15話『Mission6 初デートは質問攻め!【前編】』
カタカタカタカタ――。
俺は、いつも通りに仕事をこなす。
だが、今日は心中穏やかではない。朝からずっとソワソワしている。普段通りを装うのに必死だ。
とうとう明日――人生ではじめて女性とふたりきりでデートをするのだ。
相手の女性は、百花さん。28歳。看護師。
性格は、ハキハキしていてよくしゃべる、活発なタイプ。
趣味は、友達との旅行、猫カフェ巡り。
好きなタイプは、頼りがいのある優しい人。
すべてプロフィールに記載してあった情報だ。
ほとんどメッセージのやりとりをしていないから、最低限の情報しかわからない。
写真は、猫カフェで猫と戯れる様子を1枚、ディズニーランドでの1枚、旅行先と思われる場所での1枚の計3枚をアップ。正面ではなく横からのカットのみだが、柔和な笑顔が印象的だった。
プロフィールに記載された性格通り、外向的なタイプと予想している。
メッセージでは、初デート場所を決めるやりとりだけした。ディーノさんの指南通り、デート場所は自分から提案した。いくつか候補を出したのだが、彼女が行きたいと言ったのは、先日ディーノさんと訪れた外苑前のCafé&Restaurantだった。
店の雰囲気はデートに申し分ないし、道に迷う心配もない。かなりありがたいチョイスだった。
そして、メッセージのやりとりを終えてから1週間が経とうとしている。
この空白の1週間が、俺を無性に不安にさせた。
明日、本当に彼女は来るのだろうか。
リマインドが必要ではないか。
メッセージで心をつなぎ留めておく必要があるのではないか。
そうした不安を、すべてニナさんとトモミさんにぶつけた。
新橋で4人で飲んだあの日――。
酔っぱらっていて記憶はないのだが、LINEグループを勝手に作られていた。
ニナさんとトモミさんは、俺の恋の行方が気になるようで、「進捗は逐一報告するように」とのお達しがあった。
せっかくできた女性の知人だ。
抱いているこの不安を相談しない手はないと思った。
だが、ふたりからの返事は「追いメッセージをする必要はない」だった。
理由は、「必死さが重いから」とのこと。
『世の女性は百花だけじゃない。仮に彼女が当日ブッチしても、次にいけばいいだけのこと』
と、あっけらかんとしていた。
実は、“次”の候補はまだいる。
ニナさんとトモミさんが勝手にメッセージを送った5人中、初デートへの前向きな返事をもらえたのは3人。百花さんはその中の一人で、もっとも早くデートの調整ができた人だ。
残りの2人も日程調整中で、おそらく来週、再来週で初デートをすることになるだろう。
加えて、この3人の女性とは別の女性からも「会ってみませんか?」とのお誘いを受けている。
正直……俺は気持ちが全然追いついていない。
女性とふたりきりで会うというシチュエーションにまったく慣れていない自分が、立て続けにその場面に追い込まれている。
状況だけみれば喜ばしいことだが、重すぎるプレッシャーに押しつぶされそうだ。
俺はデスクで頭を抱えた。
ポン、ポン、ポン――。
社用のスマホが、チャットの受信を連続で通知した。
何気なく開くと、なんと麗香さんからだった。
『お疲れさまです!』
『新卒採用ページの件、大河内くんを推薦したら、人事部、満場一致でお願いしたいということになりました!』
『内容としては、インタビューと撮影をお願いしたいと思ってます』
『依頼を引き受けてもらえるようであれば、インタビュー内容や日程などの詳細をお伝えしますね。いいお返事待っています!』
俺は思わず天を仰いだ。
――もうこれ以上、俺の感情をかき乱さないでくれ!
しばらく天井とにらめっこしていると、和也が話しかけてきた。
「おい、どうしたんだよ。今日。お前、変だぞ?」
「……あー。まあ……気にしなくて大丈夫。なんか今日、頭働かなくてさ」
適当に返事をした。
すると、和也が俺の社用スマホを覗き込んできた。
「おい、見るなよ!」
「原因はこれか?採用ページとか面倒だよな」
「いや、別にこれが原因では…」
「俺もさ、棚橋先輩から直接頼まれてさ。お互い未来の後輩のために頑張ろうな!」
――直接…だと………?
コイツ、そんなに麗香さんと親しかったか?
いや、俺の知る限り接点はほぼない。直接話す間柄?いや、たまたまフロアで会ったから?
俺は、キッと和也を睨む。
和也は俺の視線に気づかず、鼻歌を歌いながら上機嫌といった感じでパソコンに向かっている。
――コイツは、ライバル予備軍かもしれない。
俺は、一瞬で目が覚めた気がした。
一刻も早く恋愛IQをあげなくてはならない。
冷静さを取り戻した俺は、その後は変な緊張感を持つことなく1日を終えた。
◆
翌日――。
11時。俺は外苑前駅に来た。
約束は11時半。30分前に現地に到着した。
今日を迎えるにあたり、ディーノさんから与えられたMISSIONがある。
それは、「自分の話は一切せず、相手を質問攻めにする」こと。
俺は女性を相手にすると、自分語りをしてしまうところがある。しかし、自分の話をするのは我慢し、相手から聞かれた場合のみ答えよ、とのお達しだ。
ディーノさん曰く、女性は、話したい、聞いてほしいという人が圧倒的に多いらしい。
とくに、看護師の女性はそういう傾向が強いというのがディーノさん統計だ。
だから、今日は相手の話をめいっぱい聞いてあげようと思っている。
そして、ディーノさんからの指示がもう1つ。
それは……「会話をこっそり録音して記録しておく」こと。
録音してデートを振り返ることで、自分の話の癖、相手が喜ぶポイントが見えてくるから、とのことだった。
しかし、この指示に関してはだいぶ葛藤した。これは倫理的に良いのだろうか――と。
録音するなら、相手に断ったほうが…と思った。
今日、家を出る瞬間まで悩んだが、俺は腹をくくった。
ボイスレコーダーのスイッチはON。カバンの中に忍ばせている。
約束の時間まで、残り5分――。
ドクンドクンと自分の胸の鼓動が大きく、そして尋常ではない速さで高鳴るのを感じた時。
ふいに声をかけられた。
「すみません。直さん……ですか?」




