第1話『昔の名前で出ています』
肩の力を抜いて、書いてみました。
今思えば、少し抜きすぎた気がします。
俺の名前はナッシュ・ツヴァイ・レオポルド。
皆からは〝アルス〟と呼ばれている。
アルスと言う名前でわかると思うが、勇者だ。ほんの3年前まではな。
何を隠そう3年前に俺は世界を救ったのだ。今じゃスライム1匹いないとても平和な世界だ。
文明は進化し、今じゃ外は普通に電車とか走っている。
こう言っては何だが、既に中世RPGの世界観は崩れてる。ドラ○エ世代の人が見たら若干引く感じだ。今度、一度写メを送るから見てもら・・・。
(コンコン)
誰かが扉を叩く音だ。申し訳ないがこれ以上、独り言の体で状況説明することが出来なくなってしまった。
みんな、しっかり付いてきてくれよ!
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
「はい?」
アルスは気だるそうに扉を開ける。
「おはようございます、ナッシュさん」
「なんだ、ディアスか」
アルスはディアスと呼ばれる丸眼鏡の青年が視界に入るなり、気だるそうにそう言った。
「今日も気だるそうですね、ナッシュさん。何がそんなに、あなたを気だるくさせるんですか?」
「何もないからだよ」
アルスはそう吐き棄てると、kdrそうにディアスを家へ招き入れる。
お茶を入れることもなく、アルスはディアスと同時に向かい合ってテーブルに着くと、「で、なに?」と明らかに不満そうな顔で尋ねる。
「なに、というかですね。そろそろナッシュさん、何か仕事とかしないのかな、って思いまして」
「えっ、何が?」
「とぼけても無駄ですよ。動揺が態度に出てますから」
ディアスは非常に冷めた表情で言った。
恐らくは、アルスが急に鼻をほじくりだした事についての指摘だろう。
「あなたは昔から動揺するとすぐに、鼻をほじくるんだから」
(そんな恥ずかしい癖を昔から・・・!?)
ディアスの言葉にアルスは初めて自分の癖を知った。
その衝撃も冷めやらぬうちに、さらにディアスは続ける。
「ご近所さんもそろそろ噂し始めてますよ」
アルスは両鼻に指を突っ込む。
「もう3年も経ってるじゃないですか。最初のうちは『闘いの傷を癒す』とか言って誤魔化せてましたけど、さすがにもう怪しまれてますよ」
「やっぱ、隣町でサッカーしたのがまずかったかな?」
「あれもまずかったですし、もうそろそろ何か動き出さないと」
ディアスはそう言うと席を立ち、冷蔵庫から勝手に牛乳を取り出してコップに注いだ。
「実を言うと・・・」
アルスもそう言うと席を立ち、冷蔵庫から一度ディアスが戻した牛乳を取り出すと、同じようにコップに注いだ。
「プッハァー!・・・金がねえんだよ」
アルスはごくごくと美味そうに牛乳を飲み干すと、その勢いで如何にも爽やかそうに言い放った。
「え、そうなんですか?」
「あぁ、俺モンスターを倒して金を稼ぐ事しか出来ないからな。・・・こんな事なら調子に乗ってモンスターを全部シバき倒すんじゃなかったぜ」
アルスは(こんな事になるなら、アイツをあんな所に一人で残しておくんじゃなかった)などと言うセリフの方が似合いそうな感じで言った。
「じゃあ、尚更働かないと」
「言っただろ、俺にはモンスターをシバく事しか出来ないって。この平和な世の中に俺の居場所なんてないんだよ」
アルスはそう言うと肩を落とした。
「でも働かないと」
ディアスの正論は終わらない。正論だから。
「無理無理。俺、洗濯も出来ないもん」
アルスはテーブルにうつ伏せになり、左手だけを横に振った。
「何か特技とかないんですか?」
「火、出せるけど」
「じゃあ、サーカスとかどうですか?」
ディアスの言葉に、アルスは暫し考えたが、やはり左手を横に振る。
「何か、勇者がやっても意外性ないじゃん。やってもどうせ『そら出せるだろ』って空気になるよ」
「確かに」
ディアスは少しだけ考えたフリをして、「じゃあ、うちの工場で働いてみません?」と言い出した。
「あ?お前、今日は最初からそれ言うつもりで来たんだろ」
アルスは不機嫌そうに言う。
「変なところだけは鋭いんですね」
「あぁ、俺は魔王に『世界の半分やるから、コッチ来いや』って言われても無視したからな。無視だぜ?魔王のヤツ、聞こえてないのかと思って、二回聞いてきたからな」
アルスは言った後で、「グヒッ」っと自分で吹き出した。
「はぁ。まぁ、確かに今日はそれを言おうと思って来たんですよ」
「でも、俺自慢じゃないが不器用だぞ?」
「大丈夫です。オランウータンにも出来る作業ですから」
「じゃあ、オランウータンにさせろよ!」
アルスは再び不機嫌になる。
「本当、プライドだけは勇者様ですね。でも、現実を見てください。あなたが今、何が出来て何をしないといけないか。ここでいつまでもグウタラしているわけにはいかないんですからね」
そう言うと、ディアスは立ち上がって玄関に向かっていった。
「何でも良いんです。頑張って何かをすれば、またあなたは〝アルス〟様に戻れるんですから」
最後にそう言うと、ディアスは振り向かずにドアを開けて、外へ出る。
「アイツ・・・」
アルスはそう呟いて、残った牛乳を一気に飲み干すと、大きく息を吐いた。
「さて。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・エロ本でも読むか」