7話『Mission1 髪切ってイメチェン!【前編】』
日曜日――。
ディーノさんとのデート当日。
俺は、表参道に来た。このエリアに来るのは、もちろんはじめてだ。
表参道にも“ラグジュアリーな街”という印象を持っている。六本木と同じように、高層ビル群が立ち並ぶ、艶やかな雰囲気を纏う街なのだろうと想像していた。
だが、六本木とはまた雰囲気が違う。ハイブランドが軒を連ねるラグジュアリーな街ということには変わりない。だが、六本木ほど敷居の高さを感じない。
見上げるほどの高さのビルがそう多くないからか、行き交う人々の年代が気持ち若く見えるからだろうか――。
六本木に足を踏み入れるときほど、居心地は悪くないと思った。
今日の目的――それは、俺の身だしなみを整えることだ。
先日、痩せたことに対しては文句なくお褒めの言葉をもらったのだが…
俺の頭からつま先までをなめるように見たディーノさんは、ハンドバッグからおもむろに手鏡を取り出し、鏡を俺に向けてこう言った。
「キミ、今の身だしなみで告白するつもり?どんなに中身を磨いたって、外見で門前払いだヨ」
そんなわけで今日、ディーノさんが俺をトータルコーディネートしてくれることになった。
今の心境は、楽しみ半分、不安半分。
ディーノさんの手にかかれば、外見が激変することは約束されたようなもの。告白するにあたっての戦闘態勢は、まず間違いなく整うだろう。
だが一方で、ディーノさんは良くも悪くも無邪気で突拍子がない人だ。どんなスタイリングを施すのか読めない。それに、表参道という場所柄、用意した現金で足りるのかも心配だ。
あれこれ考えながら歩いていたせいで道を間違えてしまい、俺は約束の9時から3分過ぎて、目的地に到着した。
ディーノさんは、すでに俺を待っていた。
今日は黒いYシャツに、ストライプの入った黒いジャケットを羽織ったクールなファッション。シャツのボタンを2つ開け、真っ白い肌と黒のコントラストがはっきりしていて、色っぽい。
一方、パンツは青色のジーンズで、少しカジュアルダウンしている。日本人離れしたスタイルが際立ち、道行く人々が思わず二度見し、後ろを振り返るほどだった。
ディーノさんは俺に気づくと、その長い足を存分にアピールしながら早足で近づいてくる。
そして一言。
「遅いヨ!」
俺は「すみません。道に迷ってしまって」と謝罪する。
「キミ、女性とのデートで同じことしたら…THE END」
「……はい、そうですよね……」
「デートの主役はいつだって女性。相手を待たせる状況をつくるのは絶対NG。男は、先に到着して彼女を待ってないと」
「ディーノさんは、約束の時間のどのくらい前から現地に行くんですか?」
「30分前くらい前かナ」
「勉強になります…!」
俺はすかさず、カバンの中からボールペンと一冊のノートを取り出す。
「ナニ、それ?」
「これは、ディーノさんから伝授された恋愛ノウハウを書き留めておくためのノートです」
『ディーノさんの恋愛指南書』
1冊の恋愛教材をつくるつもりで、俺はノートをそう名付けた。
ディーノさんは興味深そうにノートを見つめ、そしてニヤッと笑った。
「サインしてあげるヨ!」
そう言って、持っていたボールペンとノートを俺から奪う。
ディーノさんはノート裏にこう記した。
“恋はパッション!By Dino Leone”
そして、「さあ、行くヨ!」と急ぐよう促した。
一軒目。そこは、美容院だった。
ディーノさんの馴染みの店らしく、彼は店長らしき女性と親しげに言葉を交わしている。
しばらくして、「それじゃ、イケメンに仕上げてもらってネ」と俺に言って、彼自身はどこかに出かけてしまった。
ひとりきりにされた俺はその女性に導かれ、座り心地の良いフカフカの高級な椅子に腰かける。
「本日担当します、店長のナオコです。よろしくお願いします」
「大河内 直です。よろしくお願いします」
「早速、シャンプーからしていきますね」
「あの…ヘアスタイル相談したいんですけど……」
「あ、失礼しました!ディーノさんからすでにご指示はもらっています」
「そうなんですね。ディーノさんは、どんなオーダーをしたんですか?」
「それは……内緒です!ディーノさんから『サプライズで楽しませたいから、直には何も伝えないでネ』と言われてるので」
さすがに、完全なお任せは不安だ。
俺は、生まれてこの方、カラーやパーマなどを一度もしたことがない。生まれながらの髪質を尊重してきた。ワックスなどのスタイリング剤すら使ったことがない。
とくにこだわりがあったわけではないが、ヘアスタイルに意識を向ける必要性がいままでなかったのだ。
「待った」をかけたい気持ちは正直ある。
だが、ディーノさんに師事すると決めたからには、俺に逆らう権利などない。
ディーノさんを信じよう。
「わかりました。お任せします。よろしくお願いします」




