリンもそのままナッシュの後を付いていった。

 「はぁ」

 ディアスは小さくため息をついた。思えばナッシュと関わってから、ため息が増えたような気がする。

 「一人じゃ大変ですから」

 ディアスの様子を見てなのか、エルシーが小さな声で言って歩き出した。彼女は旅をするナッシュを間近で見ていただけに、自分やキャサリンの知らないコトをたくさん知っているだろう。そういう意味では非常に心強いな、とディアスは思いながら、遅れて彼も歩き出した。


 「さて」

 しばらく歩いていたが、急に立ち止まりナッシュが呟く。まだナッシュの住んでいる町からは出ていない。

 ディアスは疑問に思いナッシュに近づく。ナッシュ越しには駅が見える。

 「さぁ、お前達。切符はちゃんと持ったか?」

 ナッシュが振り向いて半笑いで言った。と同時にエルシーの肘が彼の顔面をとらえる。

 「旅行じゃないって言ってるでしょ!」

 エルシーの甲高い声を聞きながら、ディアスは彼女の瞬発力に感心した。

 『切符なんかまだ買ってるわけないじゃん』。これが辛うじてディアスの頭に浮かんだツッコミの言葉である。内容もエルシーには及ばない。

 (やっぱり彼女は心強いな)

 ディアスは改めて思った。そして、エルシーの言っていたナッシュの『ハチャメチャ』な部分も少し垣間見えた気がした。

 そして、もしエルシーがいなければ、ディアスはそのまま電車に乗っていたかもしれなかった。気を張ってないと流されっぱなしになる危険性がある。

 少しでも『まぁ、いいや』とほって置くと途端ナッシュのペースに巻き込まれてしまうとディアスは思った。

 ナッシュは素直に歩き出す。ディアスはエルシーを見て感歎のため息をついた。

 道中、ナッシュとキャサリンは絶え間なく楽しそうにお喋りを続けている。そしてエルシーは二人の少し後ろをずっと仏頂面で歩いていた。

 (何がそんなに不満なんだろう)

 ディアスは不思議に思った。前を行く二人のやりとりが全く不快ではないとは決して言わないが、そこまで長い間ふくれ顔でいる程でもなかった。

 ディアスはまじまじとエルシーの顔を眺める。エルシーはすぐに気付き「なんですか?」とそのままの表情で言う。

 「いや、そういえばエルシーさんってあんまり笑わないよね」

 「面白くないからです」

 ぶっきらぼうに彼女は言い放つと、歩く速度を前の二人に追いつかない程度に速めた。

 「はぁ」

 本日何度目かのため息をディアスはつく。やはり本人に直接聞くコトではなかったな、と反省した。

 しかしディアスは工場にいる時からエルシーの笑顔を見たコトがなかった。彼女は表情に彩が極端に少ないのである。それは私服にも言えることで、現に今も男が着てもおかしくないようなカーキ色の上下を着ている。それらが彼女の整った顔立ちを地味に見せている事をディアスは少し勿体ないと感じていた。

 対照的にキャサリンは白いワンピースに赤い上着を羽織っている。流石に旅をするのにこれはない、とディアスは思った。しかし化粧はいつもよりは控えめにされており、少しは(バカなりに)考えたのだろう。ちなみに薄化粧の方がディアス的には好みだ。

 となりのナッシュはドラ○エⅢの勇者の格好だ。しかし無職の期間が長すぎてオーラが全くないので、ただのコスプレに見える。

 ただ、突然の事とはいえ作業着で来てしまった自分が一番『やっちまったなぁ!』と思うディアスであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ