6話『Mission0 10kg、痩せろ!【後編】』
後ろを振り返ると、そこにはディーノさんがいた。
「Oh…Myガッ!!!What!?」
彼は目を丸くし、信じられないといった感じだ。
「見違えたネ~!前と同じ服装じゃなかったら、わからなかったヨ。びっくりだネ」
及第点はクリアしたようで、ひとまず安心だ。
「店、早く入ろうヨ。女の子たち、もう来てるから」
「あ、そうなんですね。お先にどうぞ」
俺は無意識に、先を譲った。
すると、ディーノさんは首を横に振る。
「キミが先に入って」
「え……でも…」
「キミは恋愛でもライバルがいたら譲るの?」
「それは……」
「下向いて自信なさそうにするの、キミの悪い癖ネ。ちゃんと変われたんだから。自信もっていいヨ」
ディーノさんは俺の背中をポンと押した。
俺は深く頷くことでそれに応え、先陣を切ってドアを開けた。
その瞬間――。
一斉に大勢の視線がこちらに集中した。
見渡すと、客の顔ぶれは1か月前とあまり変わっていないように見えた。俺がこの店を訪れるきっかけをつくったあの男もいる。
きっと、みな話のネタにしてやろうと、俺が来るのを待ちわびていたのだろう。
どんな反応をされるかと、内心ビビりまくっていたのだが。
店内は、予想外にもシーンと静まり返った。誰も微動だにせず、俺を凝視している。
すると、「お久しぶりでございます。素敵になられましたね」と、店員が話しかけてきた。1か月前、俺を唯一応援してくれたあの店員だった。
「そうですかね?ありがとうございます」
「今日は、ディーノ様とご同席でよろしいでしょうか?」
「うん!いいヨ、いいヨ~」
いつの間にか、真後ろにディーノさんが立っていた。
彼は「早く、早く~♪」と、俺の背中をぐいぐいと押す。
その様子を見ていた周りの客たちは、ようやく、ひそひそと小声で話し出した。
「あれって、やっぱり1か月前の?」
「あのチェックのシャツ、アイツで間違いないっしょ?」
「めっちゃ痩せたね。びっくり」
「ちゃんと努力したんだね。ちょっと見直した」
「私も一層、ダイエット頑張らないと」
俺を蔑むような声は少なく、多くが驚きと称賛に満ちたものだった。
正直、六本木を根城にする大人たちは人を見下す汚い心の持ち主ばかりだと、偏見を持ってしまっていた。だが今日は、多くの人々がちゃんと努力を認めてくれている。
彼、彼女らは、ただ悪口を並べる空っぽな人間などではなく、並々ならぬ努力をもって、この街に似合う大人へと上り詰めたのかもしれないと思った。
1か月前と同じ半個室に行くと、6人の女性が待ち構えていた。
全員、前回と同じ顔ぶれだった。
「首の脂肪がなくなってる!」
「ズボンのウエスト、前ははち切れそうだったけど…今はベルト調整してる!」
「今の体型なら、もう少しシルエットが出る服も着れそうじゃない?」
みな、俺を見るなり口々に感想を言い合う。
ディーノさんは「見るからに体型変わったよネ~」と言いながら、当たり前のように女性たちの間に割って入り、中央に座る。俺はその反対側のソファに腰かけた。
「で、何kg痩せたの?」
「13kg痩せました」
「どうやって?」
「僕は、食事と運動習慣に問題があったので、その2つを重点的に改善しました。
食事は間食と夜食のカップ麺をやめて、朝食をちゃんと摂るようにしました。朝、昼、夕の3食を基本に、断酒もしています。
週に4日は自炊して、糖質、たんぱく質、脂質、カロリーを毎日記録して管理しています。
運動に関してはシンプルで、毎日習慣づけるようにしました。
朝は軽いランニング、仕事帰りはパーソナルジムに行って、専門家の先生に運動の強度を調整してもらいながらトレーニングしました。
休日は、メンズピラティスでインナーマッスルの強化。それから、たまに昔の仲間とソフトテニスしたりしてました。
その他には、睡眠前のストレッチ、入浴習慣をダイエットの一環として取り入れましたね」
説明し終えると、レイナが「港区女子並みの努力と執念」と一言。
周りの女たちもうんうんと、頷いている。
「キミの良さはちゃんと努力できるとこだネ。真面目だし。口先だけじゃない。キミの本気、ちゃんと伝わったヨ」
「それじゃあ……!」
「僕も、キミのためにひと肌脱いじゃおっかナ~」
そう言ってディーノさんは、赤いYシャツの袖口のボタンを外して腕まくりをする。
それを見た女たちはキャッキャとはしゃいでいる。
場を盛り上げるパフォーマンスなのか、本気なのかよくわからないが…とりあえずは、MISSION成功だ。
「それじゃ、記念にみんなで乾杯しヨ~」
「俺、断酒をしているので……」
「Oh…ノリ悪いネ。真面目すぎる男はモテないヨ~今日だけだヨ?チョットだけ。ネ~?」
「……わかりました」
モテないと言われてしまったら、敵わない。
俺は目の前に置かれたシャンパンを手に取る。
「それじゃ、今日僕のために集まってくれたみんなに~乾杯!」
「乾杯~~~!」
「俺が痩せたお祝いに、じゃないんかい!」と、内心思った。
この場の主導権は完全にディーノさんが握っており、彼のペースにまんまと飲み込まれてしまっている。一方で、今までの人生で出会ったことがないタイプだから、言動の予測がつかず面白い。
俺は一気にシャンパンを飲み干し、1か月ぶりのアルコールの美味しさを噛みしめた。
「ディーノさん、次は何を学べばいいでしょうか?」
俺は手帳を取り出し、メモの準備をする。
すると、ディーノさんは俺のことをまじまじと見つめ、こう言った。
「週末、僕とデートしよっか?」




