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第5話『どうだろうか?と言われても』

〜前回までのあらすじ〜

やっと主人公の呼び方が統一されました。

良かったね♪

 ある日、ディアスはキャサリンから呼び出された。

 指定された場所はナッシュの家。あれから一度も顔を出していないために気は若干重かったが、ちょうど初日の分の給料を届けなくてはいけない用事があったので、素直に行くことにした。

 「ちょっと、どういうことなんですか!」

 ナッシュの家について早々、キャサリンが詰め寄る。

 「何がですか?」

 こういう展開は予想できていたが、文句を言われる筋合いはない。うっとおしそうにディアスは言った。

 「せっかく、ナッシュさんが働く気になったっていうのに、あんまりじゃないですか!ナッシュさんは勇者なんですよ。世界を救ったんですよ。もっとそこのところを考えてあげて下さいよ」

 「えっと、つまり気を使えと?」

 「違いますよ!」

 キャサリンは全力で否定する。

 (これ、この前と同じ流れじゃないか?)

 ディアスはそう思い、ため息が出た。

 「ナッシュさんだって、向き不向きがありますよ。工場の仕事が向いてなくたって仕方ないコトじゃないですか。それなのにあんな・・・かわいそうに・・・」

 そう言うとキャサリンは言葉に詰まった。今にも泣き出しそうな表情をしていたので、ディアスも気が気ではなかったが、急に彼女は真顔に戻り「そうだ、バイトリーダーに会わせて下さい」と言った。

 「えっ?」と声を出し戸惑うディアスであったが、キャサリンはソファの上で体育座りをしていたナッシュの左手を強引に引っ張ると、そのまま連れ立って家を出て行ってしまった。

 (これは大変な事になった)

 ディアスはそう思ったが、キャサリンの勢いに圧倒され素直について行く他無かった。

 因みに今日ナッシュはまだ一言も喋っていない。


 工場に着くなり、キャサリンは「バイトリーダーは何処ですか!」と叫びながら、あちこちを回る。

 (なんかモンスターペアレントみたいだ・・・)

 ディアスはもうこれ以上キャサリンに関わりたくないので事務所に隠れていようと思ったが、それより早くバイトリーダーが彼女に捕まってしまい、タイミングを逸した形になってしまう。

 「あなたがバイトリーダーですか!」

 〝バイト〟リーダーと皆の前で大きな声で言われ、ザムザはムッとした表情になる。

 「そうですけど、何か」

 「あなた、ナッシュさんのコトを役立たずって言ったでしょ!」

 はあ?と声には出ずともザムザの口がそう動いた。

 「誰のおかげで平和な暮らしが出来ていると思っているの。ナッシュさんのおかげじゃない!ちょっとくらい作業が出来ないからって、そんな言い方される筋合いは無いはずよ!」

 「いや。ちょっとというか全然出来ないですけどね。ていうか、役立たずとまでは言ってないですけど。流れ作業なんで、皆に迷惑がかかると言っただけです。上司としてはそれくらい言って当然だと思いますけどね」

 ザムザもキャサリンの勢いに屈することなく、平然と言い返す。

 そしてナッシュはそのやり取りを後ろの方からジッと見ているだけで、入っていこうとする気配は無い。

 「感謝の気持ちはないの?」

 これまでのトーンとはうって変わり、静かな声でキャサリンが呟く。

 「感謝?」

 「そうよ、さっきも言ったけど彼が世界を救ったのよ。特別扱いしろなんて言うつもりは無かったけど、あまりにも敬意が無さすぎるわ」

 キャサリンのその言葉をディアスは理解が出来た。しかし、ザムザはそうではなかったようで「関係ないですよ。彼がそんな風に言われてるのは知ってるけど、ホントかどうか。というか別に僕は、ほっといても別に世界は滅ばなかったと思いますし」と言い放った。

 そんな事はない、そうディアスが言いかけたその時、ナッシュがようやく口を開いた。

 「もういいよ、キャサリン。ありがとうな。帰ろう」

 「えっ、なんで!」

 キャサリンが振り向く。さらに彼女が何か言いかけたが、ナッシュが首を左右に振ってそれを制した。

 「なんかお騒がせすみません。作業再開して下さい」

 ディアスはザムザにそう言うと、2人を連れて事務所に向かった。


 事務所の前に一人の男が立っていた。

 「親父」

 ディアスが驚いた面持ちで言う。

 「ただいま」

 そう言って男は少し笑った。

 「あっ、父でここの工場長をしてるタルです。前にナッシュさんには説明したと思いますが、長い事海外に出張してまして」

 ディアスがナッシュの方を向き、説明する。

 「はぁ。どうも」

 ナッシュは気が抜けたような挨拶をした。

 タルはそんな2人の様子を見て苦笑いをした後、急に真面目な顔になりディアスに向き直る。

 「実は先ほどのやり取りを見てしまってな」

 「そうなんですか」

 「本当にナッシュどのには申し訳のないことになってしまって」

 再びナッシュの方を向いて、タルはそう言った。

 「いえ」

 ナッシュはそれしか言わない。タルは一瞬悲しそうな顔をした後「中にはアナタのしたことを信じない輩もいるのは事実です。しかし、皆が皆そういうわけでは決してないのですよ」と言った。

 ナッシュは「いえ、もう大丈夫です」とだけ言うと、タルに軽く頭を下げ、キャサリンと共にその場を後にした。

 「ナッシュさん、ちょっと可哀想でしたね」

 ディアスがタルにそう言うと、タルは「う~ん」と腕組みをして暫し考えに耽った後、「自信さえ戻ればな」と小さく言ってディアスの方を見た。そして「もう一度旅に出たらどうだろうか?」と呟いた。

「・・・へ?」


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