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17話『Mission7 お互いの感情を交換せよ!【前編】』

 百花さんとの初デートの失敗を自覚した俺は、ディーノさん、トモミさん、ニナさんとのグループLINEにメッセージを送った。


『百花さんとの初デート、失敗しました』


 すると、送信から1分も経たないうちにディーノさんから返事が来た。


『原因はわかってる?』

『全くわかりません。手応えすらあったので』

『ボイスレコーダーは聞いた?』

『もちろん。何度聞き返しても、さっぱりです』

『今日の21時。緊急ミーティング@新宿』


 こうして、招集がかかった。

 トモミさんとニナさんも予定が空いていたらしく、参加してくれることになった。


 そして約束の21時――。

 時間通り、全員が一堂に会した。


「トモミちゃん、ニナちゃん、忙しいのにありがとうネ」

「ぜ~んぜん!むしろ私たち、恋の行方がどうなるのか楽しんでるから」


 トモミさんとニナさんは顔を見合わせ、笑い合った。


「早速、ボイスレコーダー、聞かせてもらえるかナ?」


 俺はボイスレコーダーをテーブルの中央に置き、再生ボタンを押した。


 内容を聞いている時――ディーノさんと女性2人の反応は対照的だった。


 女性陣は節々でニヤニヤと表情を緩ませたり、お互いに視線を合わせて驚いたりと、表情豊かな反応を見せていた。


 一方のディーノさんはというと、微動だにせず、いたって真剣な表情で聞き入っていた。

 いつもの調子で茶化されると思っていたので、意外だった。


 ひと通り聞き終えると、ディーノさんが口を開いた。


「楽しかった?」

「え……?」

「百花さんとのデート。キミは楽しかったのかナ?」


 俺は予想外の質問をされたことに面食らった。

 数秒の間を置いて、「楽しかった……と思います」と答えた。


「僕には楽しそうな会話には聞こえなかったナ。百花さんに気を遣わなくていいヨ?彼女とはもう一生会わないんだし」


 そう諭された瞬間――。

 心のどこかで見て見ぬフリをしていた感情が、顔を出した。


 そう。あの時間を純粋に楽しめたかというと、そうではなかった。気が滅入るような話を延々と聞かされて、楽しいはずがない。


 でも、彼女は気持ちよさそうにマシンガントークを繰り広げていたから、これが正解なのだろうと思い込んでいた。


「彼女自身は、キミと過ごした時間そのものは楽しんだと思うヨ。じゃないと、ここまで自分のプライベートな情報をオープンにはしないからネ。それは、キミがちゃんと聞き役に徹していたおかげ」

「……はい」

「でも彼女、キミに恋はしてないネ」


 なぜそう思うのかと、ディーノさんに聞くまでもない。

 要は、恋愛対象外の相手だから、良くも悪くも何でも話せたというわけなのだろう。


「トモミちゃんとニナちゃんは、どう思った?」

「私も、ディーノさんと同じこと思った」

「うん。会話が一方的すぎで、内容もヘビーだし。恋愛には発展しなそうだなって」

「そうだよね。愚痴や鬱憤ばっかりだとデートの後味めっちゃ悪いし。直くんは一度もネガティブな話してないのに、なんかその印象が残っちゃうというか」

「録音聞いてて、だんだん直くんが可哀そうに思えてきたもん」


 なるほど。今回のデート失敗の大きな要因は、俺自身というよりも会話の質にあったということか――。


「私、思ったんだけど……百花さん、直くんの第一印象自体はそんなに悪くなかったと思うよ。だから、可能性は十分あったのかなと」

「どうしてそう思うんですか?」

「ん~~~女の勘ってヤツ?」


 そう言って、ニナさんはニコっと笑った。

 根拠がないと、説得力がない。俺は、“女の勘”とやらの正体を掴めずモヤモヤした。


「実は、僕もニナちゃんと同じこと思ったヨ。次につながる可能性は、ゼロではなかったんじゃないかって」


 ディーノさんまで彼女に同調した。


 しかし、俺にははじめから脈がなかったとしか思えない。


 百花さんは、会話のだいぶ冒頭からネガティブトークを繰り広げていた。

 つまり、はじめの段階から俺を恋愛対象外とみなしていたということなのではないか。


「直、眉間にシワ寄ってるヨ~~」


 しばし考え込んでいると、ディーノさんにからかわれた。


「お店までの道中、会話がほぼないネ?」

「はい…。もうこの段階で脈なしだったのかと…」

「う~ん。僕はまだこの段階では脈なしとは思わないネ。相手を意識すればするほど緊張するものだし、発言にも慎重になる。アプリに慣れてないとなおさらネ」

「百花さん、冒頭で『デートを楽しみにしてた』って言ってた。直くんの第一印象が悪かったら、そうは言ってないと思うよ」

「それに、お店に到着した後も『素敵なお店だ』って言ってる。だから、お店のチョイスも彼女にはハマってたと思うヨ」


 なるほど――ニナさんとディーノさんの言葉は、俺にとってかなりの説得材料だった。


「でも、ここで女子的に引っ掛かりポイントがあります!」


 トモミさんは勢いよく右手を突き上げ、自身の主張を繰り出す。


「ガーリックのメニューをおすすめする男子は、良くないと思います!」

「私もトモミと同意」


 ニナさんもうんうんと激しく頷く。


「あ……におい…ですか?」

「そう!女の子は本当に気にする。意識している男性の前だと、とくにね」

「それが決定的なNG要素になったとは思わないけど、こういう気遣い大事だよ!」


 こうした女性ならではの意見は、自分では絶対に気づけないのでとてもありがたい。


「キミが食べたラザニアをおすすめするほうがベターだったネ。でも、彼女にも好き嫌いがあるだろうから、ここで料理の好みについていろいろ聞いておくとよかったかもネ。次回のデートでも活かせるし」

「なるほど。次のデートではそうしてみます!」

「ところで、本題の彼女にとって決定的に脈なしになった瞬間についてだけど…」


 俺はディーノさんが次に発する言葉を心して待った。


「これ!という決定打はないネ!」


 ――ないんかい!


 心の中で盛大に突っ込んだ。


「決定打はないけど…会話運びのセンスのなさが原因だネ」

「会話運び?」

「さっき、トモミちゃんとニナちゃんも言ったように、ネガティブな話題はデートの雰囲気をどんよりさせるし、恋愛感情が生まれる余地もない」

「はい」

「だから、早い段階で話題の転換をしたほうが良かった」


 百花さんとのデートの核心に触れた気がした。


 彼女が気持ちよさそうにトークを繰り広げていたため遠慮してしまっていたが、話を変える勇気を持つべきだったと思った。


「恋愛感情を育てるには、お互いに感情の交換をし合うことが大事だと僕は思ってて」

「感情の交換……ですか?」

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