16話『Mission6 初デートは質問攻め!【後編】』
「……はい。百花さん……ですか?」
「はい。百花です」
正面から見た百花さんの第一印象は、可愛いというより、クール。
タイトなジーンズを履いていたことと、顔立ちが全体的にシャープで、切れ長な目をしていたからだ。
写真と本人とでは、少しイメージが違うように思った。
ただ、相手も俺に対して同じように、少なからずギャップがあると思っていることだろう。
「今日はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
「「……………」」
2人して沈黙する。
「お店に……向かいましょうかね?」
俺は自分から切り出す。
お店へのルートは、地図なしでもバッチリ頭に入っている。
「はい。今日、とっても楽しみにしていました。行きましょう」
「お店はこっちです」
到着するまで、道中の会話は……ほぼゼロ。
「こっちです」「あっちです」などのナビゲーションに対して、「はい」「ありがとうございます」といったやりとりのみ。
俺はスムーズに道案内することに全集中していて、会話に気を配る余裕がなかった。
そして、百花さんも慣れていないのか、俺に興味がないのか……。
一切、話を振ってこなかった。
外苑前駅付近は、土曜日ということもあって混雑していた。
幸いにも、その喧騒のおかげで「沈黙してお通夜状態」といった空気ではなかったと思う。
お店に到着すると、満席状態だった。
だが、予約済みだったので、席にはすんなりと案内された。
「百花さん、何をオーダーされますか?」
「え、全部美味しそう…悩んじゃいますね!」
先ほどとは打って変わって、明らかに彼女のテンションが上がっているのを感じた。
お店はとてもおしゃれで雰囲気が良いし、メニューだって一味違う。全国チェーンのレストランとはわけが違うのだ。
俺は、なんだか自分が褒められているようで、少し誇らしい気分になった。
「僕のおすすめは『ズッキーニとベーコンのペペロンチーノ』です。ズッキーニは今が旬ですし、ガーリックも絶妙に効いていて。とっても美味しいですよ」
先日、自分が食べたのと同じメニューを、彼女におすすめした。
「ガーリック……そうですね。美味しそうです。直さんのおすすめにします!」
「美味しさは、保証しますよ」
「直さんは、何にしますか?」
「僕はラザニアにします」
俺は、ディーノさんが以前オーダーしたメニューをチョイスした。
「素敵なお店ですね」
オーダーを終えると、彼女のほうから話しかけてきた。
「そうですよね。先日はじめて来たんですが、とてもお気に入りのお店になりました。表参道のあたりはよく来るんですか?」
「はい。家が近いわけではないんですが、おしゃれな雰囲気が好きで」
「そうなんですね。ご自宅はどちらなんですか?」
「小田急線とJR横浜線が通ってる、町田駅です」
「町田駅?どんな街なんですか?」
「そうですね…あまり治安が良くないですかね(笑)」
「え…?具体的にどんなところが?」
「客引きが多いし、汚いし、ネズミとかもいるし」
「それは治安が良くないですね…住み続けてる理由とかあるんですか?」
「街自体は栄えているので便利なのと、職場が近いので」
「百花さんは看護師ですよね?」
「そうです」
「僕、周りに看護師の友人がいなくて。看護師ってどんなお仕事なんですか?」
「一言で言うと……“カオス”です」
「カオス……というと?」
「シンプルに仕事量が多いです。ドクターの診療の補助はもちろん、患者さんのお世話と病状確認、精神的なケア、加えて、事務的な対応も必要です。ほっと一息つける瞬間がなくて、しんどいです。
それから、同僚との関係もナーバスになります。看護師ってプライドが高くて、主張が激しい人が多いので、しょっちゅうぶつかります。ドクターとの色恋でいざこざもあって。つい先日も……」
百花さんの看護師あるあるトークが止まらない。
俺が質問する隙もなく、弾丸トークを繰り広げている。
ディーノさんの言った通りだ。女性とは、おしゃべりな生き物なのだ。
オーダーした料理がきてから、食べ終わるまで――ほぼ仕事の愚痴トークだけで終わった。
俺はうまく相槌を打ちながら、とにかく気持ちよく話せる相手でいることに徹した。
それが功を奏したのか、彼女からさまざまな表情を引き出すことができた。
お互いの会話運びも、とても自然だったと思う。
――百花さん、俺に気を許してくれたんだな。
かなりの好感触を持った状態で、初デートは終了した。
帰宅後――。
俺は、ボイスレコーダーを片手に今日一日を振り返り、満足感と達成感に浸った。
聞き役に徹するだけで、あれほどうまく女性とコミュニケーションが取れるとは。感動すら覚えている。
俺には麗香さんという、心に決めた相手がいる。だが、百花さんからも同時にアプローチされる可能性が高い。
それに、来週の週末は、また別の女性との初デートの予定が組まれている。
今の自分なら…複数女性から言い寄られてしまうかもしれない。
根拠のない自信が湧いてきて、モテる自分への妄想が止まらない。
――麗香さん、こんな俺をどうか許してください…!
俺は自宅の天井に向かって祈った。
そして、百花さんに今日のお礼と、次回デートへのお誘いのメッセージを入れた。
『今日はありがとうございました!とても楽しかったです』
『もしよろしければ、ぜひ、また表参道近辺でご飯に行きませんか?』
しかし――1日、2日、3日経っても、返事はない。
そして、5日経ってようやく、俺は百花さんとの初デートが失敗に終わったのだと悟った。




