① 夢の中で
「……アモ……アモン……アモン・ラーよ。」
「何だ……誰だ?私を呼ぶのは?」
「目覚めたまえ。アモン・ラーよ。」
「……うるさいな……放っておいてくれ!」
「時は来た。目覚めたまえ。」
彼は仕方無く眼を開ける。
しかし、コレが三次元世界の現実ではなく、夢の中の世界を借りた、亜空間の中だという自覚がある。
目の前には、変わった頭部の形をした人物が居た。
黒い顔色。
少し下がり気味の長い鼻先。
先が四角い、長細い一対の耳。
下の方に視線を移すと、後ろに伸びる細い尻尾の先は、幾つかに枝分かれしている。
惑星ガイアの、どんな動物にも似ていないが、その姿には見覚えがあった。
しかしそれは、遥か昔の記憶だ。
「……なんだ、セト神ではないか?久しいな。」
「思い出したようですね。」
「今頃どうしたというのだ?」
「実は最近また、三次元世界に関わりを持つ事になりまして……ご挨拶をと。」
「ソレはつまり……現在の私のそばに、居るという事だな?」
「はい。ただ、貴方様は覚醒時、ご自分が何者なのかという事を、スッカリお忘れのようですので……こうして夢の中でお会いしております。」
「……そうか。それは苦労をかけるな。済まない。実は私も、少しずつ記憶を取り戻しつつあるのだが……。」
「おお、ソレは良い兆候ですな。」
「きっかけは下級層の四次元のヤカラが、このカラダに入り込んだことだ。宿主は面食らったようだが、そのおかげで私は、目覚めるきっかけを掴めた訳だ。」
「なる程、なる程。」
「その後も、宿主が大きなチカラを使う度に、私の自我も大きくなっていった。しかしこの宿主は、私の自我が完全に覚醒する事を、好ましく思っていないらしい。」
「それはまた……なぜ?」
「恐らくソレによって、自分のカラダが、この私に、完全に乗っ取られると思っているのだろう。」
「しかし……先日の、アポピスのような事件も、起きていますから……そろそろ貴方様にも、完全覚醒が必要かと。」
「分かっている。そろそろ宿主とも、折り合いをつけるつもりだよ。」
「私もその時を、首を長くして、待っておりますよ。」
「返す返す済まんな。」
「では……本日はコレにて失礼致します。いずれまた、三次元の世界で、改めてお目にかかりたいと思います。」
最後にそう言うと、夢の中のセト神は、フッと消えてしまった。
そして、今まで寝ていた彼は、本当に目を覚ました。
隣では弓子が、まだスヤスヤ眠っている。
今日は、西暦1993年3月31日
時刻は、午前2時30分。
ある時は鳳凰、ある時はフェニックス、三次元世界では、古代エジプトの人々を導いた事もあったし、日本では、聖徳太子の中に居た事もあった。
そして現在、この世界では真田雪村と名乗っている。
しかし今やハッキリと思い出した。
彼の本当の名は、アモン・ラー。
五次元の世界からやって来た、高貴な魂なのだ。




