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最近妻に愛想を尽かされる夫が増えているらしいが、私の夫は朝から愛を囁いている。賑やかである。

作者: 有梨束
掲載日:2026/06/18

「好きだ、フェルミナ!」

「はい知っていますよ、ゼルクス様」

「本当に好きなんだ!」

「はい、だから存じていますよ」


朝起きた時からこのやりとりが続いているのだけれど、どう答えるのが正解なのかしらね?


昨夜真っ青な顔で帰ってきた夫のゼルクス様曰く、最近奥様に愛想を尽かされている旦那様が急上昇中なんだとか。


それってあれでしょう?

政略結婚に飽きて浮気し始めた夫が増えたっていう話でしょ?

それなら大丈夫だと思うの。

だって、その浮気相手を奥様方は把握されているし、もっとすごい夫人はご自身も隠れて浮気されているようだし。

夫だけ甘い蜜を吸っていると思っているけれど、奥様方の方が楽しんでいるっていう。


王妃様の秘密のお茶会にて、夫と浮気相手の暴露大会が行われているって話も本当かもしれないわねぇ、というのが私の感想だった。


なんでもその暴露大会で挙がった名前は、密かに出世を阻まれたり、地味に夜会への招待状が送られて来なかったりと、じわじわと王都から離されようとしているらしい。


しかも、なぜか浮気密会の内容まで晒されているらしい。

どこへ出かけたのか、何にお金を使ったのか、どこへしけ込んだのか、どんな会話をしていたのか、簡単に暴かれてはご婦人方にせせら笑われているのだとか。

怖いわねぇ。


それで、まあ、なぜか私の夫であるゼルクス様まで、わたわたしているというわけだ。


愛想を尽かされている理由が『浮気しているから』ということまでは教えてもらわなかったみたいで、必死で私のご機嫌を取ろうと頑張っているのだ。


う〜ん、ゼルクス様が浮気できる器用な人だったら、私も心配しているのかもしれないけれど、どう見てもそれはないし。


昼休みにも顔が見たいと言って、私にお弁当を持ってくるように頼むゼルクス様がよ?

仕事で視察に行くことになって、「私にも一緒に来てくれ」と妻同伴の許可を上司からもぎ取ってくるゼルクス様がよ?

夜通し仕事で家に帰って来られない日は、仕事場から早馬で手紙が来て、『その日のうちに返事をしてほしい、君に会えないから死にそうなんだ』と泣きついてくるゼルクス様がよ?


どこに浮気する暇があるのなら、教えてもらいたいくらいだわ。

だから、愛想を尽かす理由も特にないのだけれど。


「俺にはフェルミナだけなんだ…!」


この調子である。

私の前で跪いて泣きそうにしなくても、だからわかっていますって。


これで私たちも政略結婚なのだから、人それぞれというものだ。

いや、私はたぶん恵まれている方なのだろう。


私はゼルクス様の手を取って、私の膝の上に置いた。

それから、優しくゼルクス様の頭を撫でた。

それはもう猫でも可愛がるように撫でまくった。


「私にも、ゼルクス様だけですよ?」

そう言ったのに、切なげに私を見上げてくるから首を傾げてしまう。


そんなに不安になるようなことあったかしら?


わしゃわしゃと髪を撫でるけれど、ゼルクス様は私の膝に顎を乗せてくるだけだった。


そろそろ支度しないと、仕事に遅刻すると思うのだけれど。

どうしたら、憂いなく出勤してくれるかしらねぇ。


私も愛していますよと言おうとした時、ゼルクス様は言いにくそうにぽつりと言った。


「最近は、息子たちに負けている気がする…」


しょぼくれているゼルクス様を見て、なるほどそうきたか…と妙に納得してしまった。


さっき挙げた仕事場にまで私を呼び寄せていたのは、あくまでも息子たちが生まれる前の話だ。

3歳児と1歳児に構っていると、どうしても夫婦の時間は少なくなってはきている。

ゼルクス様はこれでもかというほどに息子たちを可愛がっているが、私への愛はまた別物のようだ。


「では、今度のお休みの日には、子どもたちを乳母に預けて2人でデートでもしませんか?」

「いいのか…?」

「ええ、その方がゼルクス様も喜んでくださるでしょう?」

「む、息子たちにお土産をたくさん買って帰らないとなっ!」

「ええ、そうしましょう」

「ありがとう、フェルミナ!大好きだ!」

「私も好きですよ、ゼルクス様」


ようやく納得してくれたのか立ち上がって、ぎゅうぎゅう抱き締められた。


久しぶりに息子たちが昼寝をしている間に、お弁当を届けてもいいかもななんて思いながら、ゼルクス様の背中に腕を回した。


「あ、そうだ。ちなみに奥様方が愛想を尽かしているっていう話ですが」

と、真相を話すとゼルクス様はさらに顔を青くさせるのだった。


「俺は浮気などしていないぞ!」

「ええ、わかっていますよ」

「絶対にしていない!俺には、フェルミナだけだっ!」


悲鳴に近い声でそう言われて、なかなか離してもらえなくなった。


ああ〜、だから遅刻してしまうって…。

浮気しているからですよって言うタイミング、完全に間違えたわ。


「あ〜!おとさま、かかさまにぎゅーってしてずるいー!」

結局、上の息子にもバレて、朝から大変に賑わってしまうのだった。



奥様方も浮気しているって話だけど、私の夫も息子も可愛いので、私が他に目を向ける理由もないしね。






お読みくださりありがとうございました!!

毎日投稿169日目。

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