11話『Mission3 デート場所をストックせよ!』
「どういう意味ですか?」
「もし好きな相手と初デートに行くとしたら、どこに連れて行く?」
「そうですね…相手と相談したいので、どこに行きたいか聞きますかね」
「No!回りくどいヨ!その優しさ、いらナイ!」
「え……そうですか?」
「『初デート、どこにします?』『行きたい場所あります?』は、相手に提案してくれって押し付けているわけでショ?希望ある子や、ちゃんと主張できる子ならいい。でも、そういう女の子は多くない。困らせちゃうヨ」
「なるほど」
「初デートはとくに、男性側のリードがマストだヨ」
俺はすかさず、恋愛指南書に書き留める。
「で、キミから提案するとして、どこに行く?」
「自分が提案するなら…水族館とか映画館ですかね。アニメとかドラマとか見ていても、定番のデートスポットですし。理想的だなって!」
「中高生の恋愛みたいだネ」
「……」
自分の理想をバッサリと切り捨てられ、正直少しムッとした。だが、ぐうの音も出ない。
「僕は、映画館や水族館みたいな体験共有型のスポットには、恋人になってからいくらでも行けばいいと思ってるんだよネ」
「じゃあ、付き合う前はどこに行けばいいんですか?」
「おしゃれなカフェやレストラン、一択」
「どうしてですか?」
「付き合う前の男女に必要なのは、甘いムードと対話、それから程よい緊張感。カフェやレストランは、そのすべての条件を満たしやすい場所だと、僕は思ってる」
「……なるほど。初デートは相手との距離を縮める時間にしたほうがいい、ということですね」
「そう。体験スポットって、恋人として相手を意識するというより、友達として『一緒にいて楽しい』で終わる。もちろん、体験をきっかけに相手を好きになるケースもあるけど、勝率は圧倒的にカフェ、レストランだネ」
この時、ちょうど目の前にオーダーしたメニューが届いた。
俺はズッキーニとベーコンのペペロンチーノ、ディーノさんはトリュフがたっぷりのったラザニアだ。
ディーノさんは嬉しそうに笑みを浮かべながら、両手を合わせる。
そして、「いただきます」と言って丁寧に会釈をしてから、食べ始めた。
俺もその言動を真似て、一口。
「美味しい……!」
「立地も雰囲気も、食事も申し分ない。ここなら、初デート場所として自信をもってレコメンドできそうだネ」
俺は、ようやくディーノさんがわざわざこの店に連れてきてくれた意味を理解した。
「……ありがとうございます」
「エ?ナニが?」
「俺の初デート場所の候補として、リサーチを兼ねてこのお店を選んだんですね」
「まあ、僕自身のリサーチのためでもあるけどネ」
「ディーノさんはどれくらい、デートのお店候補のストックがあるんですか?」
「東京23区全域にあるヨ。とくに重点的にリサーチするのが、主要なデートエリアだネ。渋谷、恵比寿、新宿、表参道、六本木、銀座あたり。このエリアは、食事のジャンルごとにそれぞれ10軒以上は、候補出せるかナ~」
俺は、というと――1軒も出せない。
巣鴨近辺のお店事情なら、かなり詳しい自信はあるのだが。おしゃれ、とは程遠い店ばかりで、デートではおそらく使えそうにない。
「ファッション、メイク、カフェやレストランのリサーチ……学ぶべきことが山積みですね……」
「いい男を磨くための勉強も大事だけど、キミに圧倒的に足りてないのが実践。もしかして、いきなり本命にアタックしよう、とか考えてたりしないよネ?」
「…………(笑)」
「いくら外見がよくなったって、この間のレイナちゃんとの実演レベルだと話にならないヨ~~」
「……経験値ってどうやって上げたらいいですかね?」
「簡単だヨ。マッチングアプリ」
本命がいるにも関わらず、マッチングアプリを入れろということか……。
正直、それには抵抗がある。彼女――麗香さんに失礼だし、マッチングアプリで出会った女性に対しても失礼だ。
俺が何も言わず黙っていると、「本命の彼女に失礼だとか思ってる?」と、まんまと思考を読まれた。
俺は黙って頷く。
「まだ付き合ってもないのに、キミ、おこがましいヨ!」
「おこがましい……」
「キミの想い人は、恋愛経験ゼロのキミでも落とせるレベルの人なノ?」
「絶対にそれはありえないです!ビジュアルも内面も、エベレスト級です!」
勢いあまって、自分でもわけのわからない例えをしてしまった。
案の定、ディーノさんに「エベレスト級…?」と突っ込まれ、ニタニタ笑われてしまった。
「エベレストに挑戦したいなら、まずは標高の低いところから登頂成功の経験を作らないとでショ?」
「……そうですね。いきなりは無理です」
「ほら。今、アプリ入れて?」
言われるまま、俺はマッチングアプリをDLした。
「マッチングアプリはネ、写真、命だヨ。大学の頃とかのイケてる写真ある?」
「……」
俺は無言で、写真フォルダが表示された状態のスマホをディーノさんに渡した。




