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麒麟の世界にとりっぷ!  作者: Tm
17/18

謹賀新年

 さくらさくらさくら様著 羊の世界にとりっぷ!

 ~羊の国から明けましておめでとうございます! より~

 お返し(と言っていいものなのか)的御礼外伝。もふ愛を捧げます。最後に挿絵(子麒麟)注意です。

拝啓


 お母様、お父様、お爺様、叔父様、我が愚弟。

 吹く風も寒々と朝日に霜が照る今日この頃、しもやけひびあかぎれを天然の樹脂でカバーしているスローライフもいいところな毎日ではございますが、いかがおすごしでしょう。

 私は勿論スローのスの字もかすらないストイックライフに(あ、掠っちゃった)精神増強どころか磨耗する一方なのですが、それでもなんとかギリギリのところをチキンレースさながらの一か八かの回避率でもって己を保っています。

 皆様方に置かれましてはどうせ今日なり明日なりのうのうと現代ライフをウハウハ満喫していらっしゃることだろうとは思いますが、もし、一握りの愛情が、人の心があるならば、一刻も早く祈祷なり妖しい宗教に入信するなりして是が非でも私を呼び戻す努力をしていただきたいものです。

 しかしもって現在私がお世話になっている世界とそちらの世界では時の流れ方も知る術がございませんから、というかこちらでさえ既に自分の年齢サザエさん方式なもんで万年二十八という程よいお年頃でもってストップしておりますので、その辺りを伺うというのも些か抵抗があるのもまた事実です。浦島太郎現象なんてリアルじゃ残酷童話以外のなにものでもありませんからね、ええ。つか放蕩してないし。逆の一途を辿るどころか全力疾走中だし。

 さて、お目汚し、失礼をば。

 ところで私、前回よりもほんの少し、昇進といいましょうか、職場環境というか待遇を改善されまして、ええ。日々の努力と忍耐も無駄ではなかったということでございまして。

 この度、社員寮が東屋より本家へと移動になりました。ぱっぱかぱーん。

 隙間風吹き荒ぶ下手したら凍傷凍死一歩手前のアウト一歩手前なオンボロ東屋で過ごしていた私めですが、上司であらせられる主様のご厚情により、お屋敷の一番角の部屋の元物置だった小部屋を賜りました。

 移った当所は掃除はしてあったもののじめじめしてたり実は東屋とそう気温差がないことが解ったり窓さえないため昼間でも明かりが必要だったりと不便なことも多々ありましたが、産地直送隙間風がないこと、雨漏りがないこと、虫が入りこんでこないこと、禊のたびにクソ寒い冬空の下をお屋敷と東屋行ったりきたりしなくて済むことなど、諸々考慮すると随分と待遇を改善されたのだと思い知り、我が主には感謝の念がつきませんクソ。愚民は上を見て生きず下を見て生きよとのお達しですクソ。全くその通りだと思いますクソが。

 まあそんなこんなで私は元気です。元気ですが、前述の件、どうか、どうかご検討くださいますよう、お願いいたします。マジで。

 それでは長くなりましたが、どうぞいつまでもお元気で。私の精神が朽ち果てるまでにはもう一度お会いできますよう、お祈り申し上げます。


P.S.先日、贈り物を頂戴いたしました。

 こちらに勤めてウン十年、よもやこんな偏狭の塵芥と化した私のような者に贈り物を授けてくださる方がいるなんて、と滂沱もひとしおです。

 主の許しなく荷解きをすることは禁じられているため未だ中身は知れないのですが、今からとても楽しみです。

 中身がどんなものか知れたら、またお手紙を書きますね。その時には色よい返事を得られますように。


敬具





 贈り物。

 贈り物、だと……?

 鳥族の方(とあるお方のお孫さん)より賜りしその未知なる秘宝、まさかのまさか、私宛だという。

 なんたる奇跡。なんたる僥倖。まさか生きているうちにこんな幸運に恵まれる日がこようとはこの落人、思いもせなんだ。

 しかもその贈り物、ここより遠い遠いかの地に住まうという羊の一族に属する落人さんからと言うではあーりませんか。

 他種族、しかも同じ落人ともなれば同胞も同じこと(異論は認めない)。

 受け取ったその場で滂沱の限りを尽くしたとしても、だれが責められよう。例えそのとき居合わせた鳥族の彼にドン引きされようとも、この涙、尽きることなくだくだくと頬を伝うであろうッ。


 とまあ、テンションもいい感じに弾けつつルンルン気分でお持ち帰り、早速主様に報告。例によって意味不明に眉間の皺は増したものの、以前よりは角が取れたのか、主様の前で開封するならば受け取り可と許可を頂いた。

 ぶっちゃけるとなんで私宛に来たものにいちいち主様の許可を貰わないのいけないの? 馬鹿なの? なんなの?

 と言いたい所ではあったけれど、まあ駄目というわけでもないので甘んじておいた。

 なにより贈り物を頂いたことが嬉しかったので、そんなことは喜ぶ私の前には瑣末に他ならないことだったのであーる。


 で、ビバ開封。

 何故か大広間で、ちびっ子ギャング達(二期生)もいる最中ではあったけれど、まあいい。普段居丈高な奴らに大いに自慢してやろう。上から目線で贈り物を掲げつつ高笑いしてやろう。

 おっと、大人気ないとは言わせない。私よりも遥かに大人気ない大人が上司なのだから。

 くふふ、彼奴らが悔し顔でぴょこぴょこ跳ね飛ぶ様が目に浮かぶ。

 さあ見るがいい麒麟共。これが私に授けられし唯一にして極上の秘宝だ――ッ。

「…………うさタン」

「うさたん?」

「うしゃしゃん?」

「うしゃうしゃ?」

 壊れた山彦のように辺りで小さいのが何か言っている。そんなことはどうでもいい。

 こっちだ、こっち。この、滑らかな手触り。柔らかく機密な織りに、敷き詰められたように隙間ない弾力。白くて、ふわふわしていて、暖かそうで、ぴょこんと耳が立っていて。

 ――耳?

「うさぎ……だと……?」

「うさぎっ」

「うしゃりっ」

「うしゃしゃっ」

 ええい、外野がうるさい。いててっ、嗅ぐな噛むな引っ張るなっ。

 ええと、これは、ウサギ? 羊の国からウサギちゃんがコンニチハ? なんという異種間交流。羊がウサギ。羊がウサギで麒麟へ。

 いや、ちょっと待て、落ち着こう自分。ウサギ。コレはウサギ、じゃ、ない。ウサギっぽい、何かだ。

 そうだ、これは――帽子だ。

「帽子ッ」

「ぼーしっ」

「ほーしっ」

「ほうしゃっ」

 ちょ、ウルサイ。最後のなんか違うし。本体は死守してるけど既に包装紙やらなんやらが奴らの餌食になってるし。

 いや、待て、惑わされるな。その辺でいやにテンションが上がった餓鬼共を全力でガン無視して、同封されているものを漁る。

「帽子……これは、手袋? に……靴下、いやルームシューズ、最後は…………パンツ?」

「ぱんつっ」

「ぱんつっ」

「ぱんつっ」

 オイなんでパンツだけ正確に聞き取れてんの。力いっぱいパンツ連呼は教育上よろしくなくはないけど微妙なラインだと思うよ。

 つーか、パンツっていうか、ブルマ、かな。しっぽついてるし。あ、もう一つあった。なんだろう、腹巻き?

 意図は違えど予告したとおりそれを高々と上げ観察。その間もちびっころ共がよこせーよこせよーとばかりにぴょこぴょこ飛び跳ねる。これはあんたらの玩具じゃないんだっつーに。

「なんだろう……越冬ギフトセット的な……?」

 いや助かるけど。防寒具少ないから助かるけど。暖かそうでものっそい嬉しいけど。何故にウサギ? そして何故に羊の落人さんから?

 嬉しい。嬉しいけど何か引っかかりを覚える。どこかで何かを激しく間違っている気がする。見落とせない奈落の崖が眼前まで迫っている気がする。

「ふん」

 払い落とせない疑念に首を捻っていたそのとき、頭上で人を小ばかにしてコレでもかと見下しせせら笑う、そんな一笑が降りかかる。

 言わずもがなだ。

 ゆっくり振り返り仰ぎ見ると案の定のご尊顔でもってして、上から大いに見下しニヒルな笑みを浮かべる主様とバッチリ目が合った。

「……なんですか」

「さてな。だが紛れもなくそれはお前が受けるべきもののようだ」

 さてなって顔じゃないんですけど。

 この上なくせせら笑ってますよね。完全に見下す対象ロックオンして大いにあざ笑ってらっしゃいますよね。水を得た魚の如く生き生きしてますよ主様。面白くって困っちゃう的なアオリ文が今にも背後に掲げられそうですけどね。

 絶対なんかあるよねそれ。手に持ってるその紙がいい証拠だよね。

「なんて書いてあるんですか」

「貴様が着用せよと」

「……それだけ?」

「他に何がある」

 絶対嘘だ。

 いや、それは書いてあるかもだけど絶対そんな男一徹な一文じゃない。

 羊の国の落人さんは優しくて可愛くて子供に大人気のプリティメイドさんなんだって風の噂で聞いたもん。確か愛称は『めえちゃん』だとか。名前も可愛い。

 コレは絶対主様語に変換されたな。あとでちゃんと読ませてもらおう。

 そしてお礼のお手紙を書いて、ゆくゆくは文通して、ペンフレンドになって、果てはご招待されて着々と交流を深めて、お友達になってもらうんだ。

 もちろんご招待はしない。こんな素敵なプレゼントをくれた方をこの生き地獄に招待するなんてそんな恩を仇で返すような真似はしない。決して自分の境遇がちょっと惨めで晒しづらいからとかそんなんじゃない。そんなんじゃないじゃないじゃない。あばば。

「どうした」

「はい?」

「着用せよ」

 は? え。はぁ?

 何言ってんの何言っちゃってんのこの人。

 着用。

 着用? ちゃ、着用って、コレ。

 帽子、或いはうさ耳。手袋、或いはうさタンお手手。ルームシューズ、或いはうさタンおみ足。ブルマ、或いは尻尾。腹巻き。

 腹巻き? ん? これ胸当て? つーか、チューブトップ。

 チューブトップじゃないか!

「セ ク ハ ラ で す よ 主 様」

 震える手でどうにかこうにかそれを掴んだまま真っ青になって見上げると、あれまあ清清しいほど皮肉な笑顔。吹く風爽やかに背景には切り立った崖が見えるようだわ。

「はて。今の今まで喜んでいたのはどこのどいつだったか。よもや一度も袖を通さず送り返すなどという非礼を、麒麟たる我らが保護せし落人がしようものかな。ん?」

 ん? じゃないんですけどおおお。

 袖を通すってこれ袖すら無いもの。袖の概念からまるまる否定してるもの。

 いや可愛いよ、可愛いの。スッゴク可愛い。着心地良さそうだし二十代前半までだったら浮かれて着ちゃってたかも。

 でも、でもね、外見年齢三十路に片足つっこんだ実年齢ウン十年の彼氏も居ない干物女がコレをウキウキ着用って、あの、年齢制限かかっちゃうと思うのよ。色んな意味で公序良俗に反すると思うのよ。

 いくら表現の自由たってね、○原都知事にダメ出しされるレベルよコレ。

 それを見越してね、この態度とかね、もうね、我が主ながら近年稀に見る下衆っぷりに震えが止まりませんよわたしゃ。

 もう何なのこの人。慈悲の欠片どころか霞も見当たらないんですけど。

 こうまで人を貶めて何が楽しいの? それが大人のすることですか? 一族の長がすることですか? 人の上に立つ人間がしていいことなんですかソレは?

 てか実家に帰りたい。今すぐ実家に帰りたいよおおおおお母さーん。

「早くしろ。我は貴様と違い戯れに割く暇も惜しい」

 なら諦めろっつー話ですよ。完璧嫌がらせだコレ。着なきゃ絶対このままネチネチ嫌味コースだこれ。

 いやそれでもいいんだけど後日に響いても面倒くさいし。なによりこの人自分の従僕が自分に逆らったって事実だけで天を突くプライドに傷がつきかねないもの。そうしたら何されるか解ったもんじゃないもの。

 いいじゃん、着なよ。認めたくは無いけど主様の言うことにも一理あるし。せっかく作ってくれたんだし。コレ可愛いし。

 ただ着るモデルの設定が痛々しいってだけで。うん。

 ――いや、やっぱり。

「着ます。ええ、着ます。仰せのままに着ますよ。喜んで着用いたしますよ、ええ」

 ぷっつーんきました。おもむろに帽子を掴み取り、せせら笑う主様を尻目に、すぽっとかぶせた。

 ――――足元で駄々をこねていた子麒麟のうちの、一匹に。

「はう」

「まあ素敵」

「……おい」

 次いでブルマを取り出し別の子麒麟にズボッ。

「あう」

「やだきゃわゆい」

「おい」

 も一つついでに二匹とっ捕まえてお手手おみ足がアラ不思議蹄からモフモフお手手に早代わり。チューブトップは小粋に腹巻きジャストフィット。

「んぎ」

「ふぎ」

「愛いわあ」

「……貴様」

 あら主様のご尊顔に青筋が。やだ素敵すぎて愉快だわ。

「なんですか。着ましたよご覧の通り。見てください、なんという可愛らしさ。さながら神より賜りし至上の宝ではありませんか」

「……ぬ」

 そこで黙るから子煩悩なんですよねー。ちょろいちょろい。

 いやしかし我ながらなんという名案。三十路間近の年齢詐称彼氏いない歴ウン十年な干物女が着用するより遥かに前衛的。

 ていうかコレ最強じゃない? モフモフ不足分が補えたっていうか。

 ちびっ子達も嫌がるどころか喜んじゃって、着せられた子らはぴょこぴょこあちこちを跳ね回って見せびらかして、それ以外の子達は羨ましそうにきゃあきゃあ跳ね回っている。

 これがまたうまい具合のフィット率なんだ。

 帽子はうさ耳のところに生え途中の角が入って丁度いい具合の垂れ耳感だし、ブルマは尻尾が隠されて違和感があるのかびっこ引いててお尻ぴょこぴょこした歩き方になってきゃわゆいのなんのって。

 お手手おみ足うさ変化は安定感のあるインパクトに、チューブトップならぬ腹巻きはまたこのおまぬけ感が癒されるのよ。

 これはいい。いいもの貰った。

 『めえちゃん』さんグッジョブ。貴女の匠の技が光る伸縮自在の素敵コスチュームを授けていただきこの千歳、光栄でございます。

 かくなる上は。

「如何ですか主様。この愛らしさに加え、保温性に伸縮性。素材も高品質です。防寒具としてこれほどまで適しているものもそうそうありませんよ。外界断絶気味の一族の意識緩和としても、羊の皆様と交易を諮ってみては?」

「……調子に乗るな」

 少し不機嫌を装ったように私へぞんざいに書状を押し付けると、主様は広間を出て行ってしまった。

 うむ。これは、まんざらでもない感じなんだろうか。

 目くるめくペンフレンドへのフラグ達成に、みるみる希望が湧いてきた瞬間であったとさ。



 さて、まだ見ぬ『めえちゃん』さんへのお礼状とお返しの品について、ですが。

 風の噂によると一族の長の毛を集めているとの情報が入ったため、とくに財産を持たない私、これ幸いとばかりに主様のお部屋の清掃の際にせっせと抜け毛を拾い集め、その中でもまた精査し、一掴みの束ができる頃合になったところで謹んでお送りした次第。

 (割と本気で)つまらないものではありますが、製糸でも機織でもブラシでもなんなりとご利用くだされば幸いであります、と一筆を添えて。


 後日、『普通に考えて毛を贈るって嫌がらせ以外のなにものでもなくね?』と気付くも後の祭り、ばっきりフラグの折れる音が聞こえたとか聞こえないとか。


挿絵(By みてみん)

 見てはいけない別バージョン。

『もしも千歳がマジで着用していたら』



主様「見苦しい、悪影響を及ぼしかねん。疾く脱げ」

千歳(着ろって言ったの自分じゃん。着ろって言ったの自分じゃん!)


 以下小さきものたちコスプレルート帰化。

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