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3話『俺の恋愛IQ』

 男の言葉を聞いた瞬間――。俺は一気に尿意が復活し、途端にトイレを我慢できなくなった。このままでは、チビってしまうだけではおさまらなそうだ。


「すみま…せん…先に、トイレ……いいですか?」


 俺は相手の返事も聞かずに、トイレめがけてダッシュした。

 スッキリして戻ると、男はニタニタと笑いながら「Are you ready?」と聞いてきた。


「はい、大丈夫です」と、俺は力強く返事をする。


 もしかすると、彼にとっては勝ち組のたわむれ、この場を楽しむだけの一興にすぎないのかもしれない。だが、来たるべき日――告白成功に向けて実践を積むことは必要だと思った。


 俺は、レイナという女の隣に腰かけた。真正面では、男が楽しげに俺を見つめている。


 ――とりあえず、自分にできることをやってみよう。


 レイナに話しかけようと、彼女のほうに身体を向けた。

 しかし、なんと声をかけ、どんな会話をしたらいいのだろうか。全くわからない。


 俺は下を向いて沈黙する。そして悩んだ末、まずは自己紹介からと思い立つ。


「お…大河内 直(オオコウチナオ)と申します。お名前は…?」

「レイナです」

「ご趣味は?」

「え、趣味?うーん、ピラティスとお酒かな」

「……ピラティス、いいですね。僕やったことないんですけど。興味あります」

「そうなんだ」

「僕の趣味は、アニメを見ることと、資格の勉強をすることです。アニメって見ますか?」

「見ないかな」

「……そうなんですね。アニメって、本当にいろんなジャンルがあって。世界観が広がるんです。きっと、レイナさんが気に入るものもあると思います。僕は日常系のほのぼのした作品が好きで。生活の疲れとか忘れて、ほっこりするというか」

「へ~そうなんだ」

「……お仕事が休みの日は何されてるんですか?」

「買い物とか、美容メンテナンス行ったり。あとは友達と旅行したり。今日みたいに飲んだり?」

「そうなんですね。僕はインドア派なので、真逆ですね。……アハハハハ」

「……」

「……」


 お互い沈黙してしまったところで、男は「ストップ」と声を発した。

 と同時に、野次馬たちが俺の実演に対して感想を言い合う。


「女性が全く興味なさそうだった」

「好きな人とする会話ではないよね」

「話し上手でもなければ、聞き上手でもない」

「お遊戯会レベル」

 など、ひどい言われようだった。


 だが、俺はそれに反論することができない。もはや恥ずかしいといった感情すら湧いてこない。俺は茫然とした。それほど何の手ごたえもない会話だった。


 男友達とならスムーズに話せるのに、女性相手となると途端に何を話していいやらわからなくなる。女性との普通の会話もままならないのに、そこに恋愛要素が加わると、またハードルが上がる。改めて、このままではマズイと自覚した。


「レイナちゃん、どう思った?」

「え~正直、つまらなかったかな」


 レイナは、そそくさと男の隣へと戻った。

 "つまらない”という言葉が、俺の心をえぐった。


「キミ、恋愛したことないでしょ?」


 核心を突かれた俺は、「はい…恋愛経験はありません」と潔く認める。


「今のキミ、恋愛IQが0。告白成功率も――0%だネ」


 わかってはいたことだが――。

 今の俺には、経験もスキルもテクニックもない。ゲームでいうところの初期設定のアバター状態だ。ゲームの世界のように、やり込んだ分だけ、レベルアップできるならいい。だが、現実の恋愛においては、そう簡単な話でもないだろう。


 俺はこれから先のことを想像し、不安が募った。


 何も言えずに黙っていると、男は鋭い指摘を入れた。


「キミ、レイナちゃんと一度でも目合わせた?」


 俺はハッとする。身体は彼女のほうに向けていたのだが。ずっと目線を下に向けたまま彼女と会話していたことに気づく。


「視線を絡めるのは、基本中の基本。目が合わないのは“キミに興味ないよ”って言ってるのと同じ。相手が不安になる。『視線だけで相手をオトせる』が僕の持論ネ」


「今の俺にはレベルが高い!」と思ったが、そもそも視線を合わせず会話をするなんて相手に失礼だったと反省した。


「キミの趣味の話とか、全然いらない。興味もナイ!僕はレイナちゃんのことダケ、知りたいヨ」


 男は、レイナに向かってウインクする。

 レイナは「もう~!調子いいんだから!」と言いながら、めちゃくちゃ嬉しそうだ。


「それと、「申します」って日本語。僕、一回も使ったことない。よくわからナイ」


 男は両手を広げ、困ったような表情を浮かべた。


 俺は良かれと思って、「『申します』というのは『言う』の謙譲語です。初対面の方との自己紹介で使う、より丁寧な日本語…」と言ったところで、男は再び「ストップ!」と止めた。


「けんじょーご?丁寧?そういう日本語のせいで、相手との距離が永遠に縮まらないネ」


 そう言って、男は首を横に振る。


 ――そんなことを言われても……。


 日本人の初対面の自己紹介は、「申します」が一般的だろう。ラフすぎる物言いは、失礼にもあたる。


 この男が言いたき正解とは、一体どんなものなのだろうか。イメージがてんで湧いてこない。


「じゃあ…あなただったら、どうやって彼女をオトすんですか?」

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