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第3話『昔から手の早いヤツだったよ』

〜前回までのあらすじ〜

彼女に無職がバレた。

(あと、しつこいようだけどナッシュとアルスは同一人物です。ややこしくてスイマセン)。


 「えっと、じゃあまず・・・このベルトの左から流れてきますんで、上のネジを一旦外してそれを真ん中の部分に取りつけて下さい」

 ディアスは口で説明しながら、自分でその作業をして見せる。

 「もっかい」

 アルスは右手の人差し指を立ててそう言った。

 「わかりました。ここをこうでしょ。それからこうです」

 ディアスは同じ作業をしてから「これで大丈夫ですか?」と聞く。

 「うん、多分」

 「では、僕は一旦事務所に戻りますから、わからないコトがあったらリーダーのザムザさんに聞いてください」

 アルスはその言葉に頷きだけで返す。

 ディアスはその場所から2、3歩離れると再び振り返り「あの、まだ怒ってます?・・・でもナッシュさんも悪いんですからね」と神妙な顔をして言った。

 「もういい、怒ってない」

 アルスはそれ以上はディアスに対して何も言わず、ブツブツと先ほど教わった作業の手順を復唱し始めた。


 『アルス、無職がバレる事件』の後、キャサリンに珍しく土下座で説教されたアルスは、「就職したら許してあげる」というキャサリンの言葉を受け、ディアスの工場で働くことを決めた。

 どうやらここはディアスの親父が経営している工場で、何を作っているかはよく分からない(興味も無い)が、オランウータンでも出来る簡単な仕事らしい。

 ディアスが去ってから5分もしないうちに、アルスと同じ作業服に身を包んだ中年の男女がぱらぱらとやってきて、持ち場についていく。

 そして最後に、ひと際偉そうな雰囲気を醸しだしている三十歳前後の長髪の男が現れた。

 「君がナッシュくんか。私はここの現場責任者のザムザだ。宜しくな」

 何が〝くん〟だ。誰のおかげでのうのうと暮らしていけると思ってるんだ!それに現場責任者なんて気取った言い方しやがって。ただのバイトリーダーだろが!俺はそういうオマエみたいなのが一番嫌いなんだ。と言う言葉を全部飲み込み「宜しくお願いします、社長」とアルスは言った。

 「いや、社長じゃないけどね」

 予想外にまんざらでもない反応を見せ、ザムザは先程ディアスが説明した事と同じ内容を口頭で説明した後「まぁ、オランウータンでも出来るから」と言ってベルトコンベヤーの最後尾に移動した。

 「すみませーん!」

 程なくして若い女性の声がして、息を切らせながら声の主が走ってきた。

 「ちょっと、エルシーちゃん。ギリギリだよ?流れ作業なんだから気をつけてよ」

 ザムザが口を尖らせてその女性を注意する。

 「すみません・・・」

 声のトーンを数段落とし、エルシーと呼ばれた女性は持ち場につく。そこはちょうどアルスの右隣であった。

 「あっ、初めまして。僕ナッシュって言います。でもみんなからは僕が勇者だからかな?アルスって呼ばれてます。宜しく!」

 アルスの場所はベルトコンベヤーの先頭部分で左には誰もいない。仮に居たとしても自分から挨拶なんてしなかっただろう。しかし、女の子には挨拶するのだ。

 「アルス・・・?」

 ザムザの小言に意気消沈していたはずのエルシーだったが、急に低い声を出すと勢い良くアルスの方を向き、キッと睨んだ。

 「な、何?」

 エルシーの態度に動揺を見せるアルスであったが、すぐにある事に気付いた顔をした。

 「今頃気付いたの?バカ勇者!そうよ、アンタとパーティを組んでた魔法使いよ」

 「あ、あぁそうか。確かエルシーって名前だったな」

 アルスは左の口角を引きつりながら上げて、そう言った。

 「アンタ、私のコトずっと〝魔法使い〟としか呼ばなかったもんね。そりゃ一緒に旅をしたといっても、たった二つの大陸の間しか一緒に居なかったけど、それでも最後まで名前では呼んでくれなかったもんね。・・・あんなコトしといて」

 「あれは、その・・・あの・・・」

 しどろもどろになるアルスだったが、ちょうどその時、ベルトコンベヤーが動き出した。

 アルスはそれに気付き、流れてきたものを手に取って作業にかかろうとする。しかし、完全に平静を失っていたため、何をして良いかさっぱり分からなくなってしまった。

 「ちょっと、何も出来てないじゃない!」

 1つ目を手に取ったまま、固まっているアルスの前方を2つ目3つ目が素通りし、エルシーの所に次々と流れてくる。

 「あわわわわわ」

 「ちょっと、ストップ!」

 慌ててエルシーが声を上げ、それから少し経ってからベルトコンベヤーが止まった。


 「ちょっと、困るよ。流れ作業なんだから一人が止まったら全体が止まるんだよ。大体そんな難しい作業じゃないでしょう」

 〝バイト〟リーダーのザムザが長々と説教を始める。「この時間の方が無駄だ」という言葉を、その間アルスは頭の中で60回くらい呟いた。

 「すみません、緊張してまして。次からはちゃんとやります、王様」

 「いや、王様じゃないから」

 そう言ってザムザが自分の場所に戻り、再びベルトコンベヤーが動き出す。

 「オマエのせいだ」

 一言だけそうエルシーに呟いて、アルスは作業に取り掛かった。

 エルシーもアルスの足を一発蹴り飛ばしただけで、それ以上は何も言わなかった。

 動揺も収まり、アルスは集中して作業に没頭した。エルシーのコトも、その間は何も気にならなかった。

 それでもその日、2回ベルトコンベヤーが止まった。


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