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マナの世界  作者: らゐをふ


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1/1

後編:「描く」

 落書きの様だった魚はクルッと一回転を決めると人の姿になった。それはもう、「魔女」って感じの姿に。

「人と喋るのは何年ぶりになるんやろ 人に恐れられて海に逃げて…」

 視線も合わせず魔女は喋り続ける。

「ウチは『ミラ』!アンタは?」

「私は…えっと…あれっ…?」

 自分の名前が思い出せない。そこにあったはずの記憶に手を伸ばすと、締め付けられる様に頭痛がする。

「大丈夫!?無理したらアカンで!」

 頭を抱える私に、魔女は背中をさすってくれた。

「せやな…『マナ』とかどうや!?」

「マナ…良いかも!」

「よし決まり!そんでマナ!どうやって人間に『復讐』する?」

「えっ…」

 退いた頭痛が姿を変えて更に襲う。

 確かに私は理不尽に殺された筈。でも明確な記憶を思い出そうにも頭痛が邪魔をする。私の背中を再びさする魔女。それは優しさの様な、狂気にも感じる様な。

「ウチな 人間嫌いやねん 折角の機会やし協力して何か悲劇でも起こせばスッキリするやろ?」

 明るい表情のままとんでもない事を話す魔女。この優しさは、人間の私に対してでは無く「理不尽に殺された悲劇の少女」に向けられていると感じた。

「…今でも人間が憎いの?」

「せやな 何十年も会って無いけど」

「でも…人間も楽しいよ?」

「その心は?」

 私は、頭痛の中必死に楽しかった記憶を探す。まるで暗い海の中を手探りで探す様に。

「私…人の時は『絵本』が好きだったの」

「絵本やと!可愛らしいな!」

「可愛いし楽しいしちょっぴり切ない でも最後はハッピーエンドで感動するの」

 和らいできた頭痛は、好きな物を思い出す事によって消えていた。

「ハッピーエンドね…アンタはそれを望むんか?」

 良い返事が思い浮かばず、首を強く縦に振った。

「面白い!ならマナの思う様にやってみよか!」

 魔女は軽く私にハグをしてから、手を握りとある屋敷に連れて行って貰った。


 魔女の家。想像より何もなかった。

「ミニマリストちゃうで 趣味が無いだけや」

「それは…生きてて楽しい?」

「突然おもっ!?せやからマナが教えてくれるんやろ?」

 ミラは白い紙と羽の付いたペンを取り出す。

「ウチが好きなのは…こういうのはどうや!」

 描かれたのは落書きのような「人魚」。人形姫という童話を思い出し、自分の姿と照らし合わせ正にタイムリーだと思い知る。

「まず私みたいな姿の少女が既に居たとして 人間に恋をしたとしたらどうなると思う?」

「なんやかんやでその相手殺してハッピーエンドや!」

「歪んでる…!大体合ってるのも怖いよ…」

 ミラの話を聞きながら、慣れた手つきで絵を描いていく。

「恋に焦がれた人魚は魔女に出会うの そして声と引き換えに人間の足を貰う」

「逆やないか アンタと」

「そうなんだよね ちょっと面白いかも」

「そっちも大概歪んでるやないかい」

 一枚目を描き終えて光と照らし合わせる。ミラも覗きこみ、二人で顔を見合わせる。

「完成?」

「まだ あと10枚は描く」

「時間かかるなぁ」

 魔女は魔法で紙を出し、私に手渡してくれた。黙々と作業する私と暇を潰すミラ。時計は、気付けば1周していた。

「よし!完成!」

 ミラの元に飛び出そうと走ろうとした。足が開かなくって転んでしまう。

 夢中になっていて忘れていた。もう私は「人間」じゃない。夢を見る愚かな「人魚」なんだ。また涙が込み上げてきた。

「進捗どうですか…ってまた泣いとる!?なんで!?」

 慌てて背中を摩ってくれるミラ。堪えきれず溢れた涙は、最後の絵を濡らして歪めてしまった。

「せっかくの絵が…」

 泡となって消える人魚姫の絵。涙で更に悲しさを演出する様になってしまい、むしろ完成してしまった。

「泣くのか笑うのかどっちかにせんかい」

「ごめん…」

 もしかしたら、私は相当の絵本ばかなのかもしれない。

「しっかしようこんなに描いたなぁ しかも絵だけでなんとなく展開が見える」

 私の自信作を、まるで編集者のように眺めるミラ。

「文字が読めないウチにもピッタリや」

「そこは勉強しようよ」

「嫌や 人間嫌いやし」

「でも……楽しいよ?」

 ニヤけていたミラは急に真顔になる。私は地雷を踏んだと思って不安な顔を返す。

「せやな……これからアンタには先生やってもらおかな」

「えぇ…?」

 描いた人魚姫とは全然違う、魔女に文字を教える所から始まる私の「人魚姫」。

「他にもオススメの話ある?」

「後は…『不思議の国のアリス』とか『赤ずきん』とか 『お菓子の家』だったり『シンデレラ』なんてのも」

「多いな!?」

「先生になるからには一緒に楽しもうね!ミラさん!」

 めでたし……とは言えないけど、今日も私は楽しく描いています!

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